98話 ワンデイ異常気象

「政府によるとダンジョンが関係しているのではないかとのことですが、原因は不明だそうです。ただ探索協会、並びに日本気象協会の調べによると異常気象は一週間前後で収まるとのことです。しかし一方で、この状況を楽しんでいる方々もいらっしゃるみたいです」


 何でもない午後、テレビの美人アナウンサーが綺麗だなあと思いつつ、ニュースを見ていた。

 窓に視線を向けると、凄まじい光景が広がっている。


 どこからともなく子供の声が聞こえてくる。おそらく遊んでいるのだろう。


「このアナウンサーさん、美人ね」

「ああ、綺麗だな」

「……ふうん」

「引っかけはやめてください」


 御崎とそんなやり取りをしつつ、重い腰をあげる。

 もはや物置になっている部屋の襖から、とある道具を取り出す。


 どうせだったら、俺も楽しむか。

 

 早速おもちたちに声を掛けると、お外に出る準備だ。

 まずは点呼。


「1!」

「キュウ!」

「2!」

「ぷいにゅ!」

「3!」

「がう!」

「4!」

「グルゥ、ファイアーターック!」

「フレイム、ベルトは置いていこう。壊れたら困るからね」

「グルゥ……」


 着替えを済ませて玄関の扉を開けると、雪が降り積もって、あたり一面、白一色になった銀世界だった。


『すげえ、綺麗だな』『都内だけってのもめずらしいね』『うちの地方にも降ってほしかったな。大変そうだけど』


 今の季節的にまだ雪は早い、そもそも都内でこんなに降り積もることはほとんどない。

 理由はニュースでも言っていたがわからない。


 ドローンカメラで配信を付けているが、コメントを見て気づく。

 全国生配信なのだ。住んでいる場所が違う人もいるのは当然か。


 交通機関は大変らしく、運休停止の電車もあるらしいが……。


 ……そこにはあまり触れないでいこう。


「そういえば、炎タイプって雪大丈夫なの?」

「プールに入れるくらいだからな。まあでも、念のため炎中和を強めとくか」


 グミはむしろ魔力補充できるだろうなので、他の皆の魔力を強める。

 足だけ冷えないように、後転ばないようにみんなに特注の靴を履かせた。

 念の為買っておいたのだ。


 田所は大丈夫。多分。


 近くの大きな公園に移動すると、既に大勢の子供が遊んでいた。

 真ん中に積もった大きな雪が、天然の滑り台になっている。


「凄いね、みんな楽しそう」

「早速俺たちもって、あれ?」


 気づけば、フレイムだけいなかった。

 いや、よく見ると子供たちの列に並んでいる。

 背丈も同じくらいだ。なんだったら誰も魔物だと気づいてない。


『可愛すぎww』『待ちきれないのにちゃんと順番待ちして偉い』『見るものすべてが新鮮なのかな』


「……グルゥ」

「きゃっきゃっ、君格好いいね!」

「赤い服、かっこいー!」


 子供たちからも声を掛けられ、まんざらでもなさそうだ。

 意外に子供っぽいところが、フレイムのチャームポイントだな。


「キュウキュウ!」

「ああ、じゃあ俺たちも並ぶか!」


 とはいえ俺もワクワクしていた。

 こんな機会滅多にない。

 みんなで列に並んで、家から持ってきた簡易ソリで滑る。


 意外に高低差もあって怖かったりもしたが、それはそれで楽しかった。


 少しすると学校を終えた住良木、そして雨流もやってくる。


「最高っす! 雪、最高っす!」

「いつも最高って言ってるけどな」

「はい! 毎日が最高っす!」


 相変わらず元気がいい、まあそれが落ち着くんだが。その時、雨流の私服に気づく。

 今はゴスロリっぽい格好だ。日によって違うが、趣味なんだろうか。


 そういえば……。


「雨流って、学校とかどうしてるんだ……? 通ってるのを見たことないが」

「ん? 私は海外の学校に通ってたから、飛び級して今は通信でたまにぐらいかな?」

「と、とびきゅう?」


 そういえば海外では頭脳明晰だと学年を飛び越えられると聞いたことがある。

 まじか、この重力小娘はそんな天才なのか!?


 もしかして将来、なんかすごい発見とかして、お世話になった人は誰ですか、とかインタビューされたりもするんじゃないのか?


「……雨流、大人になっても俺のことは忘れちゃダメだぞ」

「え? あーくん、それってどういう意味?」

「阿鳥……心が透けてるよ……」


 御崎に見透かされているが、俺は雨流の頭をナデナデし続けた。



 それから俺たちはいっぱい遊んだ。

 雨流が能力で雪をかき集めて雪だるまを作ったり、グミが水で雪を固めてカマクラを作ったりして子供を喜ばせていた。

 気づけば夕日が落ち、子供が一人、また一人と消えていく。


 最後まで滑り台に並んでいたのは、フレイムだった。


「グルゥ」

「あと一回だけな、フレイム」


 ちなみに泣きの一回も当然あったことは言うまでもない。


『子供すぎるんよw』『雰囲気は一番大人だけど、そこが可愛い』『フレイムの末っ子感凄い』


 最後は自宅に戻ってダンジョン温泉に入って、みんなで疲れを癒した。

 遊んだ後の風呂って、何でこんなに気持ちいいんだろうな。

 *もちろんみんな水着です。


「グルゥ……」

「一週間続くらしいから、また明日も行くか」

「グルゥ! ファイアソニック!」

「風呂場に持ってきたらダメだぞ」


 翌朝――。


「一週間だと言われていましたが、今朝、異常気象・・・・が突然終了しました。これからはいつも通りの日常が戻って来るそうです。」


 フレイムが悲しそうにしていたのは言うまでもない。






 

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