第7-13話:首都②―男らしく振舞う

 チャリタが、シュリアの仕事や、人間関係を教えてくれた。


「シュリアが男として生活できるように、サポートするのが私の仕事なので。

 職場のことも存じております。

 眠っておられる間に、ご友人から食事のお誘いがありましたが、断りました」


「シュリアに迷惑かけたりしませんか?」

「問題ありません。

 シュリアは、月に一度、謎の腹痛を起こす奇病の持ち主なので。

 今はその時期だとお伝えしました」

「・・・それ、本当に、ばれてないの?」

「大丈夫です。金持ちのボンボンと宇宙軍は、馬鹿ばかりですから」

 そんな状態で大丈夫か、テロン宇宙軍。

 アユーシは、他人事ながら、心配になった。


          **


 数日後。

「ちょっと、館の外に出てみたい」

「逃げませんか?」

「逃げないわ。逃げても、あてにできる人もいないし」

「いいでしょう。ちゃんと男として振舞って下さい」

 チャリタと2人で、外に食事に出かけた。


 都市の繁華街に、屋台が並ぶ大通りがあった。

 見たこともない料理が、たくさん並んでいる。

「シュリアの身分には似合いませんが、仕官時代に色々経験することも大事です」

 白っぽい麺を出す屋台を選んだ。ハーブの香りが食欲をそそる。


「軍人様、すみません、相席で構いませんか?」

「いいですよ」

 屋台に置かれたテレビでは、アニクの聖墓詣でが、大々的に報道されていた。

 テロン貴族として初めて、聖墓を訪問した。盛大な祭儀を執り行った、と。

 祭儀の報道の中で、女神ウルカの神像も、しきりと放映されていた。


 食べ終わり、あまりの美味しさに、“もう一杯いく!?”とアユーシが悩んでいると、

「あれ? シュリアじゃないか」

 という声がかかった。


 見上げると、テロン宇宙軍の軍人が3人。

 すでに大分、酔っ払っている。

「おい、シュリアが女を連れているぞ」

「聖人シュリアさまが!?」


 3人は、横柄な感じで道を横切って、近寄ってきた。

 シュリアと同じテーブルで食事中の客の肩を叩き、

「おい、ちょっと開けてくれ」

 と怒鳴って、邪険に追い払おうとする。


「いい気になるな!」

 客が、怯えながらも、3人にくってかかった。


 3人は、反抗されるとは思っていなかったのだろう。

 一瞬、呆けたような顔になり、それから怒り出した。

「俺に指図するな」

 客一人を取り囲む。すると。


「いつまでも、威張ってられると思うなよ!」

「お前らの天下は、終わりなんだ!」

 周囲の客が、3人を取り囲み、喚いた。

 屋台通りに、不穏な空気が立ち込めた。


          **


「店主、美味かった!」

 アユーシは敢えて大声で言った。

 立ち上がり、財布を取り出す。チャリタに渡されたもの。

 中には、手の切れそうな新札と、コインが詰まっている。

「金貨になさいませ」

 チャリタが耳打ちした。


 3人に集まっていた視線が、アユーシが取り出した金貨に吸い寄せられる。

「邪魔をした。一緒に払う」

 同席の客に告げて、金貨をテーブルに置いて、屋台を離れた。


「おい、待ってくれ、シュリア」

 つられるように、3人も屋台を離れる。

 大通りの空気が、ほぅっと緩み、再び夜の喧騒に戻っていった。


「最近、庶民どもが生意気で困るぜ。

 身の程知らずが」

「北大陸の奴らも、共和制の改革がどうのとか、ほざいているしな」

「飲み直そうぜ、シュリア」

 チャリタの耳打ちによると、この3人は「シュリア同期の3馬鹿トリオ」らしい。


「すまない、また今度な」

 3人の不満げな様子を見て、チャリタはシュリアの腕にすがり付いた。


「しまった! これからお楽しみか!

 邪魔しちゃったな」

「また今度な。約束だぜ」

「今日はシュリアも、女に興味があるって分かったのが、大収穫だったな」


          **


 3人の姿が見えなくなると、アユーシはチャリタに尋ねた。

「屋台は危険なんだね?」

「以前は平気でした。

 最近は、世情が不安定なんです」


 チャリタは夜空を見上げた。

「新しい月が、現れたから。

 女神さまが、新しい神託を下される。

 今、威張っている連中は、首になるに違いないと、皆、思っているのです」


“あの小惑星のせいで、こんなことになっていたのか”

 夜空に、ひときわ強い光を放つ2つの星が、輝いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る