急
89
──よし。組み立て完了。
余ってる部品も……無し、と。
あとは天に身を任せるばかり。よろしくお願いします。
「…………あ」
固唾を呑んで見守る中、駆動音が低く唸り始める。
どうやら上手く行った、行ってくれた模様。
無茶振りされた時は流石に頭を抱えたけど、案外なんとかなるものだ。
「ベルベット様。直りましたよ」
ほぼ手探りかつ半ば適当だったのは内緒。
失伝技術で造られたオーパーツの仕組みなんて知るワケない。せめて説明書が欲しい。
「うむ。くるしゅーないわ」
細かな凹みや傷消しも兼ね、磨き上げた
それを受け取ったベルベット様が、映り込んだ自分の顔を見て呆然と固まった。
「……え? 天使?」
よく言う。
「御自分です」
「そうよね!? あーびっくりした!」
ホント、よく言う。
鎖の環に指を引っ掛け、抜剣。
ガラスにある物を混ぜて形作られた青い剣身が、きらきらと陽光を跳ね返す。
「ボチボチの塩梅ね。綺麗になったし、微妙な重心のブレも無くなってる」
「僅かに峰部分が歪んでいましたので、打ち直させて頂きました」
度し難いレベルで雑に扱うあまり、鞘の内部機構が不調を起こした
そしてその修理を押し付けられるついで、剣本体に鎖を繋げと命じられたので、意味不明だったものの指示通り柄頭に接合させた次第。
しかし。
「ソレ、一体どこで見付けたんですか?」
触れた者の意思に従い、ある程度の長さと短さまで自在に伸び縮みする鎖。
原理どころか材質すら見当も及ばぬ、珍妙極まる代物。
「戦利品よ。赤眼女の武器だけ何故か残ってたの。でも鎌もナイフも趣味じゃないし」
そう言って柄ではなく鎖を掴み、
ああ成程、そのために──怖っ。危なっ。耳元掠めた。
せめて外でやって欲しい。以前なら兎も角、今は単なるガラス刃じゃないのだから。
「んふふふっ。中々ゴキゲンな思い付きでしょ? 銃は直線的過ぎて、いっぺんに何度も撃ってると飽きるのよね」
僕は勿論、壁や天井にも一切傷を付けず、室内に風切り音を撒き散らす切っ尖。
やがて手首のスナップで奇天烈な軌跡を描いた後、持ち主の手中へと綺麗に収まる。
──四半秒遅れて、ベッド脇に置いてあった水差しが、真っ直ぐ斜めに両断された。
嘘でしょ。
「はい練習終わり。やろうと思えばアンタの服だけ斬れたりもするわよ。見たい?」
「興味は尽きませんが、そろそろ昼食の支度がありますので、またの機会に」
「そ」
そういう意図だと知らなかったから重心の調整なんかしてないのに、なんで正確無比に振り回せるんだろう。なんで刃筋が立てられるんだろう。
ワケ分かんない。あんまり考えないでおこう。頭痛くなりそうだし。
てか練習って言ったよ、この人。今の超絶技巧がデモンストレーションですか。
いくらなんでも天稟が過ぎる。僕じゃ五十年かけたって真似出来そうもないのに。
あと、なんでよりによって水差しを。
この部屋で一番高価なアンティーク品だったのに。
ま、別にいいけど。いつものことだし。
【Fragment】
影の女との戦いで損傷した
戦利品としてベルベットが奪い取った
ただし取り扱いの難易度は非常に高く、習熟には長い歳月を要するだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます