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 曰く混穢レギオンとは、穢モノ達が自他の境界すら見失った末に行き着く成れの果て。

 複数個体が融け合い、質量と出力を飛躍的に向上させた、一塊の群体。


 即ち、マケスティアを呑む三つの渦と、本質的には同種の存在。

 或いは寧ろ、渦の方をこそ巨大な混穢レギオンと呼ぶべきなのやも知れない。


 然らば、対処法もまた同じ。

 を穿ち、引力を削ぐことで、カタチが保てなくなり霧散する。


 あの人は、そう言っていた。






「で? 肝心な基点とやらを探り当てる方法は?」


 物理的な意味でも精神的な面でも、兎角フットワークの軽いベルベット様。

 散々煮湯を飲まされた混穢レギオンをボコボコのギタギタに叩きのめすと意気込み、滅茶苦茶な速度で以て大通りを駆けて行く。

 せめて、もうちょっと知的な表現は用いられなかったのか。一掃とか鏖殺とか。


「邪ァ魔!」


 道中、紙屑同然に蹴散らされる亡霊達。

 勢いも相まって、殆ど交通事故みたいな光景。


 ちなみに、この人が昨晩の僕のように居住区で襲われたことは皆無だ。

 それもあって、亡霊の安全性を誤認してしまった。


 見るからに意思も感情も希薄な彼等にも、相手を選ぶ知能くらいは残ってる模様。

 まあ、飢えた虎の喉を撫でに近寄るなんて、ほぼほぼ自殺行為だし。


「アイツ等にがあるんじゃないかってくらいはアタシも考えてたけど、どこを斬っても突いても、それらしい手応えは無かったわよ」

〔基点の位置は個体毎に異なり、外見での判断は至難を極めるそうです。サイズ自体も片掌で握り込めるほど矮小との話なので、闇雲な攻撃では……〕


 淡々と告げたところ、渋面が返る。

 機嫌を損ねる前に、続きを切り出す。


〔しかし、特定域の高周波をぶつけることで炙り出せるとか〕


 いわゆる共振現象の一種らしい。


「こーしゅーは?」

〔つまり非常に高い音です〕


 説明と併せて、腰のホルスターに提げた銃を指差す。


〔射撃の都度、共振周波数が鳴り響くよう手を加えておきました〕


 非可聴音だから、人間には聴こえないけど。


「ふーん。つまりコレを撃つだけで、調子こいたリィザイ共の急所が分かるのね」

〔効果範囲は半径数メートル程度な上、効力も一瞬ですが〕

「じゅーぶん。上出来よシンカ、えらいえらい」


 瞳孔が開いた獰猛な笑み。

 身を沈ませ、石畳が罅割れる脚力で踏み込むベルベット様。


 一拍足らずの静止。発破じみた突進。

 バネを弾いたが如し加速で以て、渦の中へと飛び込んだ。


「それじゃあ早速、試してみようじゃないの!」


 濃密な穢れ。極度に狭まる視界。

 まるで巨大生物の口腔内。視覚と聴覚を介し背骨を伝う本能的恐怖に、血が冷える。


〈アォォォォオオオオ……〉

〈カココ、カコココッ〉

〈キリキリキリキリキリキリキリキリ〉


 多種多様かつ、いずれも奇天烈な呻き声を上げ、続々と現れる混穢レギオン

 さながら腐肉に群がる蝿。こう即座に嗅ぎつけられては、奥へと進める筈もなし。


「あはっ」


 手近な一頭、昆虫類の脚を生やした魚のフォルムを持つ個体に向かった銃口。

 間髪容れず発砲。狙いが適当だったのか命中はせず、虚空を裂く銀色の光弾。


 ──直後。鱗に代わって体表を覆う無数の手首の一本が、より正しくは端くれた人差し指らしき部位が、ぼこぼこと肉を泡立たせた。


「そォこッッ!!」


 雑な射撃とは打って変わった、正確無比な刺突一閃。

 寸分狂わず基点を貫かれた混穢レギオンは、糸の切れた人形が如く斃れ、崩れ、溶け、消えた。











【Fragment】 硝子刀がらすとう(2)


 鞘にガラスを補充することで、満載時には連続十三回の替刃が可能。


 新暦への改元に伴う騒動の折に失伝した技術で製造されており、現代では再現不可能。

 骨董品としての価値も高く、金に換えれば屋敷が建つような銘剣。


 普通なら、欲しいと言って貰えるような代物ではない。





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