エピローグ
エピローグ
■■■ 惑星テロン ■■■
「マルガリータさま、本日もご尊顔麗しく」
キスリングにやって来たリークァイが、やけにへりくだって挨拶した。
最初、「小娘」呼ばわりしていたことを想うと、隔世の感がある。
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探索艦隊は再びテロンへ回航していた。
前回の反省で、合意が成立したからといって放置しない。
略奪停止の履行を、きちんと監視することにしたのである。
ザッカウ-1の破壊により、テロン政府は現時点で、星間航法船を所有していない。
しかし、難破船の発見から数百年。技術文書の解読により、理論物理学は相当に進歩している。
油断はできない。それが「星の人」の判定だった。
一方、テロン側としては、新しい月の落下が、深刻な脅威である。
ラグランジュ点から外された小惑星は、ゆっくりと、しかし確実に、惑星への落下に向けて、軌道を変化させている。
「本当に、忘れずに、百年後に動かしてくれるんですよね!?」
頼むから、定期的に顔を見せに来て欲しい。
ということで、当面の間は毎年、テロンを査察することになった。
ファントゥ家が中心となって
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ちなみにシュリアとアユーシは、再び別れ別れになった。
コロニー破壊に手を貸したシュリアは、クロードの民に合わせる顔がない。
なので、他の軍人たちと一緒に、テロンに戻してもらったのだが。
アニクの娘であることが明らかになり、軍は除籍。もう宇宙には行けない。
庶子として、肩身の狭い生活を送ることになる。
アユーシは、シュリアと再び別れたのが、悲しかった。
テロンガーナの屋台を、全て食べ尽くせなかったのも、心残り。
マルガリータに相談すると、
「惑星テロンを毎年査察しますから、それを手伝ってください」
と言ってくれた。
その時に、シュリアとまた会えるかもしれない。
“そうしたら、チャリタも呼んで、3人でご飯を食べよう”
今は、それを励みにして、
ダハムを助け、厳しい開拓作業に邁進している。
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「それで第一天使さま。
本日は、少しお耳に入れたいことがございまして」
再び深々とお辞儀してから、リークァイが言った。
彼が自らやって来たのは、定期査察とは別の話をするためだった。
マルガリータは、今やテロン人に「第一天使」と尊称されている。
女神ウルカに、至近に付き従う、天使たちの頭領、という位置づけである。
交渉は情報軍の仕事なので、テロン人に会うのはマルガリータだけ。
ウルカ(マリウス)が、交渉の席に顔を出すことはなかった。
となれば、マルガリータの権威が高まるほど、その言質を利用しやすくなる。
ファントゥ家がしきりと「宣伝」して、マルガリータを第一天使の地位に祭り上げたのだった。
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「実は娘のシゥリーを、アニクどののご子息に嫁がせる話を、しておりまして」
「アラディブくん、まだ6歳ですよね?」
「貴族ではよくあることなのです」
「そうなんですか」
リークァイ、茶を一口飲む。緊張している。
「嫁ぎ先で、娘が苛められないかと心配でして」
「ああ、それ、地球のドラマで見たことがあります!
料理の味付けとか、掃除の仕方とかで、叱られるんですよね?」
「ええ、まあ、そのようなことです」
“うちの娘が、そんな女中のようなことをするかっ”
と心中で突っ込んだが、表情には一切出さず。
「そんなに娘さんが心配なら、
いつまでもお手元に置かれたらいいのでは?」
「いえいえいえ! もう後戻りできないのです!」
リークァイは慌てた。ここで婚姻を否定されてはたまらない。
「ついては、その、
娘をサポートする家臣を、一緒に送ろうと考えておるのです」
単性の「星の人」にとって、結婚という制度は、興味もないし、理解が及ばない領域である。
政略結婚の狙いも影響も、よく分かっていない。
「そうですか~。仲良く暮らせるといいですね」
この言葉にリークァイは、心の中で
この後。
リークァイは、「第一天使の承諾を得た」として、婚姻を強引に進めた。
神託の月での騒乱の後、アニクは当主の地位をアラディブに譲り、引退していた。
そこに、王女シゥリーが、家臣団を引き連れて、嫁いできたのだ。
惑星テロンの歴史は、統一王朝の成立へと、大きく動き出したのだが。
自分の何気ない一言が、そんな大影響を与えたという自覚は、マルガリータには、全くなかった。
■■■ 「星の人」 ■■■
マリウスは、士官会議後の雑談で、自身の「帝位を目指す」宣言を披露したのだが、周囲の反応は「へぇ~」くらいの薄いものだった。
ほとんどの「星の人」は、皇帝のことなど意識せずに生きている。
「そもそもさ、どうやって成るんだ? 皇帝って」
ジルに問われて、マリウスはしばらく右頬を撫でていた。
「・・・分からない」
「先輩はご存じですか?」
「さあな。詳しくは知らん」
育成師団では、勝利と生存に必要なことは、実技込みで徹底的に指導される。
逆に、「必要ない」と判断されたことは、触れる機会すらない。
兵士たちにとっては、同じ艦で暮らす人々が、生活圏。
士官になると、意識する範囲は広がるが、せいぜい軍団長まで。
「御真影」が、艦内に掲げられることもなく。
名前すら覚えているか怪しい、という状況だった。
「まさかと思いますが、タカフミ、知ってますか? 成り方を」
「血筋は、関係ないんですか?」
「チスジ? ああ、肩のお肉ですよね」
「・・・それはミスジです」
血統は関係ないらしかった。
「皇帝になると、なんかいいことあんの?」
「自由に戦争が出来る」
「まずはその認識を改めなさい!」
と、マルガリータに突っ込まれていた。
結局。
「まあ、頑張ってくれよ。俺たちも応援するから」
というジルの言葉で、士官会議は散会になった。
■■■ コロニーの丘の高みより ■■■
クロードの民の一団が、丘を登っていく。
山頂の聖墓にたどり着くと、管理するザッカウMIが告げた。
「電力喪失で、遺体を維持できません」
「マリウスに言われたよ。彼らを弔うように」
「・・・分かりました。
聖墓を、解錠します」
冷気が、白い霞となって流れる中、ダハムは聖墓に足を踏み入れた。
指揮官のケースの前で、ダハムは白い上着を脱いだ。
執政家の格式に恥じぬよう、精一杯頑張って仕立てた、立派な上着だった。
値知れぬ高価な布地で、指揮官を包む。
クロードの民は、文字通り着の身着のままで、この惑星にたどり着いていたが、皆、ダハムに
遺体を荼毘に付す黒い煙が、終日、丘を覆った。
**
御使いたちを弔うと、クロードの民は、聖墓やザッカウ-1の船体を解体した。
未開の惑星を開拓する――いやその前に、まずはサバイバルする――ために。
そして、丘の上に小さな祠を建てると、そこに女神ウルカの像を祭った。
慌ただしい移住。慣れない地上での生活。
そうしたことに、ようやく「開拓団」が慣れた頃には。
彼らがかつて宇宙で、コロニーで、生活していた
もはや何も、残っていなかった。
クロードの民の前に立ち塞がった、数々の厳しい試練は、
嵐のように、彼らを翻弄した後、消えていったのだ。
しかし――
微笑を浮かべた、女神ウルカの像だけは、
彼らが「コロニーの丘」と名付けた、高みの上から、
今日も静かに、クロード開拓団を、見守っている。
✼••┈「司令!海賊追うのはいいですが、
暴力は控えていただけますか!」┈••✼
【完】
司令!海賊追うのはいいですが、暴力は控えていただけますか! 蒼井シフト @jiantailang
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