23話 土壌pHと見栄っ張りおじさん

「様子を見に行くか」


 昨日のマモワールドが大変だったので色々と疲れていた。

 おかげで昼まで寝てしまったが、充実感の溢れている寝起きだ。


「キュウキュウ♪」

「ぷいっ♪」


 おもちと田所は既に起きていたらしく、二人でイチャイチャしていた。

 最近仲良すぎるので少し嫉妬。ズルいぞ!


 ダンジョンの入口には、いつのまにかドサッと袋が置いていた。中を覗き込むと、大量の肥料や準備物。

 そしてグルメダンジョンで収穫できるありとあらゆる”種”が入っていた。

 ご丁寧にメモも貼られている。


『ご用意しておきました。山城様には返しきれないご恩がありますので』

「仕事が早いな」


 昨晩、グルメダンジョンで見かけた食材をここで育てられたらなあと御崎と話していたら、佐藤さんが用意しますといってくれたのだ。

 雨流のことで散々と迷惑かけたので、そのくらいはさせてほしいとのことだったので快く了承。

 

 だがまさか翌日に置いてくれているとは思わなかった……いつ寝たんだろう。

 それともう一つ、『光と水の精霊を放っておきました』と書かれていた。……どいうことだ?


「お、おもちありがとな」


 あまりにも多かったので、おもちが背中に乗せてくれた。

 どたどたと中に入っていく。


 そこに広がっているのは昨日と変わらな――。


「……あれ?」


 だだっぴろい土だったはずが、天井がホワホワと光っている。

 少し暖かい感じで、何かに似ている。


 これは……太陽光か?


 炎耐性(極)があるおかげで、熱の発信源が何となくわかる。

 もしかして精霊って……。


 スマホで調べてみると、精霊は火、水、地、風からなるもので、ダンジョン内で生息するらしい。

 日の当たらない場所でもダンジョン内に水や植物が存在するのは、そのおかげだという。


「なるほど、でもどうやって持ってきたんだろう……?」


 にしても便利だなあと思いつつ、精霊に感謝する。ホワホワ漂っている感じだが、原理はよくわからない。


「せっかくだし配信も付けてみるか」


 御崎は今日も手続きで管理委員会に出向いてもらっている。

 ミニグルメダンジョンを作る作業が面白いかどうかはわからないが、久しぶりに一人でやってみよう。


 ◇


『ミニグルメダンジョンを作っていく。作業用BGMを添えて~おもちと田所も~』

 *作業がメインなので反応薄めです。

 *ミニグルメダンジョンを作っています。

 *主は農業の経験は少ししかありません。

 *豆知識あったら教えてください。


「さて、今日は肥料を撒いていくぞ!」

「キュウキュウーっ!」「ぷいにゃー!」


『注意点多いなw』『お、昨日の続きだ!』『今日は久しぶりにアトリだけか。頑張って!』

『ミニグルメダンジョン楽しみ過ぎる』『こういう動画って何気に世界初じゃね?』


 スマホスタンドで定点になってしまうので、コメントは読み上げ機能を使っている。

 世界初……なのか? なんか、すげええことしてる気がするな。


「はいっ、はいっ、はいっ」


 世界初、ダンジョンで等間隔に肥料を土に撒いていく。

 マグマキノコ 、クリスタルフルーツ、どれもダンジョン産のものだ。


「はいっ、はいっ、はいっ」


『地味すぎるw』『動画ループしてる?』『喘ぎ声だけが響き渡る』

『さて、落ちます』『おもちと田所を見ているだけも癒される』


 どうやら世界初は凄い地味らしい。でもまあ、そうだよな。

 だが農業ってのはこんなもんだ。

 けれども田舎のじっちゃんは「男は黙って腰を曲げ、肥料を撒き、水を注いで、愛情を与えろ」って言ってた。


 俺はその言葉が好きだ。


「うおおおお、おもち、田所、頑張るぞ!」

「キュウウウウ」「ぷいにゅううううう」


 コメントは少なかったが、俺たちの仲はより一層深まった気がしたのだった。


 ◇


「ふう、ペロペロペロペロ」

「キュウぺろろろっろ」「ぷいぺろぺろぺろ」

 

 休憩中、壁のチョコレートを3人で舐める。

 気づいたのだが、場所によってカカオの濃度や味、液体度が違う。


 俺は苦めが好きなのでビターなところ、おもちは甘いのがいい、田所はドロドロの液体が好きだ。


『シュールすぎるww』『壁舐め三人衆』『アトリの服がチョコレートで汚れてるのか、土で汚れてるのか』


 太陽光も畑を輝かせてくれている。

 というか、自動でこんなことしてくれるってすごくないか?


