第7-16話―偽装③:魔眼

「敵、機関停止」

 キスリングMIは、戦闘シーケンスの終了を宣言。

「戦闘時間、13秒」


「あ、コンテナにいる人たちが、手を振ってます」

「セネカも手を振ってやれ」

 セネカが、格納庫から艦外に身を乗り出すと、既に小さくなった輸送コンテナの上で、作業員たちが必死に手を振っていた。

「おいっ! 置いていくな! 置いていかないでくれ!」

「助けろよっ! それでも船乗りか!」

 もちろん、叫び声は届かない。

「おーい」

 セネカ、言われた通り、手を振り返す。

「ばいば~い」


「助けないんですか?」

「時間とエネルギー、そして、

 残り少ない私の優しさの無駄だ」

 ジョセフィーヌ、コンテナで作業していた人たちは放置。

「よし、臨検隊、移乗!」


          **


 テロン宇宙軍は、宇宙での白兵戦など、経験したことがない。

 船内にバリケードを作って抵抗しようとしたが、警棒のような小型ミサイルで数か所に穴をあけられ、臨検隊がなだれ込むと、たちまち崩壊した。


「お前ら、不甲斐なさ過ぎるぞ。それでも海賊か!」

 ソティスに操艦を任せ、鎧姿で乗り込んできたジョセフィーヌが、怒鳴った。

 ワイヤーで縛られて、漂っている乗組員を、長い足で足蹴にする。

 顔を覗き込む。

「何だ? お前、何を着けている?」

 男は、耳にピアスを着けていた。小さいが、繊細な細工が施された上物だ。

 見ると、他にもピアスを着けた者や、指輪をしている者もいる。

「いいものを着けているな。お前たち、本当にクロードの民か?」


 テロンの地上軍(陸海空の三軍)は、勤務中の装飾品を禁止している。

 特権的に、宇宙軍だけは、装飾品が許されていた。

 こういうもので、勤務中も夜の街でも、羽振りの良さを見せつける訳である。


          **


 乗組員の中に、長髪の女性がいた。

「ん? 君は、アユーシではないか」

 ジョセフィーヌは、シュリアの頬に触れた。そして。


「にゃあ!?」

 シュリアが変な声を上げた。

 ジョセフィーヌが、いきなり左胸を鷲掴みしたのだ。

 揉みしだいた後、右の方も調べる。

「ふっ。偽装か。女に化けていたか。

 私の目はごまかせないぞ。

 見ただけで分かっていたがな」

「触ってから言うな!」


 黒髪を掴むと、かつらが外れた。

 ぽいっと投げる。

 黒い足を伸ばしたクラゲのように、かつらが船内を漂っていく。


 そして、フロントジップに手を伸ばした。

「や、やめろ!」

 後ろ手に縛られたシュリアが身を捩るが、抱きかかえるよう捉える。

 一気に腰まで前をはだけ、肌着をめくりあげる。

 乱暴な動きに、パッドが4個、宙に舞った。


「・・・」「・・・」

「・・・・・・」

 双方、無言。

 ちゃっかり、横から覗き込んでいた、軍人たちも無言。


 ジョセフィーヌは肌着を元に戻し、フロントジップを引き上げた。

 困ったような顔で、銀髪をかきあげようとして、バイザーに阻まれた。

「あー、まあ、あれだ。

 このことは、私の胸の中だけに、

 秘めておくから」

さらしてから言うなぁ~!」


 ジョセフィーヌ、シュリアの両肩に手を置く。

「心を強く持て!

 下には下がいるんだ!」

「・・・」

纏足てんそくの類の矯正が行われたんだな。

 大丈夫だ、君には未来がある」

「はぁ」


 指で、お椀のような形を作る。

「君のは将来、これくらいになる」

「え!? こんなに!?」

 シュリアは目を丸くした。

「そうだ。私には見えるんだ。希望を持て」


          **


「コンテナにいる人たちを救出してください」

 腕輪への通信。コカーレンが割り込んできた。

 駅MIは、建設母艦と同様に、「人命尊重、安全第一」が行動原則である。

 ジョセフィーヌは、心の中で舌打ちした。

 まったくこいつらは、お人よし過ぎる。

「海賊にかける情けはない」


「あ、でもこの人たち、国に帰れば、いいところの坊ちゃんなんですよ」

 今度はマルガリータが割り込んできた。

「そうなのか!?」

 ジョセフィーヌの顔が、ぱっと輝いた。

「運賃と慰謝料を請求するなら、頭数は多い方がいいな。

 ソティス、戻るぞ」


          **


 ジョセフィーヌは、マリウスに報告。

「操船していたのは、テロン宇宙軍だった」

「略奪の首謀者は、テロン政府か」

「くぅぅ! アニクめ~! 問いただしに行きましょう!」


 破壊されたザッカウ-1をコロニーまで曳航し、発着ポートに置くと、

探索艦隊はすぐに、惑星テロンに向けて、出発した。

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