101話 ドラちゃんとドラちゃん
全ての手続きが終わり、コテージは俺の名義に書き換えられた。
値段も安くしてもらって、大満足だ。
冷蔵庫や洗濯機など必要そうなものは据え置きだが、ベッドや焚火台はもう少し自分のこだわりにしたかったので、返却することにした。
車で30分とはいえ毎日来るわけじゃない。基本的には中古でいいだろうとリサイクルショップで御崎と揃えた。
今日は業者が届けてくれる日だ。
細かい指示を伝えるので、またコテージに訪れていた。
「では、ご検討の程、宜しくお願いします」
「わかりました、ご丁寧にどうも」
途中、コテージの近くで牧場の経営をしませんか? 紙をもらった。
今は使われていないらしいが、コテージの設営と共に運営者を探しているらしい。
別荘を購入した人に渡してるとのことだが、自然好きな人が多いだろうし、興味がある人もいるんだろうな。
「いいところでちゅねー」
そして今回、非常にめずらしいゲストに来てもらっている。
「ご主人ちゃまの言ってた通り、綺麗でちゅね!」
「喜んでもらえてよかった。コテージ内も自然な木ばかりだから、気に入ると思うよ」
ミニグルメダンジョンの主、精霊のドラちゃんだ。
今やダンジョンは魔力、魔石が増え、自動化できるほど安定しているらしい。
自然が多い場所なら行ってみたいでちゅ、ということで、一緒に来てもらった。
ちなみに今は俺の肩に乗っている。
ほぼ同時に、業者のトラックが到着した。
「阿鳥、私が行ってくるよ。ドラちゃんを案内してあげてもらっていい?」
「悪いな、じゃあドラちゃん、ルームツアーしようか」
「はいでちゅ!」
中に入って色々と設備の説明をしたのだが、やっぱりというか、ドラちゃんはあまり興味がなさそうだった。
嬉しそうだったのは、木の材質の話とか、中庭に生えている草の種類だとか、そういうのは気になるらしい。
ほんと、自然が好きなんだな。
「でゅへへ、落ち着きますねえ」
「そ、そこでいいのか?」
最終的にはプールサイドの横にあった小さな木の幹に寝ころぶ。
ここが落ち着くとのことだ。
これでフルートがあればスナフキン、いやドラフキンか。
俺としてはその横にある大きなプールベッドで横になってほしいのだが、本人が幸せならそれでいいだろう。
おもちたちも当然来ているが、グミたちとまたプールで遊び始める。
ドラちゃんもスヤスヤとお昼寝を始めたので、俺も御崎の手伝いにいくことにした。
色々と私物を置いて行く中で、一つだけ初めて見るものがあった。
――写真だ。
「これ、御崎が?」
「スマホで撮影したのをプリントアウトしたの。家にも置いたけど、こっちにも飾りたいと思ってね」
「……いいなこれ」
「ふふふ、でしょ?」
婚約パーティの集合写真だった。
みんなが、笑顔で写っている。
おもちは空を飛んでいて、田所はぷにぷにで、グミはなぜかおっきくて、フレイムはベルトを付けていて。
なんだか今、幸せを実感してる気がする。
「もうひと踏ん張り、がんばろっか」
「そうだな。これが終われば後はのんびりするだけだ」
▽
「ありっしたー!」
業者を見送って、ようやく一段落。
ただ思ったより早く終わった。
のんびり何か食べようかなと思ってコテージに戻ると、プールサイドが何やら騒がしい。
なんだろうと向かうと、ドラちゃんがなぜか、おもちたちに囲まれていた。
「違うんでちゅ! これは!」
「どうした?」
ドラちゃんは両手いっぱいに野菜を持っていた。
俺が段ボールに詰めていたものだ。
お腹が空いていたのかな? と思った時、後ろから声がした。
「どうしたんでちゅか?」
「え? あれ……ドラちゃん?」
「はいでちゅ?」
「違うんでちゅ、これは!」
野菜を手に持つドラちゃん。
後ろで寝起きのドラちゃん。
交互に顔を見合わせるが、おかしい。
あれ、ドラちゃんって双子だったっけ?
「……あれ、あたちがもう一人?」
その言葉でようやく気付く。
「ご、ごめんなさいお腹が空いてたんでちゅ! 許してくだちゃい!」
ドラちゃんが、二人いることに。
「阿鳥、どうしたのー? って、ドラちゃんが二人!?」
そして御崎も、同じことを声に出すのだった。
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