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「ちょっと夜道を散歩でもしようと思ったワケ」


 湯気の立つティーカップに角砂糖を幾つも放り込み、かき混ぜもせず嚥下。

 ほぼ溶けずに残った塊を奥歯で噛み砕き、ベルベット様が鼻を鳴らす。


「そしたら、あの妙ちくりんがダラダラ歩いて来やがって」


 有無を言わさず戦闘になった、と。

 それはとんだ災難だ。


「……アタシに道を譲らなかったから身の程を弁えさせてやろうとしたら、このザマよ」


 いや貴女が先に仕掛けたんですか。しかも返り討ち。

 かっこ悪。かっこ悪。かっこ悪ぅ。


「ああぁぁぁぁムカつくぅぅ……!! 末代までの恥よクソッタレ、今度会ったら百兆倍返しでギッタンギッタンにしてやるぅぅ……!!」


 斬首され、一度死んだにも拘らず、この口ぶり。

 凄い鋼メンタル。鼻っ柱が頑丈過ぎる。ハンマーで叩いても大丈夫そう。


 あと、ギッタンギッタンなんてセリフ実際に使う人、初めて見た。


「おかわり!」


 突き出されたカップに紅茶を注ぐと、また角砂糖を大量投入。

 糖尿病になりますよ。ついでに、この街じゃ砂糖は貴重品なので節制して下さい。

 切らしたら、たぶんもう手に入らない。






「ベルベット様」

「あによ」


 糖分の過剰摂取で機嫌は直ったのか、多少トゲの取れた語調。

 込み入った話をするには頃合い良しと考え、テーブルに街の地図を広げた。


「こうなってしまった以上、私達はマケスティアの呪いに立ち向かわねばなりません」


 僕だけ逃げたら寝覚め悪いし。


「つきましては当面、街の調査活動に時間と労力を費やすべきかと」

「却下」


 秒で却下されちゃった。悲しい。


「こーゆーのは核心を叩けば解決するって相場が決まってんのよ。ゴチャゴチャ考える暇があるんなら、どいつもこいつも片っ端からブチのめして回る方が有意義でしょ」


 ほぼバーバリアンの発想。

 仮にも文明人なら、条件反射的に拳を飛ばす思考は控えて頂きたい。


 けれど、あながち的外れとも言い難い上、安牌を説いたところで無駄だろう。

 ナントカは死んでも治らぬ模様。頭痛い。


「……それに、あんまり時間も無いし」


 何か仰いました?


「兎に角! この街を可及的速やかにアタシの支配下に置くわ! これは決定事項よ!」


 置けるといいですね。


「だからシンカ! 上手いこと方法を考えなさい!」


 …………。

 肝心な部分は僕に丸投げですか。勘弁して下さい。











【Fragment】 ある書簡の一部


 ──を上記の日付より九十日間、ベルトーチカ領へ出向させるものとする。


 任期後は帝国神殿へ移籍。併せてリュオン・ザレフェドーラ皇太子殿下の──





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