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「シンカ。朝風呂に入りたいわ」
「おはようございますベルベット様。支度は済んでいますので、どうぞ浴室へ」
ひと晩寝てスッキリしたのか、昨夜の暴れっぷりが嘘のよう。
でも実際は忘れてるだけで話題を蒸し返したら再燃し始めるため、お口チャック。
「何やってんのよ。寝汗流すついでに加護も掛け直すんだから、早く来なさいよ」
「はい、只今」
かったる。この人に付き添っての入浴は疲れるから、出来れば遠慮したいんだよね。
僕の肌の触り心地が好きらしくて、お腹とか背中とか撫で回されるし。
「──はァん? 攻略法?」
ハーブで香り付けした角砂糖を齧り、小首を傾げるベルベット様。
ここまで来ると最早甘党ってよりジャンキー。依存性とか中毒に近い気がする。
くれぐれも健康には気を付けて欲しい。もし病を患ったとて、僕じゃ傷を縫ったり薬を打ったりとかの簡単な処置が精一杯だし。
尤も、頑丈過ぎて風邪ひとつ引いたこと無いらしいけど。
典型的なナントカ。そも、呪いに蝕まれている現状の方が、万病よりも余程重篤か。
閑話休題。
「つまり、あの
親指で首を掻っ切る所作。
表現方法が完全にゴロツキの類。
「キャン言わせられるかは分かりかねますが、少なくとも現状よりは好転を望めるかと」
「ふーん」
思案顔を浮かばせたベルベット様が、テーブルに軽く踵を叩き付ける。
反動で宙を舞う、皿の上のクッキー。
くるくる弧を描き、口の中へと自ら飛び込んだ。
凄っ。でもマナー悪っ。
「そんな耳寄り情報、どうやって掴んだのよ」
「……些か奇縁に恵まれまして」
差し当たり、彼の存在は伏せておくのが安牌だろう。
この人どちらかと言えば男嫌いな上、ああいう無頼っぽいタイプとは特に相性悪いし。
理不尽女王ムーブ全開で突っかかって、多大な迷惑をかけるのがオチ。
「あっそ。ま、なんでもいいわ。邪魔ったるいゴミカス共を手っ取り早く片付ける方法があるなら好都合。勿体ぶってないでさっさと教えなさいよ」
別に勿体ぶってはいません。単に貴女様がせっかちなだけで。
そんな胸懐は当然口に出さず、空いたティーカップに紅茶を注ぐ。
次いで上からミルクを垂らし、水面へと渦巻き模様を作る。
「話自体は、単純明快」
中心に、ひとつ角砂糖を落とした。
「商業区の渦を払った時と、同じことをすれば良いのです」
【Fragment】 イヴァンジェリン(3)
水と風を清める
絹の如くなめらかな銀髪は星明かりの下ですら輝きを帯び、赤子より肌理細かな白皙は絶えず濡れているかのように艶めかしい。
重ねて、その肢体は華奢ながら女性美に充ちている。
ただ静かに微笑むだけで、大なり小なり男という生き物を魅了する。
当然と言えば、当然だろう。
停滞し始めた世を移ろわせる火種のひとつとして、神自らが造形したのだから。
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