18






「よし。開いた開いた」


 拾った釘で錠前を解き、時計塔内へ踏み込む。

 見様見真似のダメ元で試してみたけど、意外とやれば出来るもんだね。

 僕って器用。でもカルマ値ちょっと下がった気がする。


「……長いなぁ」


 壁伝いに延々続く螺旋階段を仰ぎ、少々げんなり。

 古いエレベーターらしきものもあるけど、経年劣化で壊れてた。

 悲しい。






 えっちらおっちら石段を上り、その先で待っていた梯子も上り、漸く屋上に到着。

 あー疲れた。脚だるい。どうせなら空を飛べる祈術きじゅつとか使えれば良かったのに。

 空気清浄機と浄水器の抱き合わせとか、ちょっと地味じゃありませんかね。


「さて」


 生ぬるい風に吹かれながら、へりに立って街を一望。

 夜も更けてるけど月は明るい。穢れも、この高さまでは及んでいない。

 ついでに日頃の目隠し生活で暗がりには慣れてる。差し障り無く見渡せそうだ。


「ひとつ……ふたつ……」


 方角と大まかな距離を測り、地図に印を付けて行く。


 ざっくり検めた感じ、


「……参ったな」


 やはり、これだけ大規模な呪いとなれば、複数が絡んでるか。

 半ば確信に近かったとは言え、出来れば外れて欲しかった推測が当たってしまった。


 厄介極まる。

 一朝一夕では、この山をピクリとも動かせそうにない。


「本当なら、僕達まで呑まれる前に逃げ出すのが正解なんだろうけど」

 

 とても残念なことに、ベルベット様が素直に頷いてくれる姿の想像さえ不可能。

 さりとて己のみ逃走を図るのも、流石に憚られる。


 なんだかんだ六年以上の付き合いだ。

 傲岸不遜かつ傍若無人な御方だけれど、良いところもある。たぶん。三日、いや一週間くらい時間を貰えれば、きっと一個か二個は思い付く。筈。


 ……どうあれ、臆面も無く切り捨てるには、些かばかりあの人に情を移し過ぎた。

 僕一人で去れば、確実に明日以降の食事が今よりも不味くなる。


「胸にしこりを抱え続けたまま何十年も生きて行くのは、却って辛いよね」


 それこそ呪いを受けるに等しい。割と気にしぃな性分だし。

 ま、運が悪かったと諦めよう。どうせ人生二度目だ、肩の力を抜こうじゃないか。


「ふーっ。なんとかベルベット様を説得して、情報収集に協力して貰わなきゃな……」


 あの人の舵取りとか、爆弾を解体するより神経削るのに。

 こめかみを押さえつつ、上手いこと言いくるめるべく理論武装を考え始める。


 …………。

 そんな時だった。


〈──小難しいカオで、なに悩んでんだ?〉


 聞き覚えの無い男声が、耳元で震えたのは。











【Fragment】 ベルベット・ベルトリーチェ・ベルトーチカ


 オリヴァ辺境伯家の次女にして末子。絶縁済み。十八歳。

 類稀な武才を生まれ持ち、相応の期待と共に教育を受けるも、その獣じみた凶暴性が災いし、歳を重ねる毎に悪名ばかり増えて行った。


 ただ、神殿に預けられて以降、身嗜みにだけは気を遣うようになった。

 身体能力と戦闘技術の高さは本物で、完全武装した精鋭兵を素手で殴り倒せる。


 どちらかと言えば男嫌い。





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