26
南部の商業区。北西部の工業区。
そして北東部の、壁で囲われた金鉱内。
計三ヶ所で観測した、煌々と噴き上がる黒い柱。見るも悍ましき台風の目。
あの全てを取り払えば、街に充満する穢れは拠り所を失い、霧散するだろう。
そうすれば、そうなれば、呪いとて消え去る筈。
……果たして、そんなことが実際に可能かどうかは、隅っこにでも置いておいて。
「決めた! こいつよ!」
大仰なモーションで木箱の穴から手を引き抜くベルベット様。
つくづく言動が喧しいよなぁ、この人。
「金鉱こい金鉱こい金鉱こい金鉱こい……あー外れた! こんちくしょーめ!」
勢い良くカーペットに叩き付けられた紙切れ。
紙面には、さっき僕が書いた『南』の字。
「ちょっとシンカ! これちゃんとアタリ入ってるんでしょうね!?」
「スラムのチンピラじみた言い掛かりはやめて下さい。曲がりなりにも無銘神を奉ずる神官です。後ろ暗い真似など致しませんよ」
「はんっ、どーだか!」
十二歳から十五歳までの多感な時期を神殿に預けられて過ごしたベルベット様だが、或いはだからこそなのか、あまり神殿を快く思っていない。
どうも当時、僕が留守の間に
然らば神官の清廉を謳ったところで、白々しいか。
まあ、ここは素知らぬ顔で押し通そう。
「どのみち呪いで街へと括られているのです。頸木を解くためには全て根絶やしとせねばならぬ以上、どこから着手しても同じかと」
ですので、せめてどうか、最も渦の小さかった南側からお願いします。
初手金鉱はホントやめて。三倍くらいサイズ違った。どう考えてもアレは不味い。
「馬鹿ね、モチベの問題よ。金塊を椅子代わりにすればアガるわ、絶対」
だいぶ発想が下品。
金塊の椅子とか、確実に腰を悪くすると思う。
「……けどま、しょーがないわね。くじ引きの結果だし」
肩をすくめつつの観念に、ほっと安堵の息を吐く。
ベルベット様みたいなタイプの人って、選考手段に遊びと言うかギャンブル性を混ぜ込むと、比較的穏当に従ってくれるよね。
あまり繰り返すと新鮮味が薄れるため、何度も使える手じゃないけど。
「まずは南を落とす! そうと決まれば善は急げよ! ドレス持ってきなさい!」
「畏まりました」
やっと服を着てくれる模様。
朝夕は少し肌寒い季節なのに、なんで平然と裸でいられるんだろう。
あ。馬鹿だからかな。
【Fragment】 くじ引き
ごくありふれた小さな木箱に穴を開け、三枚の紙を入れたもの。
シンカお手製。制作所要時間およそ五分。
尚、紙に書かれた内容は三枚とも同じである。
嘘も方便。これも一種の処世術。
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