100話 初めてのコテージキャンプ

 川のせせらぎの音、虫のオーケストラ、満天の星。


 後、おもち達の声。


「キュウキュウ!」

「ぷいにゅっ!」


『火、まだですか!?』『指遊びしてる』『いっせのーで2!』


 視聴者リスナーの言う通り、俺は火を付けるのに苦労していた。


 キャンプといってもコテージの庭だ。

 設置されている大きなコンロに炭を入れ、簡単に火が着くだろうと思っていたのが大間違い。


 何度やってもダメだ。


 お泊りプランだが、基本的に持ち込みだったこともあって、こっちで用意していたが、色々と足りないものが多かった。これは反省、いや猛省だ。


 ……待てよ。

 最初は火が付きそうだったのに、途中から全然ダメになった。


 焦れば焦るほどなんか……。


 その時、俺はハッとなる。


「御崎、ちょっとお願いしていいか?」

「もちろんいいわよ。貸してみて」


 俺の可愛いお嫁さんにバトンタッチ、すると――いとも簡単に火が着いた。


 ああ俺……興奮しすぎて炎耐性(極)が強まっていたらしい。

 たまにあるんだ、たまに……。


『ワロタ』『そういう時もある』『次から気を付けよう』


 ありがとうみんな、優しっ!


「あーくんって面白いよねー」

「師匠は、天然っす!」

「はは、はは、ははは」


 ようやくBBQ開始、道中、お高い肉や野菜を買い込んできたので、順番に並べていく。

 もちろん、ミニグルメダンジョン産もある。


 飲み物はクーラーボックスに入れていたのだが、フレイムが取って渡してくれた。

 俺と御崎はお酒で、みんなはオレンジジュースだ。


「グルゥ」

「ありがとう、まるでスーパーヒーロだな!」

「グルルゥ!」


 あ、やっぱり嬉しいんだ。


 グミは時折プールに飛び込んで戻ってくるを繰り返していた。

 やっぱり水があると嬉しいのだろう。


 南の島のときもはしゃいでたもんな。


「はい、たどちゃんピーマンよー」

「ぷいにゅっ!」

「はい、茄子よー」

「ぷいぷい!」


 御崎は田所を健康にしたいのか、それとも肉をメインで食べたいのか、ネギマのネギだけ食べさせているみたいになっていた。

 まあでも、田所が嬉しそうなのでいいか。


 しかしやっぱり都会の喧騒に悩まされないってのはいい。


 車の音とか、生活音とかがないと心が落ち着く。

 

 ここならドラちゃんも息抜きというか、外に出たくなるんじゃなかろうか。

 何度か誘ってはいるが、一度も出たがらない。


 ……欲しいな。


『これは買うな』『そんな顔してる』『別荘配信も面白いし俺らとしても最高』


 そうか、視聴者リスナーも楽しいか。


 それから俺たちは、食べて飲んで好きに配信して、思い思いの時間を過ごした。


 途中、トランプしたり、空を眺めながら星について語ったり。


「むにゃむにゃ……」

「師匠ぉ……すごい……っすぅ……」


 気付けば雨流と住良木は、プールサイドのベットで眠っていた。


「ふふふ、ほんと楽しかったんだね。ほら、おもっちゃんたちも寝てる」

「ああ、珍しいな。それで、どう思う? 俺としてはその……ありだなって思うんだが」


 配信を切って、二人で片付けしながら小声で話していた。


 俺と御崎は婚約した。

 一人で決めるのではなく、二人で決めるのが当然だ。


 すると御崎は、ふっと笑顔で言う。


「もう、決まってるでしょ? 私も、同じ気持ちだよ」

「……ありがとう」


 そして俺たちは、何度目かわからないキスをした。


 ▽


「ええもうはい! お安くしときますので! はい、是非! 伝えておきますんで!」


 翌日、内山田山田さんこと山田さん、いや内田さんだったか?


 コテージを買いたいと伝えると、大変喜んでくれた。

 上司に掛け合って値段も下げてくれるらしく、俺が配信者だと伝えたらその分値引きもしてくれるそうだ。


 ありがたいが、なんかズルを使ってるみたいだ。


 けれども、視聴者リスナーは肯定的で、俺たちも楽しみだから使ってくれ、と言ってくれた。


 それが、嬉しかった。


「じゃあ、帰るぞー。みんないるかー?」

「いるよー」

「師匠、ばっちしおっけいっす!」


「いつも運転ありがとうね」

「ああ、次は――ドラちゃんを連れてこよう」


 初めてのコテージキャンプ、最高の思い出になったのだった。

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