64
ヒトガタに躊躇無く致命の一撃を叩き込めるというのは、それ自体が天賦の才だろう。
少なくとも僕には無理だ。
「ッ避けんなァ!」
ぴたりと紙一重に留めたスウェーバックで躱され、空を切る剣尖。
食らえば間違い無く首がトぶのに避けるなとは、無茶を仰る。
そうして怒号を上げるや否や、間髪容れず至近距離から銃を乱射。
単発の威力が高過ぎる所為で、蜂の巣どころかスムージーになりかねない銀色の雨霰。
「バチ砕けろ」
射線上の廃屋が瞬く間に弾け飛び、ほぼ一棟丸ごと微塵と化す。
なんとも馬鹿げた破壊の爪痕。およそ人間に突きつけるべき代物じゃない。
蚊柱へと火炎瓶を投げ込むようなものだ。五体余さず叩き潰して尚、お釣りが来る。
あの女性が人かどうかは、だいぶ怪しいところだけれど。
「チッ……避けんなって言ってんでしょうがよぉ!!」
するりするりと弾幕を掻い潜る、軽快かつ流麗な挙動。
外見相応の目方を備えていよう大鎌を握っているにも拘らず、その体幹には些かのブレも窺えぬ所作。
……やっぱり、新体操に良く似てる。
ともあれ、北方剣術を免許皆伝級の練度で修めたベルベット様をも凌ぐだろう体捌き。
てか音速の光弾を見切るって、どういうことなの。
「ああもう、うっざ!」
射撃では埒が明かぬと判断したのか、乱雑に投げ捨てられる銃。
いつもの適当な姿勢から一転、堅実な正眼へと
「…………でも、その動き方は気に入ったわ」
空白の後に浮かばせたのは、裂けんばかりに口の端を吊り上げた凶暴な笑み。
開かれた瞳孔で影の女性を睨み付け──軽やかに、間合いを詰めた。
〈!〉
一挙手一投足の全てが、今までとは根本的に律動の異なるもの。
必然、僅かに回避が遅れ、大鎌の柄でガラス刃を受け止める影の女性。
輪郭のみの存在ゆえ表情こそ窺えぬも、幾許かの動揺が見て取れた。
しかし、それも無理からぬ話。
向かい合う相手が、唐突に己と同系統の技術を扱い始めたのだから。
「アハハハハハハハッ! 悪くないわね、七十八点よ!」
銃を棄てる前と比べて明らかに一段階上がった技量。
万華鏡の如し変貌に受け手が鈍り、対応のウエイトが回避から防御へと偏って行く。
「前回、前々回! 二度も直接やり合ってれば、
さも常識とばかりに非常識を吼えつつ、大鎌を跳ね上げ、宙へ弾き飛ばす。
併せて影の女性が身を持ち崩し、たたらを踏んだ。
「胴体ガラ空き! 臓物ブチ抜きの刑、執行ォッ!!」
体勢を立て直すべく必要な一瞬の、さりとて手練れ同士の戦闘に於いては長過ぎる隙。
あちらの手元に武器は無く、次を防ぐ術も無し。
これにて決着、予ての宣言通りに三度目の正直と相成るのか。
「──なァんて、ね」
千載一遇の好機。
しかし切っ尖を差し止め、無理矢理に身を捩るベルベット様。
「見え透いてんのよ、へったくそ」
刹那。その真後ろにあったガス灯が太刀音を鳴り渡らせ、真っ二つに断ち切れた。
【Fragment】 銃(3)
生成される光弾の色彩は個人で異なり、その人物の精神性を表す。
悪性を有する者ほど強く輝き、獣性を有する者ほど白色に近付く。
ベルベットの光弾は白寄りの灰色。
ただし輝きが強過ぎるあまり、銀色に見えている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます