第4-4話:悲鳴

「痛い痛い痛い!」

 エスリリスの格納庫に、マルガリータの悲鳴が響き渡る。

 ハーキフがマルガリータに鎧を装着――というか、鎧に押し込んでいた。


「潰れる! ぎゃああ」

 マルガリータが暴れる。

「さっさとしろ!」

 ジルが怒鳴る。

「前が閉まらないんです」

「脇に押し込めよ」ぐいぐい。

「ひぃぃぃ!!」

 マルガリータは鎧から逃げ出した。


「無理ですって(涙)」

 胸を守るように腕を組む。涙目で訴える。

「誰の鎧ですか!」

「マリウスのだ。背格好が同じだから行けると思ったんだがな」

「入るか! 全く隙間がないじゃない!

 無茶言わないで!」


 マルガリータ、左手のパネルでジョセフィーヌを呼び出す。

「先輩が行ってくださいよ~」

「ダメだ。交渉事は情報軍の仕事だろう。

 追い出された私には、権限がない。

 お前が行くしかないんだ」


 ジルが頭をかきながら言う。

「仕方がない。

 ブリオ、お前の鎧を貸してやれ」

「はい」

「ギリク、ハーキフ、お前たちでマルガリータを連れていくんだ」


          **


 マルガリータを連れて機動歩兵がエスリリスを飛び出すと、キスリングからも緑色の鎧の一団が飛び出してきた。


 ザッカウ-1のエアロックの前で集合。

 緑の中で、ひときわ小さい鎧が、マルガリータに会釈して言った。

「セネカです。臨検の現場指揮を執り、情報軍の交渉を支援します」

 マルガリータ、にっこり微笑む。

「よろしくね、セネカ」


 次いで、セネカは機動歩兵の2人に向き合う。

「お前たちはギリクとハーキフだな?」

「なんで艦隊派が鎧を?」

「ふっ。それは私たちがぁ」

 腰に腕を当て、親指で自分を指して、芝居がかったポーズを決める。

「『海賊群』だからさ!」


 エスリリスのブリッジでも、機動歩兵たちの通話が共有されていた。

 聞き慣れない用語に、タカフミが質問する。


「海賊群!?

 私掠船みたいなものですか?」

「私掠船って何だ?」

「国家公認の海賊、みたいなものです」

「地球にはそんな制度があるのか?

 驚きだな。


 海賊群は全く異なる。海賊を取り締まる部隊だ。

 迅速な取締執行のため、艦隊派、機動歩兵、情報軍が統合されている。

 正式名称は対海賊戦術群、略して『海賊群』だ」

「紛らわしい略し方ですね・・・」


          **


 キスリングのブリッジから、ソティスが無線で呼びかける

「こちらは帝国のキスリング。臨検を行う。エアロックを開けるように」


 応答はない。何度か呼びかけるが、エアロックは開かない。

 セネカ、スパナのような工具で、エアロックをガンガン叩く。

 それでも反応はない。エアロックは微動だにしない。


「あれ? 開きませんね?」

 セネカもソティスも他の隊員も、不思議そうな顔をする。

 帝国が臨検を命じたら、エアロックが開くのが当たり前、と心の底から信じているのだ。


 その結果、到達した結論は、

「きっと、エアロックが壊れているんでしょう」

「しょうがないなぁ。では、開けてやるかぁ。キスリング、頼むぞ!」


 警棒くらいの小さなミサイルが、キスリングから発射された。

 レーザー砲しか搭載されていないエスリリスとは異なり、キスリングには、様々な物理弾が搭載されている。


 エアロックが爆破され、人一人が通れるくらいの穴が開いた。

「よし、突入」

 爆破の様子を見て、タカフミは頭を抱えた。

「どっちが海賊なのか分からない・・・」

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