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 屋敷の中も外観同様、割と痛みが少なくて助かった。

 ただでさえ仕事山積みなのに、日曜大工まで追加とか勘弁。

 ホント、応じてくれる物好きが居るかは兎も角、あと十人連れて来て欲しかった。


「無いものねだり、かぁ」


 埃っぽい空気を払い、浴室に水を運び、廃材で薪を作り、ボイラーにくべる。

 火加減を調整し、見栄えが良くなるよう湯船に花びらを散らし、支度完了。


 うん。我ながら手際が良過ぎて溜息すら詰まる。

 本職のハウスメイドも脱帽するだろう。使用人の鑑か、僕は。


「んー極楽。褒めて遣わすわよシンカ。薄汚れた風呂場とかサイテー」

「光栄の至り。誠心誠意、洗い清めた甲斐があります」


 適温の湯に浸かり、上機嫌に爪先で水面を叩くベルベット様。

 その寛ぎっぷりに思わず皮肉が口を突いて出た僕は、きっと悪くない。


「ほら、ぼさっとしてないで背中流しなさいよ背中」


 はい。






「ベルベット様」

「んあー?」


 夕食を三人前近く平らげ、馬車のベッドで寝転がる怠惰な姿に辟易しつつ対面に座る。

 せめて部屋着くらい着て下さい。衣食足りて礼節を知るって言葉に、まだ僕は微かな希望を抱いてるんですから。


「あによ」

「いえ。今後どうされる予定なのか、よろしければ聞かせて頂きたく」


 どうせロクなプラン抱えてないと思うけど、一応ね。


「朝イチで金鉱に突撃。なんやかんや確保。懐ザクザク。以上、ハッピーエンド」


 案の定ロクなプラン抱えてなかった。

 もしかしてふざけてるのかな。出来れば、そっちの方が有難いんだけど。


「色んな奴等がアタシに媚び諂う姿を想像するだけで、今から笑いが止まんないわ」

 

 あ、駄目だ。本気で言ってるよ、この人。


 まあ、そもそもマトモな神経の持ち主なら足を踏み入れるどころか近付こうとすら考えないゴーストシティに居る時点で、お察し。

 僕は一体、何を期待していたのか。あゝ無情。


「……はぁっ」


 おまけみたいな第二の人生とは言え、流石に諸手広げて死を待つのは御免被る。

 せめて、やれそうなことはやっとかないとね。


「ベルベット様」

「あーにーよ」


 取り急ぎ必要なのは、ひとつでも多くの正確な情報。

 特に呪い関連。知ってさえいれば対処出来ることも、きっとある筈。


「暫く席を外します」

「はぁ?」


 マケスティアの地図を広げる。

 先程、屋根へ登って周囲を眺めた際、見付けた場所に続く道を探す。

 ……ここら辺かな。後付けで建てたっぽいから、載ってないんだよね。


「街の全容を確かめておこうかと」


 外壁よりも高く聳えた、正直ちょっと浮いてる、それはそれは立派な時計塔。

 物見櫓とするには、打って付けな代物だった。











【Fragment】 無銘神(2)


 嘗ては実体を以て世に顕現し、西方同盟に加護を与えていた。

 その力を利することで、三国は栄華を極めていた。


 何故、西の三国だけだったのか。何が目的だったのか。

 番魔つがいまに敗れ、世界より去った今、知る術は無い。


 ──戦乱の火種となるを意図的に与えるため、サイコロを振って適当に決めたなどとは、誰も知らぬ方が幸せだろう。


 全ては神の、暇潰し。





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