102話 アトリふぁ~む?

「おいちいでゅ、おいちいでちゅね」

「良かったでちゅ」

「最高でちゅ」

「いいでちゅね、いいでちゅね」


 語尾が似ているので非常にややこしいが、最初にコトマトを食べて血だらけみたいになってるのが、野生ドラちゃん。

 嬉しそうに眺めているのが、本物ドラちゃん。

 いや、これわかるわけがないな。


 後、長いので野ドラと本ドラと呼ぼう。


「それで、何でお腹が空いてたんだ?」

「ええと……じちゅは……」


 それから、野ドラちゃんが話してくれた。


 元々この近くにダンジョンで生活していたらしいが、ある日、探索者に制覇されたそうだ。

 崩壊する直前、力の強いドラちゃんは脱出、行き場を失って森にすみ着いたが、コテージが次々と出来てしまい、端に追いやられるように逃げてきた。

 そして、ここに辿り着いた――。


「なるほど……それは悪かったな……」

「いえいえ! 仕方ないでちゅ! あたちも元々は違う所からきまちたし!」

「可哀想でちゅね……」


 本ドラちゃん言う通りだ。

 俺も出来れば何とかしてやりたいが……。


 その時、御崎がいいアイディアを思いつく。


「だったら、ミニグルメダンジョンに来てもらうのはどう?」

「ああ、そうだな。それいいじゃないか」


 だが、本ドラちゃんが首を振る。


「あたちたち精霊は同じようで全く違うんでちゅ。あまりに近いと反発ちあって、ダンジョンが崩壊ちまちゅ」

「そうなのか……」

「大丈夫でちゅよ! あたち、こう見えて結構強いんでちゅ!」


 野ドラちゃんは元気よく言っているが、ドライアドが繊細な精霊だと知っている。


 このまま頑張ってくれと無責任に見送るのは、違う。


 その時、ハッと思い出す。


 今朝、業者からもらった紙だ。


「……野ドラちゃんは、自然とか動物は好きか?」

「はい、ちゅきでちゅ! 癒されまちゅし、皆と心を通わせるのが好きでちゅ!」

「だったら――」


 本ドラちゃんは、ミニグルメダンジョンで魔物家畜といつも仲良くしている。

 何より楽しそうだ。


 そして俺は、ポケットからプリントを出した。


 ……これだ。


「御崎、ちょっといいか?」


 俺は、彼女の耳に手を当て、ごにょごにょと訊ねてみる。

 そして彼女は、優しく頷いてくれた。


 ▽


 車で15分ほど山を上ると、自然豊かで開けた場所に出た。

 そこには過去、牧場であったであろう広い土地、しかし古い柵で囲まれていた。


 今は使われていないとの言葉通り、随分と手入れがされていないようだ。


 看板には、内山田山田ふぁ~むと、書かれている。


 ……あれ? これはもしかして……。


「えー、はい。そうです、はいはい。はい、わかりました。はい」


 電話を切ると、御崎が声をかけてきた。「どうだった?」と。


 俺はドラちゃんに声をかける。

 左肩乗ってるのが本ドラで、右肩が野ドラだ。

 いや、この説明はいらないか。


 実は、ミニグルメダンジョンの第一層には限界を感じていた。

 野菜の畑がメインなので、魔物家畜を殖やそうとしても、ドラちゃんだけでは人手が足りない。


 誰かを雇うにも、流石にミニグルメダンジョン、私有地で働いてもらうのは色々と問題がある。


 そのとき、考えたのだ。


 もう一つ、ダンジョンがあればいいなと。


 だがよく考えると、ダンジョンじゃなくてもいい。


 もう一人のドラちゃんがいれば、きっと同じことができるはず。


「野生ドラちゃん、俺と一緒にアトリふぁ~むを作らないか」

「あとりふぁあむ?」

「家畜魔物を飼って、ここでみんなと楽しく暮らすんだ。もちろん、やることはいっぱいあるだろう。俺は頻繁に来れるわけじゃないから、かなり君に頼ることになるかもしれない。だが、牧場が上手くいけばここに家を建てることができる。そうなれば、自然豊かなこの場所で君は暮らせる」

 

 野生ドラちゃんは、少しだけ不安そうだった。

 今までダンジョンにいたのだ。現代のことなんて全然わからないだろう。


 だが――。


「あたちも手伝うでちゅ、がんばりまちょ!」


 本ドラちゃんが、ニッコリ笑って声をかけた。

 これには野ドラちゃんも、笑顔で答える。


「じゃあ……アトリちゃま、よろちくお願いします!」


 こうして俺は、もう一人のドラちゃんとアトリふぁ~むを作ることになった。






 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る