99話 阿鳥検討中、コテージにて

 きっかけはスマホの広告だった。


『別荘を買いませんか?』


 動画を見ているとたまに出てくる面倒なやつ。

 いつもは五秒経過した瞬間に消しているが、都内から車で30分という謳い文句に負けてしまった。


 俺たちが住んでいるところから北へ。

 山や川、自然いっぱいのキャンプ場がある。

 そこのコテージが売りに出ているという話だった。


 普通に考えればミニグルメダンジョンがあるので、必要ないと言えばそうなのだが、別荘ってのは男の憧れでもある。

 秘密基地、後、キャンプもしてみたい。


 幼い頃、叔父に連れられてしたことがあるくらいだが、凄く楽しかった。

 俺は、リビングでヨガをしている御崎に声をかける。


「御崎、焚火っていいよな?」

「んっ、突然ね」

「炎見ると、落ち着くよな?」

「私はどっちかというと海とかのほうが好きかなあ、泳ぐのが好きだから」

「そうだよな、やっぱり山って男女の憧れだよなあ」

「あれ、私って独り言喋ってる?」


 ということで、御崎も歓迎してくれたので、業者に電話して下見をすることにした。



「確かこのあたりで……お、あの人かな?」


 一週間後、不動産さんに連絡を入れて待ち合わせ。

 山道をくねくねしてやって来た。


 新型の車でパワーもあるので坂道すいすい、すーいすい!


 あれ俺、なんかテンション上がってるかも。


 車を止めて外に出ると、緑いっぱいの自然の中に放り込まれた気分だ。

 するとすぐ、ちょっとふくよかなおじさんが走ってきた。


「山城様でしょうかー!?」

「あ、そうです。すいません、ちょっと思ったより人数が多くなってしまって」

「師匠、山っていいっすねえ」

「おもち、外でるよーっ!」

「みんな、降りて―」


 おもち達は言わずもがな、雨流と住良木も着いてきている。

 それには理由があって、コテージの見学も兼ねてお試しで泊まらせてくれるらしい。


 そのまま気に入ってくれたら購入、みたいな感じのプランだ。

 かなりの太っ腹だが、高い買い物だと考えると普通なのだろうか。


 ちょっと相場がわからないが……。


「いえいえ! むしろご家族が多いとそれだけ喜ばれると思いますよ! うちのコテージは特にそういった方が楽しめると思います! 申し遅れました、私、内山田山田といいます!」


 ……すっげえややこしい名前だなと思ったが、そこは言及しなかった。

 多分、あだ名は山田。


「ちなみにあだ名は、「内田」でございますので、お好きにお呼びくださいませ!」

「わかりました山田さん」


 コテージは一般的なサイズよりかなり大きい。

 三階建て、同じサイズのコテージが他にもあるが、木々を挟んでいるので、隣人の声は気にならないという。

 そのあたりも確かに大事だ。


「どうぞどうぞ! まずは中を見ないとわかりませんからね!」


 案内され中に入ると、すぐに木の香りが漂ってくる。

 都会では絶対に嗅げない匂い、かなり落ち着く。


「気持ちいいね」


 どうやら御崎も良いらしい。

 キッチンはアイランド式で家のと似ているが、テーブルが木だ。


 上は吹き抜け、一回は広々とフラットになっている。

 モデルハウス兼お泊りプランなので冷蔵庫も設置されているが、このあたりも一括で購入することもできるらしい。

 

 そしてなんと言っても――。


「皆様でどうぞ! 足元をお気をつけください!」


 一番の目玉である庭に出ると、巨大なプールが俺たちを歓迎してくれた。

 既に水が張っている。青くて綺麗だ。


「がううう!」

「ははっ、やっぱりうれしいか」


 グミが尻尾をふりふり、プールの周囲を走り回る。

 雨流と住良木も嬉しそうに声をあげ、手をぴちゃぴちゃと水に付けた。


 これが一番、俺が興味を持ったきっかけだ。


 炎中和でおもち達も楽しめるし、何よりグミが喜ぶだろうなと思った。

 グミは温泉に入ることもできるが、いつもすぐにバテてしまう。


「いいですねえ、最近はモンスターペットが増えてるので別荘の重要も上がってるんですよ」

「そうなんですか? でも、確かにいましたね」


 ここへ来る途中にキャンプ場を通ってきたのだが、確かに大勢の魔物がいた。

 旅行サイトを見ても、魔物OKと書かれている所は増えている。


 法整備も整い始めたので、これからもっと加速するだろう。


「次は二階を説明しますよ!」


 そういって山田さんは、色々と教えてくれた。

 最後に費用だったり詳しい書類も頂き、ひとまず今日は楽しんでくださいとのことで帰っていった。


 俺ものんびりしようと戻ると、既にみんながプールで遊んでいた。

 住良木は学校指定のスク水、雨流は子供っぽいなんかふわふわしたピンク色だ。


 そして俺の……その……お嫁さんになる御崎は……黒のビキニ、もちろんスタイルは最高だ。


「御崎」

「あ、終わったんだね。お疲れさま、はい、飲み物用意しといたよ」

「結婚してくれ」

「え、いや、するんでしょ?」

「そうだった……。いや、こんな可愛い人がお嫁さんになるなんて……」

「……ふふふ、まったく。私も阿鳥みたいな恰好いい人と結婚できるの嬉しいよ」


 な、なんて最高なんだ……。

 これが……幸せ……「お水ぶちゅー」。


 するとグミが、嬉しそうに水弾を放ってきた。

 まだ水着は着替えていないのでびちゃびちゃになる。


 けど――。


「がうがう!」

「……よかろう、ならば戦争だ」


 さあて、今日は一日たっぷり楽しむぞ。


 

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