第11-3話:マリウス、宣言する

 マルガリータが、女神像に取りついて、なにやら調べていた。


「この像に、扉を開ける仕掛けがあると思うんですよ」

「だからって、さすがにお尻にはないんじゃないですか?」

「甘いです!

 先入観に縛られていては、真実にたどり着けません!」


 サリーの裾をめくって、頭を突っ込んでいる。

 その姿を直視できず、タカフミは目を逸らした。


“あれっ、司令がいない!?”

 いつの間にか、マリウスの姿がない。


          **


 きょろきょろと周囲を見回しながら、扉に近づく。

 と、思いがけず扉が開き、中からマリウスが出てきた。


「司令! 入れたんですか!?」

 驚いて問いかけると、マリウスの様子が変だ。

 宙を見つめて、何かを考えている。


 そして、絞り出すように、声を出した。

「私は・・・駒では終わらない。終われないだ」


 全くもって、唐突な言葉だった。

 なぜ、こんなことを言い出したのか?

 軍を辞めたなるようなことが、聖墓の中であったのか?



「それは、もう戦いたくない、ということですか?」

 口に出して尋ねてから、タカフミは戸惑った。

 帝国は、国民皆兵と聞いている。

 軍務以外の選択肢は、あるのだろうか?


 ふと、“それなら、地球に来てもらったら?”と思った。

 “地球に移住してもらって、一緒に・・・”

 そこまで考えて、慌てて頭を振った。いやいや、何を考えているんだ!

 沸き起こる感情を抑えつける。


「いや、違う」

 マリウスは言下に否定した。

「そのためには・・・駒にならないためには・・・


 ってってりまくる!」


「なぜに!?」

 タカフミは、思わず突っ込んだ。



「戦うことは虚しい、と思われたんじゃないんですか?」

 そういう「流れ」じゃないのか!?


 するとマリウスは、ゆっくりと首を傾げた。

 駅の建設開始以来、3年近く一緒にいるが、初めて見た仕草だった。


「戦うことが虚しい?

 そんなこと、一秒も思ったことはないぞ」

「一秒くらいは思いましょうよ」


「駒で終われないのだから、うんと手柄をたてて、出世するしかないだろう?

 だから、りまくる」

「いや、その・・・。

 しかし、軍の中にいる限り、結局は誰かの部下ですよ」

「それはまあ、そうだな」

 マリウスは、右頬を撫でながら、考える。


「何を話しているんですか~?」

 2人の会話に気づいたマルガリータが、呑気な様子で近寄ってきた。


          **


 マリウスが顔を上げた。

 その瞬間、タカフミは、強い力に、押されたように感じた。


 鎧を着ているので、風が吹いても、感じるはずがない。

 だが。

 何か、凄まじい「闘気」のような波動が、通り過ぎて行ったのだ。


 気のせいかもしれない。

 しかし、波動の実在を証明するかのように、

 マルガリータは10メートルも後ずさって、奥の壁に引っ付いたのだった。



「ならば、私は、

 帝位を目指す!」



 マリウスはとんでもないことを、無表情で宣言した

 (いつだって無表情だが)。


 そしてくるりと回転し、トン、と床を蹴ると、すーっと飛んで行った。

 長い黒髪が、背中で妖しく揺れていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る