第7-15話:偽装②―現行犯

「このまま群れから引き離すぞ」

 イフラスが指示を出し、ザッカウ-1が進路を変えた。

 輸送コンテナの間を縫って、網を引っ張り、緑のコンテナを運び出す。

 コンテナから、超電導バッテリーをいくつか回収したら、テロンに戻る。


“帰る前に、奴らのことを、確認しないとな”

 コロニーが故障し、追い詰められたクロードの民が「恵み」に手を出した。

 というシナリオだ。

 その嘘を暴く者が、いてはならない。


          **


 輸送コンテナ群から離脱すると、宇宙服を着た数名が船外に出た。

 コンテナを開ける。内部には超電導バッテリーが2つ、格納されていた。

「両方、運び込め」

 1台目を船内に搬入。その時だった。星空が歪む。見張りが叫んだ。

「ワープアウトです!」

 ザッカウ-1と輸送コンテナ群との間に、前哨が出現。


“もう来たのかっ!”

 イフラスは歯ぎしりした。ここで逃げる訳にはいかない。

 前哨の破壊を下命。ミサイルが発射される。


 着弾直前、前哨は電磁パルスでミサイルの制御部を破壊。

 ミサイルは飛翔を継続。前哨は進路を変更して被弾を回避。

 ワープゲート越しに、周囲の状況をキスリングに伝える。


「コンテナ10個が奪われています。

 あ、1個もう蓋が開いてます!」

 ソティス、映像を見ながら報告。

「よし。現行犯だな。無警告で撃破するぞ。

 ワープアウト後、直ぐに転移する。臨検隊は移乗用意!」


          **


「あと4台は必要だ。次のコンテナを早く開けろ!」

 イフラス、無線で回収作業を急かす。

「またワープアウトだ! もう1隻、来ます!」

 見張りの叫びが終わらぬうちに、コンテナ群とは反対側に、キスリングが出現。

「捕獲網を切り離せ! 作業員と『恵み』は後で回収する。

 加速するぞ! 総員耐衝撃姿勢!」


 ダハムの話では、奴らは遠慮なく撃って来るはずだ。

 駆逐艦の主砲を見つめる。砲塔はまだ旋回していない。

 すると、駆逐艦の姿が、また消えた。

「え?」


「ひっ」悲鳴のような声があがる。

「本船の直ぐ傍にいます! 恒星方向!」

 キスリングは、超短距離のワープを実行して、ザッカウ-1の直近、わずか200メートルの位置に出現したのだ。

 宇宙空間では、ほとんどくっついているように見える。


 砲塔はまだ、動いていない。

 するとキスリングは、ミサイルを3本、立て続けに発射。

 もう一度、超短距離ワープを敢行し、戦域を離脱した。


「まさか、連続ワープだと!?」

 イフラスが、信じられない、という感じで叫んだ。

 ワープには膨大なエネルギーが必要なため、チャージ時間が必要なのだ。


 キスリングの連続ワープを可能にしたことには、2つの要因があった。

 一つは駅の活用である。

 最初のワープは、駅が作り出すワープゲートを利用したので、キスリング自身のエネルギーは消費していない。


 もう一つの理由は、主砲を使わなかったことだ。

 レーザーは大電力を食うので、主砲とワープの併用は困難。

 巡洋艦クラスには併用可能な艦種も存在するが、駆逐艦では不可能である。

 だが、ミサイルなら、ほとんど電力を消費しない。

 発射直後にワープすることで、爆発に巻き込まれることもない。


 キスリングが姿を消してから数秒後、ミサイルが立て続けにザッカウ-1に着弾した。

 外壁に空いた穴から、3発目が船内に飛び込み、炸裂。

 星間航法エンジンは大破し、機能停止。

 加速が止まり、そのまま慣性飛行。

 電圧が急低下し、船内は非常灯に切り替わる。オレンジの光が瞬く。

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