第8-9話:追跡④ー復讐成就

 ハーキフを見張り台に残し、ギリクはおやつを取りに来た。

 箱2つを受け取って、見張り台に戻ろうとすると、仲間の一人が呼んだ。

「おいギリク、お前のは、これだ」

 見ると、1つだけ「ギリク」と書かれた箱がある。

 箱の表面が、赤白に点滅して、注意喚起している。


“なんで俺だけ?”と怪訝に思いながら、箱を受け取る。

 開けてみると、手紙と、丸いお菓子が入っていた。

 手紙はマルガリータから。「あの時はありがとう」と書いてあった。

 お菓子は、手を思い切り広げた時の、親指と小指くらいの幅がある。


「なんでお前のだけ、デカいんだよ!」

「いいな! 1個くれ」

 すかさず伸びてきた手を振り払う!

「触るな! これは俺のだ!」

“なんだ、マルガリータ、優しいなぁ。心配して損したぜ”

 鼻歌を歌いながら、おやつを持って行く。


          **


 アニクの館に向かう途中、タカフミはギリクが、座り込んでいるのを見た。

 打ちひしがれている。負傷でもしているのか?

「どうした、君」と声をかける。

 ギリクは払いのけるような仕草をしたが、相手が士官と気づいて、居住まいを正した。

「俺の・・・」

 思わず涙ぐみそうになり、咄嗟に目を覆う。

 わざとらしく瞬きして、目にゴミが入ったかのように振舞う。


「俺のどら焼きが・・・


 皮だけだったんです」


 森林公園では、マルガリータが空を見上げて、にんまり笑う。

「ふっふっふ。

 ギリクは今頃、絶望の淵に沈んでいることでしょう」


          **


 タカフミは“そんなことで・・・”と思ったが、言葉を飲み込む。

 自分のを1個、ギリクに渡した。


「い、いいんですか?」

「ああ」


 個装を剥いて、かぶりつく。

「これ、美味ぇ!!

 ありがとうございます、タカフミ」


 元気になったのを見届けて、館に向かおうとする。すると。


「それは何ですか?」

 緑色の鎧が質問してきた。背が低い。

「セネカ! なんでお前がここにいるんだよ」

「お前たちがしっかりしないから、応援に来てやったぜ!」

「呼んでねぇよ!」


 セネカはギリクを無視して、もう一度、聞いてきた。

「それは何ですか?」

 タカフミ、1個をセネカに渡す。

「ありがとうございます!」

 セネカ、一礼。バイザーを上げて、かぶりつく。

「ふぁ! この黒いの、甘い!

 あ、中にホクホクするものが入っているぞ?」

「何!? 半分寄越せ」

「渡さないよ」

「じゃあ、さ、さんぶんのいちで」

「猿が分数使うな。意味分かっているの?」

「なんだと!」

 ぼかすか。

「やめろ! そんなくだらないことで喧嘩するな!」


 その時、タカフミは、刺すような視線を感じた。

 振り向くと、鎧姿の堂島が立っていた。

「いいもの持ってますね」

「堂島! どうやってここに?」

「おやつを運搬するポッドに乗せてもらいました」


 視線が痛かったので、最後の1個を堂島に渡した。

「ありがとうございます!」

 たちまち、半分が胃の中に消える。

「お前の分はなかったのか?」

 もぐもぐ。残りの半分も消えた。

「ありました」

「・・・返せよ」

「食べた物を返せなんて、不当命令です。パワハラです」


 タカフミは、我に返った。こんなところで漫才をやっている暇はない。

 館に向かう。

「館に一人で行くのは危ないです」

 ギリクが止める。

「停戦交渉に行くんだ」

「じゃあ白旗を作りましょう」

 ギリク、いきなり鎧を開けると、自分のシャツを破った。

「俺も付いていきます」

「じゃあ、私も」

「ありがとう、諸君」

「おやつで私兵を募るなんて、桃太郎みたいですね」


 手製の白旗を掲げて館に近づく

「ところで、桃太郎って何なの?」

 堂島の帝国語は、語彙が限られている。

“鬼って帝国語で何だっけ?”

 知っている言葉で置き換える。

「海賊のアジトを急襲して、戦闘員を皆殺しにして、資源を奪う話」

「へぇ。胸のすくようないい話ですね」

「お前、太陽系に帰ったら、岡山県人に謝れよ」

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