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「ご機嫌うるわっシュート!!」


 やたらハイテンションに神殿の壁を蹴り破るベルベット様。

 いい加減、建物自体が崩れるんじゃなかろうか。少しは安全面を配慮して欲しい。


「さあ覚悟なさいアバズレ、いよいよ年貢の納め時よ! ちなみにアタシがマケスティアを掌握した暁には、全市民に財産の八割を税として納めさせる予定だから!」


 鬼過ぎる。この人に統治を任せたら、行き着く先は間違い無く地獄絵図だ。

 もしも周囲の制止を受け容れ、別の適当な街を貰う選択肢を採っていた場合、きっと今頃は暴動の最中だった筈。


「あとアタシ、新しい税案を温めてたの! 買い物した額の二割分を税として加算するシステム! 名付けて『買い物税』!」


 なんたることか。この世界にも消費税の先駆けが。しかも税率二十パーセント。

 改めて考えると、お金使うのに税金かかるって、かなり理不尽だよね。






〈主よ、主よ、主よ、主よ。無知なる魂を御守り下さい。脆弱なる肉体を御守り下さい。孤独なる精神を御守り下さい。不確かなる明日を御守り下さい──〉


 熱弁するベルベット様を他所、亡霊神官は相変わらず淡々と祝詞を繰り返していた。


 祈り以外の何もかもを棄てたと言わんばかりな姿。

 だがしかし。敬虔と呼ぶには些か違和感を覚える、どこか薄っぺらい熱量の乏しさ。


 まるで、そう──逃避のように見えた。


「やっぱ領営カジノは外せないわよね。ギャンブルで儲けるなら胴元が一番よ」


 しゃりん、と高い音を立てて抜き放たれる硝子刀がらすとう

 刃の材料を鞘に補充する際、色ガラスでも混ぜたのか、薄らと赤い。


「そーゆーワケで、アタシの輝かしい未来を邪魔する狼藉者は、例え女でも極刑」


 ──アタシに逆らったで賞。

 ──アタシに楯突いたで賞。

 ──アタシをシカトしたで賞。

 ──アタシを何度も殺したで賞。


 つらつら読み上げられる、だいぶアレな亡霊神官の罪状。

 この人、割と根に持つタイプ。


「手足の先から、ミリ単位で千切りにしてあげる」


 怖っ。

 どんな幼少期を過ごせば、そんなスプラッタ極まる発想が出て来るんだ。


「くたばりなさい」


 亡霊神官の背中に銃口を突きつけ、等間隔に三度の発砲。

 ……千切りは?


〔ッ〕


 迸る銀の極光。

 ただの一瞥で明白な出力増強が窺える、寒気を催すほど強く冷たい輝き。


〈主よ、主よ、主よ、主よ〉


 初弾と次弾は先刻と同様、届く間際で消えた。


〈無知なる魂を御守り下さい〉


 けれど。それぞれの放つ銀光が、弾道内に充満していた高濃度の穢れを押し退ける。


〈脆弱なる肉体を御守り下さい〉


 続く三発目が、大きく穿たれた空白を突き進む。


〈孤独なる精神を御守り下さい〉


 は、もう間に合わない。


〈不確かなる明日、を──〉


 亡霊神官の左半身が、無惨にも千切れ飛んだ。











【Fragment】 嘆く者ウルスラ


 新暦一九年生まれ。嘗て王国の神殿に属していた元八等神官。最初期の花刺繍はなししゅうの一人。

 街を歩けば道行く男達が挙って振り返るような、それは評判の美女だった。


 そんな彼女に不幸があったとするなら、生を受けた時節だろう。

 せめてあと十年早ければ、このような末路を辿らずに済んだ筈。


 己の名すら忘れた彼女は、ただ只管に祈り続けている。

 マケスティアでの忌まわしい日々の記憶を振り払うべく、祈りに逃避し続けている。


 ──私を好き勝手に食い散らかした奴等など、誰も彼も惨たらしく死ねばいい。





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