第3話 フェニックスもとい、おもちとの同居生活。
「お前がいると夜道が明るくて助かるよ」
「キュイ?」
俺の家の近くは街灯がない。古ぼけた一軒家の扉を開くと、中に入る。
ここは生前、叔父と住んでいたところだ。
幼いころから俺と二人暮らしで、亡くなる寸前まで仲良くやっていた。
「ただいま。まあゆっくりしてくれよ」
家の中では飛ぶと危ないとわかっているのか、小さな脚でとたとたと歩く。
こうしてみるとかなり可愛い。赤いアヒルっぽさがある。
ちなみに俺に両親はいない。幼いころ、事故でなくなったからだ。
叔父は体が悪く、学校が終わったらすぐに介護をしていた。
それもあってか、俺は人付き合いが悪いとみなされてしまって、友達ができなかった。当然、彼女いない。
だが、今日は違う。
「キュイキュイッ♪」
「はは、俺の家気に入ってくれたのか」
嬉しそうに表情を和ませるフェニックス。言葉は通じないが、心は通じ合えている気がする。
そういえばなんて呼ぼう?
フェニックスというのは恰好いいが、名前ではない。人間、猫、犬みたいな分類だ。
「キューン?」
炎を守っているからメラメラ? うーん、でも可愛いんだよなこいつ。
炎を纏っているだけで身体自体は白いしな。羽根も触ってみると、うん、もちもちだ。
「よし……今日からお前は『おもち』だ。……いいか?」
「キュン! キュンキュンッ!」
嘴のキス連打。結構痛いんだよなこれ。でも、どうやら喜んでくれているらしい。
「おもち!」
「キュン!」
「君はおもちだ!」
「キュンキュンッ!」
嬉しそうで俺もほっこりする。
本当のおもちも、俺は大好物だしな。
「しかし、羽根が結構汚れてるな。生まれ変わったからか?」
先に飯を食べようと思ったが、まずは綺麗にしてからがいいか。
さすがに手を洗ってからというわけにもいかないしな。
風呂のタイマーをセットして、その間におもちと遊ぶ。
羽根が柔らかくて気持ち良い。
しかし、死んでも生まれ変わるってどういう構造してるんだ?
見たところ、記憶も受け継いでいるっぽいしな。
「おもちはやわらかいなあ」
「キュウ?」
『ピロピロリン♪ お風呂が、湧きました』
「お、よし風呂に入るぞ、おもち」
「キュン!」
◇
「最悪だ……」
「キューン……」
どうやらガスが壊れていたらしい。いや、ガス代が未納だったか?
死ぬほど働いているのに、なんで俺はこんなに貧乏なんだ。
何度かこういうことがあるので、慣れてはいるが、さてどうしようか。
「……風呂は今度にするか?」
「キューン……」
「そうだ。おもち、ちょっといいか?」
その時、ナイスアイディアを思い浮かんだ。少し申し訳ない気持ちもあるが、これもおもちのためでもある。
一次的に、炎中和スキルを解除する。
途端に、メラメラと炎が燃え盛る。
「よし、おもちいまだ! 風呂に入ってくれ!」
「キュキュキューン!」
おもちは思い切り湯舟にダイブ。
すると俺の予想通り、風呂が一瞬で熱くなる。
間髪入れず、炎中和スキルを発動っ!
「キュキュ~♪」
「おっ、いい温度か?」
入ってみると、かなり良い温度だった。炎耐性がある俺は、何度かわかる。
これは43度だ。少し熱くて、なおかつ心地が良い。
「最高だな、おもち」
おもちも大満足。ガスの契約も切っちまうか、なんて。
「おもち、身体を洗ってやるぞ」
湯舟に上がると、おもちの羽根を洗おうとした。だが、固まってしまう。
「……シャンプーか? いや……ボディーソープなのか?」
わからない、どっちだ? 羽根って髪か? それとも身体か? 触るとふわふわだし、髪っぽさがある。
とはいえ、常識で考えると身体だ。
「どうしたらいい……‥俺は」
「キュンキュンッ」
するとおもちが、嘴でボディーソープをツンツンとした。
「やるな……おもち!」
しかし頭の部分だけはしっかりとシャンプーだったらしく、ボディーソープで洗ったら怒られた。
ごめん、おもち。あと、ちゃんとリンスもした。綺麗になれよ、おもち。
最後にバスタオルを使って、丁寧に羽根の水分をふき取る。
今さらだが、炎だけど水は大丈夫みたいだ。
もしかしたらお風呂に入って消えて死んでた可能性もあるのか。
でもまあ、おもちは復活するから大丈夫だな! うん、ごめん……。
綺麗にさっぱりしたところで、俺は冷蔵庫からうどんを取り出す。
貧乏なので、これが主食だ。
……つうか、おもちって何食べるんだ?
「なあおもち、うどん食べれるか?」
「キュウ?」
さすがにわからないか。とりあえずいつものように作ってみる。
小さな皿に取り分けると、おもちは嘴でツンツンっと不安そうにつついた。
しかしすぐに、「ズルルルルッ!」っと勢いよく啜る。それがなんとも気持ちが良い。
「おっ、いける口だな!」
「キュンキュンッ!」
だがおもちはまったく足りなかったらしく、家中のうどんを食べた。
安上りのようで、実は結構な食費だ。
これは確かに……早急に色々と考えないといけない。
食べ終わると、また俺の頬をつついた。いい加減穴が開きそうで不安だが、大丈夫だろうか。
「さて、寝るぞ」
ちなみに家には布団が一枚しかない。いつも寒くて風邪を引きそうだったが、今日はおもちがいるので暖かい。
もしかしてこれって、天然の羽毛布団じゃないか?
「おもちぃ~ぎゅっ~」
「キュッ?」
俺とおもちは、どうやら上手くやっていけそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます