10
「はァん?」
いざ二度目の入門と洒落込む間際、ベルベット様の足が止まる。
その双眸は、不可解な光景を見たとばかり、怪訝を孕んでいた。
「っかしーわね。さっきブチのめした奴が同じトコ立ってるわ」
──マジ?
穢モノは不死だと聞き知ってこそいたが、一夜どころか一刻すら挟まず蘇るのか。
想定難易度が早くも
「ま、いっか」
血の気を引かせる僕を他所に、ひどく軽い語調。
併せて鳴り渡る、宝石が砕けるような銃声。
合いの手を打つ、先程も耳にした金切り声。
「るっさ」
更に三発。薄暗い日陰の中を、銀色の軌跡が舞う。
いずれも寸分違わず的を貫いたのか、殆ど同時に三ヶ所で劈く悲鳴。
流石、片手撃ちで百五十歩先に置いたクゥミすら弾く巧者。
ある日、気まぐれに銃を取り、北方随一の名手と領内に広く知られていた下の兄君のプライドをバッキバキに叩き折った天稟。
「ちっ」
と。舌打ち混じり、ベルベット様が銃を下ろし、がりがりと喉笛を掻く。
不機嫌な時の所作。まあ理由は分かり切ってる。
あの人、銃とか弓矢とかの遠距離武器があまり好きじゃないのだ。
離れた間合いからチマチマ狙い撃ちするのが性に合わないとかで。
「まどろっこしい」
そう吐き捨てた後、背中越しに銃を放り渡される。
金属の塊を急に投げないで欲しい。
「七匹ね。シンカ、暫くステイ」
言うが早いか、門を駆け抜けるベルベット様。
刹那──背筋に、怖気が奔った。
「ッ」
其処彼処より押し寄せる穢モノ達。
四つ足の、人とも獣とも異なる、蟲の類に近い動き方。
ゴボゴボと鼓膜に纏わりつく、下水が詰まったような不快音。
視界に入っただけで、聴覚に捉えただけで、本能的な厭悪が湧き立つ。
そして理解する。アレ等は、尋常の者が触れていい存在ではない、と。
「ベルベッ──」
「死に晒せェッ!!」
僕の制止より先、一閃が煌く。
佩刀を抜いたベルベット様が、ひと息に四つ、首を刎ねた。
「アハハハハッ! やっぱ、こういう得物の方がノるわね!」
五つ、六つ、七つ。
熟れた果物でも斬るが如く、瞬く間に穢モノを仕留めてしまう。
……流石、オリヴァ家の私兵二十人を相手に無傷で打ちのめす達者。
ある日、気まぐれに剣を取り、北方随一の剣士と領内に広く知られていた上の兄君のプライドをボッキボキに叩き折った天稟。
「よし片付いた。シンカ、行くわよー」
べっとりと刃に残る黒い脂のようなものを払い、手招くベルベット様。
色々考えるのが面倒になった僕は、思考を振り払って、手綱を押した。
「どうにでもなーれ」
【Fragment】 銃
己が精神力を注ぎ込むことで光弾を造り、敵対者への一矢と為す器具。
上位存在が退去し久しい現世に残った、奇跡の爪痕のひとつ。
光弾の威力や射程は個人差が激しく、基本的に悪性の強い者ほど力を引き出しやすい。
使用に際し体力的、精神的な疲労が嵩むため、概ね弓やクロスボウの方が好まれる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます