69・Velvet
銃を握れば一騎当千。
剣を掴めば万夫不当。
拳を放てば天下無双。
このアタシ、ベルベット・ベルトリーチェ・ベルトーチカ様は、最強無敵の超天才だ。
まだオリヴァ領が独立した小国だった大昔、およそ十年に亘って王国の軍勢を阻み続けた大将軍、後の初代オリヴァ辺境伯レジーナテレサ・フォン・オリヴァ。
カミサマとやらの加護を受けて調子に乗りまくってた旧暦の西方同盟が討伐を諦め、侵略後の小国を丸ごと領土に与える条件で懐へと引き入れた豪傑。
クソ父上曰く「偉大なる祖」。その容姿と武力を余さず受け継いだ寵児こそアタシ。
なんならオリジナルより数段上だと自負してる。何事も新型の方が高性能だし。
とどのつまり。
「全てに於いてスペシャルなアタシ様を敵に回せば、こうなるのは自明の理ってワケ」
うつ伏せに倒れた影女の後頭部を踏み付けて、踵でぐりぐりする。
気分爽快。超キモチ良い。
「累計ベルちゃんポイント十八点。まあまあってトコね」
関節が四つに増えた左腕。
足首、膝、腿の順にブチ切った右脚。
腹には三つほど風穴を空けたし、ついでに肋骨も二本ばかり引き抜いてやった。
あとは子宮あたりを貰おうと一回手を突っ込んだんだけど、腹の中まで真っ黒で、骨以外は何が何だか分かりゃしない。
モツ抜きとか、プラス三点は堅かったのに。
「んふふふふふふっ」
両手に纏わりついた返り血、穢モノの体液とは少し違う黒を拭う。
アタシに触れる風と水は絶えず浄化されるから、軽く払っただけで簡単に落ちた。
シンカの加護、すっごく便利。風呂上がりの爽快感が延々続いてるみたいな感じ。
「けど一瞬でも汚れたのは不快! ワケ分かんないモノ浴びせてんじゃないわよ!」
影女の頭を蹴り、仰向けに転がす。
「アハハハハッ! いいわね、すっごく無様!」
コイツの技も、リズムも、残らず食った。
ゆらゆら鬱陶しい輪郭の所為で表情や筋肉の動きが読み取れなくて手間取ったものの、そういうもんだと心得た上で身構えれば、やってやれないことは無い。
シンプルに言うなら、もうアタシはコイツより強い。
決着はついた。よってここから先は、お楽しみの時間。
「さァ、て」
やっぱ素手オンリーだと、バリエーションが乏しいわね。
手足の薄切りとかやりたいし、そろそろ
そう思い、踵を返した、その直後。
〈──馬鹿、ね〉
呆れ口調の呟きが、背中越しに小さく聞こえて。
〈この程度のチカラしか使えナカったうちに、さっさト殺せば良かったノに〉
「ッ!?」
ぞぁ、と。
得体の知れない悪寒が、脊髄を這う。
〈ま、ソレじゃ意味が無イんだけド〉
じゃらじゃら鳴り響く、金属が擦れるような音。
振り向いて目にしたのは、壁に突き刺さった大鎌から伸びる無数の鎖。
それは瞬く間に影女を絡め取り、繭さながらに包み込み──爆ぜた。
「っぐ!」
飛び散る無数の破片。
後ろに跳びながら払い除け、難を逃れる。
「なんだってのよ……!!」
爆風に乗って巻き上がる砂と埃。潰れる視界。
息を殺し、晴れるのを待つ。
──否。待つにも及ばなかった。
〈やっと解けた〉
斬り裂かれ、散り散りに消え失せる土煙。
〈元に戻るのは、五十年ぶりね〉
一本だけ残った鎖で大鎌を引き寄せ、長柄を掴む影女。
…………。
違う。もう、曖昧な影なんかじゃない。
〈それじゃ、始めましょうか。第二ラウンド〉
確かな実体を持った黒髪赤眼の女が、五体満足の状態で、立っていた。
【Fragment】 影の女(3)
彼女にとって、穢れとは枷である。
呪いに蝕まれた肢体。
黒く溶け、まともに動くことすら能わぬ五体。
しかし平時に於いて、彼女は努めてこの状態を保っている。
己のチカラを、抑え込むために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます