第8-2話:迎賓館②ー包囲

「周囲に約60名。距離を詰めてきています」

 森林公園内の広場。ポッドに向かう。遮蔽物は無い。

 周囲の木立の中に、兵士の姿が見え隠れする。


「どうやら、マルガリータを人質に取りたいようです」とブリオ。

「殺すつもりじゃないの?」

「それならマルガリータは、もう死んでますよ」


 鎧3人に囲まれたマルガリータが、ポッドにたどり着く前に、周囲の兵士たちが立ち上がった。

 全員、小銃を抱えている。どう見ても「ちょっと挨拶に来ました」という感じではない。

 一斉に包囲網を狭めてきた。


          **


 あと100メートルほどに近づいた時。

 急に、兵士たちがバタバタと倒れた。

 一瞬、間を置いて、「うわっ?」「ぐぇっ」「ああーっ」といった叫び声が上がる。


「どれくらいなの?」

 マルガリータはブリオに聞いた。

「瞬間最大で10G。今は5Gかけてます」


 体重60キロであれば、急に600キロの重さが、足にかかったことになる。

 兵士たちが、地面でもがいている。

「あれとあれは、足が折れてます。

 血を吐いているあいつは、打ち所が悪かったんでしょう。

 折れた肋骨が肺に刺さってますね」


「5Gでも根性で攻撃はできるだろ。もっと上げろよ」

 機動歩兵の1人が言う。

「6Gを超えると、脳に血が届かなくなって死んじまう。

 これで十分、動きは止められる」

 ブリオは、ポッドに入るよう、マルガリータを促した。


          **


 その時、ばしゅん、という音がした。

「伏せて!」

 マルガリータ、ぱっと伏せる。

 鎧が1人、その上を覆った。潰さないように、肘・膝で体を支える。

 迫撃砲弾が、ポッドを目指して飛んできた。人工重力を受けてがくっと下がり、ポッドの手前に着弾。爆発。腹にずしりと来る衝撃。土塊が飛んできた。

 続けて何発か砲撃されたが、全て弾道を曲げられて、ポッドの周囲に着弾した。


「上昇できるの?」

「ダメです。空中で撃墜される恐れがあります」

「えーと、これってどういうこと?」

「そうですね。控え目に言って、

 絶体絶命ってやつです」

「きゃー!」


          **


「テロン軍、ポッドを砲撃しています!」

 地上監視していたエスリリスが報告。


 マリウスは、息を吐くだけで表情は変わらないため息を、吐いた。


「最初に大艦隊を見せる、というやり方を、情報軍は好まない。

 そのような砲艦外交は、長期的な友好関係にマイナスだから、というんだ。

 その結果が、これだ」

 タカフミを見る。

「やっかいなことだ♪」

 無表情だが、語調が嬉しそうだ。

「なんでそんなに嬉しそうなんですか!」


「マルガリータの救出作戦を実施する」

 とマリウスは宣言し、まず砲艦タキトゥスの艦長ネスタを呼び出した。

「テロンの航空戦力を無力化してくれ」

 駆逐艦キスリングの艦長ジョセフィーヌには、

「テロン宇宙軍の動きを封じてください。エスリリスの邪魔をされないように」

 ステファンには、

「防衛用の障壁と詰所を降下させてくれ」


 そしてジルを呼び出す。ジルは、格納庫に向かう途中で通話を受けた。

「機動歩兵を、完全武装で地上降下させる」

 ジルは、“とうとう地上戦になっちまったか”と思ったが、努めて明るく振舞う。

「おお。任せろよ。お前の分も暴れてくるから」

 マリウスは告げる。

「もしも、もしも、マルガリータの墓を建てる時は、

 テロンは廃墟になっていなければならない」

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