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「──で、のたうち回って死んだ挙句に生き返った後の第一声が「おかわり」ですよ」
はふ、と溜息を吐く。
「そこからは毒死と蘇生のループでした。日が暮れるまで、ずーっと」
あそこまで行くと、もうドン引きとかのレベルを通り越して理解不能。
ひと舐めする度に苦しみ抜いてまで味わいたいものなのだろうか。確かに希少かつ高価ではあるにせよ、口さがなく言ってしまえば、たかが砂糖を。
僕なら御免被る。てか普通、命と甘味を秤にかけようとは考えないと思う。
「ホントあの人は……あ、すみません。愚痴を聞かせるみたいになってしまって」
〈別に構わん。どうせ暇だ〉
背中越し、ひらひらと手を振るアベル様。
この人、黙って話を聞いてくれるから、つい口が滑らかになっちゃうんだよね。
〈美味いな〉
お土産に包んだクラリエッタキャンディを噛み砕いたアベル様が呟く。
もしかして僕が知らないだけで、結構スタンダードな食べ方だったりするの?
〈……そう言えば、アイツも昔は随分とコレを食いたがってたっけか〉
掌上で転がす飴に視線を落としながらの、昔日を懐かしむような語調。
あの影の女性のこと、だろうか。
〈尤も、アイツの舌は喋る以外じゃ役立たずで、砂糖一粒食えやしなかったんだが〉
味覚の欠落。
もしベルベット様が同じハンディキャップを背負ったら、四半日で発狂しそう。
〈舌どころか内臓も全てハリボテ。そのくせ飢えは感じる。ちょうど俺とは真逆だった〉
食べられないのに、お腹が空く。
それはまた、なんとも悲惨な。
〈今夜は、久し振りに街が良く見える〉
月明かりに照らされた時計塔屋上。
手すりも何も無い縁辺に立つアベル様。
「あ……」
隣へ行くと、腰を抱き寄せられた。
〈ここは時たま突風が来る。俺の方に体重かけとけ〉
「……はい」
言われるがまま身を預けても微動だにしない、さながら大樹に寄り添うが如し安定感。
軽く触れただけで分かる、生物としての根源的な強度の差。
氷じみた肌の冷たさも手伝い、やはり人間ではないのだと改めて思い知る。
…………。
別にいいけど。
〈さて。残る渦は、あとひとつだ〉
そう言ってアベル様が指差した先は、外壁以上に強固な壁で鎖された北東部。
〈先に断っておくが、三つの中であそこだけは、過去一度たりとも払われていない〉
マケスティアの枢要。未だ莫大な財が眠るという、大陸西部最大の金鉱。
〈呪いが芽吹いて五十年余の間、誰にも越えられなかったヤマだ〉
最も大きく最も濃い穢れで満ちた、全き闇。
〈街の奪還に三度送り込まれた
ふと横合いから強風に殴り付けられ、目隠しが飛ばされた。
必然、穢れを直視しかけるも、アベル様の手が視線を遮ってくれて、ことなきを得る。
〈──お前の主人がボロボロになってようやく倒した、アイツにもな〉
【Fragment】
加護を授かった王国兵士の総称。
一等神官を介さなければならない新暦に於いては、限られた精鋭のみが冠す名である。
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