29
「あんのリィザイ。絶対ぶちのめす」
肉の塊にフォークを突き立て、すっかりと殺気立ったベルベット様。
いつにも増して不機嫌。出来れば半日くらい近寄りたくない憤懣具合。
「この、アタシをっ、よくも、よくもっ」
ダイニングテーブルに拳を叩き付けないで下さい。
それとドレスを破損したなら、ちゃんと着替えて頂きたい。
全裸で食卓に着くとか、マナーどうなってるんですか。
「死ね! 死ね死ね死ね死ね死ね!」
ああ、テーブルクロス越しに天板から嫌な音が。
代わりを探すの大変なのに。
叶うなら、この人の脳に電極を刺してアンガーマネジメントの概念を刷り込みたい。
勿論そんな技術、大陸には存在しないけど。
「ッ」
砕け散った皿の破片が飛んで来たので、身を躱す。
このままでは危険が危ない。やむをえず虎穴へ飛び込むことにした。
嫌だなー。
「……何があったのですか?」
「あんちくしょーめ! あんちくしょーめ!」
駄目だこりゃ。会話コマンド選択不可。
満腹になるまで待とう。そうすれば少しは落ち着く筈。
取り敢えずテーブルの下にでも隠れて──
「くそったらァァァァッッ!!」
奇声と併せ、天板を真っ二つに割った踵落としが、勢い余り睫毛を掠める。
どうやら、安息の地には程遠かったらしい。
あからさまにイライラした態度で椅子にふんぞり返るベルベット様。
それを宥めすかしつつ新しいドレスへと着せ替え、化粧を施す。
……どうせ返り血とか砂埃で落ちるのに、意味あるのかな。
しかも、こんな街じゃ見せる相手だって居ないだろうに。
「終わりました」
「ん」
姿見の前に立ち、小さく鼻を鳴らす。
満足してくれた模様。あー神経削る。
「銃と剣」
「え?」
「はーやーく」
想定の外だった指示に面食らうも、腰に剣帯を巻く。
得物を備え付けると、ベルベット様は席を立った。
「じゃ」
そのまま口数少なく出て行ってしまう。
まさかトンボ返りする気かと背中を追うも、声を掛けることは憚られた。
蛇が居ると分かり切った藪をつつくほど、僕は冒険心豊かな性分じゃないのだ。
そうして、丸々七日間──合計四十回以上に亘り、同じような流れが繰り返された。
【Fragment】 穢モノ(2)
マケスティアの内に在る限り完全な不死の存在だが、体組織を大きく欠いた際は一時活動を停止し、溶解した後に再構成される。
これを繰り返し続けることで徐々に元の姿や人格を見失い、やがて己という個さえも保てなくなり、
再構成は、思い入れが強かった場所や人物の傍で行われることが多い。
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