67・Velvet
「────?」
何かしら。今、物凄く面白い光景を見逃したような気がする。
例えるなら、シンカが壁の穴に嵌まって抜けなくなったとか、そういう感じの。
「なんて、アレがそんな超絶ドジやらかすワケないか」
仮にやらかしたなら、一生からかえるネタだけど。
「んふふふふっ」
普段は野暮ったい目隠しで隠れた、くっそエロい伏し目の澄まし顔。
それが困り果ててジタバタもがく姿とか、落差も上乗せされて想像するだけで笑える。
「くふっ、んぐ、げほっげほっ」
笑い過ぎて、ちょい咽せた。
青いガラスを混ぜて色付けした切っ尖を、目線と同じ高さでピタリと止める。
こうすると定規代わりになって、相手の細かい動きが正確に測れて便利。
ついでに言えば、やっぱり剣は片手持ちに限る。
両手で中段構えとか、二の腕に胸が挟まって凄く邪魔。空いた手で他の物も使えるし。
「おっかえりぃ」
裸足になった踵を石畳へ叩き付け、その衝撃で跳ね上げた銃を掴み、ホルスターに。
グリップがアタシの手にジャストで、なるたけ失くしたくないのよね。
多少雑に扱っても平気なくらいには頑丈なとこもマル。
「っとぉ」
右。左。上。
概ね等間隔に飛来する斬撃を、ひらひらと躱す。
「あーうっざ。無駄だって分かんない?」
四つ目が放たれる前に間合いを詰め、鳩尾に蹴りを刺す。
やけに軽い。殆ど触っただけ。
タイミングを合わせて後ろに跳ばれた。ムカつくムカつくムカつく。
まあでも出鼻は押さえたし、取り敢えず是としましょ。
「タネの割れた手品を見せびらかしても白けるだけよ。馬鹿みたい」
虚空を舞い、精鉄をも裂く不可視の刃。
初めてコイツとやり合った時は、これを知らなかったが故に首ちょんぱされた。
──けど。既に性質は看破済み。
「その珍妙なナイフを振り回した通りの軌跡でしか撃ち出せないんでしょ」
刃自体は視えずとも、太刀筋は視えている。風断ちの音も聴こえている。
そして何より、斬撃を飛ばす際には一瞬の溜めがある。
動き回りながら只管に乱射、みたいな鬱陶しい真似は出来ない。
そこまで仕組みを暴けていれば、あとは簡単。溜めが入った時だけ用心すれば良い。
なんとなく肌がヒリつくし、簡単に分かる。避けて下さいと言ってるも同然。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄。チマついた差し合いなんか時間の無駄」
さあ。こうも懇切丁寧に「分かってるぞ」と講釈垂れてあげたのだ。
迂闊に飛ぶ斬撃を繰り出すのは危険と、理解した筈。
「小細工抜きのシバキ合いと洒落込もうじゃないの」
アタシを二度も正面きって殺しやがった不届きゴミクズ。
隙を突いて仕留めるなんてダッサい勝ち方、絶対してやるもんですか。
コイツは真っ直ぐ、ブチのめす。
「ハッ。精々、泣いて喜びなさいな」
さっき
「このベルベット・ベルトリーチェ・ベルトーチカ伯爵様が、リィザイ風情にマジマジのガチガチで行こうってんだから」
目標は少なくとも、あと二点。
勿論もっと多くても可。百点でも千点でも一兆点でも。
受けた屈辱には、更なる屈辱で以て応報とする。
右の頬を殴られたら、相手の顔が潰れるまで殴り返す。
それこそがアタシのノブレス・オブリージュ。貴族様はナメられちゃオシマイなのよ。
ただし、ちょっぴり野蛮で見苦しくなりそうだから──オーディエンスは、お断り。
【Fragment】
影の女が持つ副武装。
空気振動と空間歪曲によって形無き剣身を作り出す特殊なナイフ。
単純な斬れ味は、主武装である大鎌にも引けを取らない。
また影の女自身も、非常に高いレベルでナイフ格闘術を修めている。
大陸に、これと同系統の機構を製造出来る技術は無い。
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