第4-3話:臨検

 ダハムたちが緑のコンテナを注視していると、星空がゆがんだ。

「おかしい、次のゲートはもっと先のはずだが?」

 ブリッジ内に、訝しむ声があがる。


「何かがワープアウトします。近い!」

 ダハムは危険を感じた。

「いったん『恵み』を離せ」

 船長は応諾したが、ヴィジャイが不平の声を上げる。


「そんな、もったねぇ!

 これがあればテロンの連中だって・・・」

「無礼者! 黙らんか!」

 すっかり髪の白くなったグルディープが、ヴィジャイを叱りつける。

「なんだよ! 『恵み』と交換であれこれ手に入れるのも、当主の仕事だろ」

「それをお前ごときが口を出すんでない!」

 口角泡を飛ばす勢いで怒鳴りつける。

「爺や、落ち着け、心臓に悪い」

 ダハム、背中を軽くたたいて落ち着かせる。


 ブリッジのメンバーが見守る中、探査機のようなものが出現した。

 電波の照射。周辺宙域を探知している。

“これは前哨だ。次が来る――”

 ダハム、この宙域からの離脱を下命。


          **


 最初に「女神の星」恒星系にワープアウトしたのは、前哨=無人の偵察機だった。周囲をアクティブスキャンし、ザッカウ-1や輸送コンテナの位置を通報。


「コンテナは略奪されたのか?」とジョセフィーヌ。

「まだです。コンテナの至近、10メートルの距離を慣性飛行中」


 航法担当のソティスが、前哨の通報をチェックし回答。ブリッジ内でもひときわ背の高い痩身の周りに、空中ディスプレイを5つ表示させて、あれこれ見ている。

「ふん。現行犯ではないのか。

 まあいい。まずは停船させろ」


          **


 ザッカウ-1がコンテナ群から離脱しようとした時、すぐ近くに、大きな艦影が出現した。ザッカウ-1の3倍ほどの長さがある。


 艦の表面には、大小さまざまな突起があり、でこぼこしている。

 折りたたんだアームのようなものも背負っている。

 ザッカウ-1の右舷後方から、接近。


 「でこぼこ」が、何かを高速で射出した。魚雷のようなそれらは、たちまちザッカウ-1を追い越し、分裂。進路をふさぐように展開した。

 衝突の危険。ザッカウ-1のエンジンが、進路とは逆方向への落下状態を作り出し、強引に減速。微速前進となる。


 すると「でこぼこ」と挟みこむように、左舷前方にもう一つの艦体が出現した。

 建設現場で遭遇した艦だった。ほとんど凹凸のない、滑らかな紡錘形。黒い。

 全く衝突を恐れない様子で、ザッカウ-1の船首を削り取るように近づいてくる。

 ザッカウ-1は停止に追い込まれた。後方の「でこぼこ」も接近。


          **


 キスリングの上部にある巨大なアームが回転・伸長して、ザッカウ-1を掴んだ。

「海賊船、固定しました」

 ソティスが報告。

「現行犯ではないからな。今はまだ、容疑船だ」

「はい!」

「臨検を行う。移乗用意!」

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