 そのとき、本当に微かに何か聞こえた。


 声のような、声じゃないような。


「ん……?」


『どうしたアトリ』『おや、様子が……』『挙動不審』


「……れー……せー……」


 目を凝らしながら畑の横にある岩に近づいていく。


「……らせー……らせー……」


 何だ、何の声だ?


「光らせー! 照らせー! 耕せー! せー……ふえええええええええええええ!?」


 するとそこには、小さな小さな、本当に小さな女の子がいた。

 緑色の服を着ている様な、身体が緑っぽいような不思議な感じで、髪は金髪だ。

 背中には羽根のようなものが生えている。


「ふえええええええ/////」

「だ、誰ですか?」

 

 どうやら極度の恥ずかしがり屋らしい。と言うか、何してんだ?


『なにこの小人』『可愛すぎる幼女』『誘拐?』


「キュウ?」「ぷい?」


 何故だか知らないが、いつから住んでいたのだろう。手のひらサイズで可愛いが、光らせって……?


「怖くないよ。何もしない」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ、本当だ」


 少女は、というか幼女はホッと胸を撫で下ろしたかのように息を吐く。


 何か……可愛いな。


 てか、もしかして――。


「間違ってたらすまんが、もしかして精霊……か?」

「ふぇふええええええええ/////// そ、そうです」


 なぜだか知らないが恥ずかしいらしい。もじもじとしている姿も――可愛い。


 ただ天井の光はまだ動いている。これが精霊ってわけじゃないのか。


「佐藤さんが連れて来てくれたのは君か」

「さとうさ……ん? あの、ダンディなおじちゃまですか?」

「そうそう、おじちゃまだよ」


 言葉遣いがちょっと変わっているが、いい子そうだ。


「はい! 死のダンジョンが崩壊して死にかけたところを、おじちゃまに救っていただきました! こんな素敵な場所ももらえて、もうサイコーです!」


 なんか想ってたより元気そうな子だ。……死のダンジョンにいた情報は少し怖いが。


「死にかけってのは?」

「あ、ええと、申し遅れまちた。あたち、ドライアドっちという精霊なんでちゅが、所謂人間界はあたちにとって瘴気まみれの酸素多すぎ問題なのでちゅ。だからあたちはダンジョンが凄くサイコーなんでちゅ!」

「なんか変わった喋り方だね」

「えへ、えへへ////」


 褒めてないと思うが、まあいいか。

 つまりドライアドっちは、ダンジョン内にいるのが凄く居心地が良いということらしい。


「それで俺の畑を育ててくれていたのか」

「はいっ! あたちの住環境を整えてくれたご主人様には恩返しをしたいのでちゅ! アトリちゃま!」

「なるほどな。ドライアドッちは他に何ができるんだ?」

「光と水を使って畑の成長を促し、pHバランスの確保、肥料と有機物の配合、畝を整えたり、H2O濃度を確保したりでちゅ! ちゅみません、大したことしかできなくて……」


 いや、十分すごくない!? pHバランスって何!? おじさんわからないよ!?


「……俺もpHバランスは凄く大事だと思う。だったら、宜しく頼む。俺も君の環境をよくするために全力を尽くすよ」

「ご、ご主人ちゃまあああああああ/////」


 嘘ついてごめん。でも、ありがとう。


『絶対知らんだろw』『ドライアドッち、嘘をつかれてるぞ!』『もろバレすぎるww』『弄ぶのよくない!』


 読み上げ機能、ちょっと静かにしなさいっ。



 ドライアドッちは翌日、翌々日も元気にミニグルメダンジョンで頑張っていた。

 おかげで発芽し、思っていた以上の何倍も早い速度で下地が完成しそうだ。


 だが後日、『幼女をこき使うおじさん』『見栄を張るおじさん』『pHバランスニキおじさん』『幼女に嘘をつくアトリ』

 という切り抜き動画が公開され、嘘つきおじさんとして、ぷちぷちぷち炎上したのだった。


 ……ぐすん。


 以下、ウェキペディアから調べたphの意味。


 土壌pHとは、土壌中の水素イオン(H+)の濃度を表す指標のひとつで、酸性度とアルカリ度を示します。

 pHの値は0から14の範囲で表され、7が中性、7未満が酸性、7より大きいものがアルカリ性を表します。

 土壌pHは、土壌中の栄養素の可溶化度や微生物の活動性、根の吸収力などに影響を与えます。

 畑や庭園などで植物を育てる場合には、植物に合ったpHの土壌を選定することが重要です。



 多分、スクスク育つために必要なこと、と俺は認識したのだった。


 ―――――――――――

【 お礼とお知らせ 】


「ドライアドっちかわいい」

「これからのスローライフが期待できる」

「この話の続きが気になる!」


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