50話 悪いことの後には良いことが……ある?
「どうぞ、阿鳥様。お召し上がりください」
わかっていたことだが、まあなんというか、凄まじいほどの豪邸なのだ。
敷地をぐるりと囲む高い壁、和洋を集結させたような外観に広大な日本庭園。
よくもまあ雨流は俺の家なんかに家出をしてきたな……。
そして今いるこの場所は食事をするところらしいが、広すぎて困っている。
テーブルの端まで手が届かないですよ!
キラキラと光る特上寿司、最高級の魔物フード、他にも和洋中、何もかもだ。
「うふふ、美味しい、美味しいねえ」
御崎とは長い付き合いだが、ここまでの笑顔は見たことがない。
よく見たら涙を流してる。そうか、人間って美味しものを食べると泣くんだな。
「山城、食べないんですか?」
「ちょっと驚いてな。ありがたくいただくよ」
ミリアが心配そうに見つめてきたので、目の前にあった大トロを口に運ぶ。
すると驚いたことに――
油の旨味が口中に広がる。これが――最高級。
「うますぎる……」
「おもち、田所、グミもいっぱい食べてね!」
「キュウキュウ!」
「ぷいにゅーっ!」
「がううう!」
雨流は食事が美味しいというか、おもちたちと一緒に居るのが嬉しいらしい。
背の高い椅子まで用意してもらって、前掛けのエプロンまでさせてもらっている。
だがやはりうどんが食べたいらしく、特別に佐藤さんが全員にミニうどんを付けていた。
至れり尽くせりとはこのことか。
「阿鳥様、ご自宅のほうは一度取り壊した上で修繕しますので。近年は工場で作成した後に運ぶので、想像よりは早く終えるかと思います」
「ああ、でも本当にいいのか? その……家を建て替えてもらうなんて」
「当たり前です。というか、そのくらいさせてください。今回の事でも思いましたが、セキュリティはしっかりしておいた方がいいですよ」
「……ああ、そうだな」
チラリと御崎に視線を向ける。
元々築年数を考えると家の耐久が心配だったが、オートロックすらないあの家に御崎や雨流が来るのが不安だった。
もちろんおもち達もだ。
今回、探索委員会から特別報酬を頂いたのだが、それと合わせてミリアが費用を負担してくれると言ってくれた。
俺たちも今までの貯金が随分貯まっていたのでゆくゆくはと考えていたが、まさかこんな早く夢が叶うとは。
ミニグルメダンジョンは当然そのままで、庭も基本的な形は変えずに整えてくれる。
ただ数週間はかかることなので、俺たちは全員雨流家に居候することになった。
それと林真弓と
もう二度と出て来られないらしいが、正直そのくらいでいいだろう。
つうか、めちゃくちゃ耐性取得したこと、まだ誰にも言ってないんだよなあ。いつ言おうかなあ……。
「それで耐性は幾つほど覚えたんですか?」
「え? ……何の話?」
「気づいていますよ。あの無数の攻撃を捌くなんて、尋常ではありえません」
「……気づいていたのか」
「はい、当然です」
「そうだぁつああのおお?」
さすがミリア鋭い。御崎は少し不満そうに睨んできたが、サイコロステーキを口に入れているらしい。
そして後ろで待機していた佐藤さんが、俺に顔を向けた。
「私が思うに阿鳥様の真の能力は『完全状態無効』もしくは全くの未知数の可能性があります」
そういえば、真弓がそんなことを言っていた気がする。
佐藤さん曰く、俺は死に直面した時に真の能力が発揮するのではないかと言う事だ。
正直心当たりしかない。
その話に何か想ったのか、御崎がステーキを口に運びながら眉を潜めた。
「なんかあおかしいとぉうお、思ってたんぢゃよねええ」
「行儀悪いぞ」
ごっくん、お水を飲んで一息。
「なんかおかしいと思ってたんだよね。それで、どんな耐性を取得したの?」
「え、ええーと」
雨流も俺を見る。いや、全員が俺に注目している。
……だ、大丈夫かな?
「ええと――」
そして俺は、全てを話した。
だが全員が沈黙、佐藤さんですら声をあげなかった。
「……そんなの、今まで聞いたことがありません。ありえない」
「おいミリア、人を化物みたいに言うなよ、怖くなるだろ」
でも確かに耐性多すぎるよな。(極)ってそんなほいほい手に入るもんか?
「でも、身体に支障なんてないんでしょ? しんどいとか、そういうのは?」
「一切ないな。頗る元気だ」
御崎の言葉で気付いたが、幼い頃に思い切り風邪をひいてから一度もかかった記憶がない。
もしかして俺、風邪耐性とかも……いや、そんなわけはないよな……?
「……私の知り合いに鑑定スキルを持つ人がいます。忙しい方なので連絡が付きづらいのですが、見てもらえるように話しておきましょうか? それでハッキリすると思いますが」
「なんか怖いが、確かに知っていたほうがいいよな……。佐藤さん、頼んだ」
「承知しました」
そういえば
俺もなぜか感謝状をもらったりなんかして誇らしかったが、おかげで? ネットで名前を検索すればすぐに出てくる始末。
嬉しいやら、なんだか怖いやら。
「そういえば、親を見てないけど仕事なのか?」
ミリアに訊ねたのだが、答えてくれたのは雨流だった。
「仕事でいつもいないよー、いても話さないけど」
「小さい頃は仲が良かったんですが……最近はそうではありません。まあ、私たちの能力に少し怖さを感じてるのもあるかと思います」
「そうなのか……」
ミリアのスキルは氷魔法。空気中に存在する水分を利用することで作り出しているらしいが、海が近くにあると無敵だそうだ。
ちなみに能力者がこの世界に誕生して以来、四大元素と呼ばれる魔法の使い手は問答無用で強いとされている。
ただ、雨流だけは規格外だが。
「ミリアも雨流も確かに強いが、それは個性だ。いつかわかってくれるよ」
「……ありがとうございます。そうだといいんですが」
少し悲し気な表情を浮かべるミリア。俺は元気づけようと、いつもより張り切って声をあげる。
こんなご馳走を前にして、いつまでもシリアスな雰囲気じゃダメだ。
「さあて、今日はいっぱい食べるぞ! おもち、田所、グミ、こんな機会はないからな! 雨流家の食料を空っぽにしてやれ!」
「キュウー!」「ぷい!」「がううう!」
その日、久しぶりの宴は本当に楽しかった。
◇
「しかしこれが個人の風呂……か? まるで大浴場だな」
「キュウ!」
「ぷいにゅう」
「がううう!」
数十人は入れそうな湯舟、西洋を思わせる作りは、雨流たちがハーフだということを思い出した。
無添加と書かれたシャンプーとリンス、大きいブラッシングでおもちとグミの毛並みを整えてあげる。
田所はよくわからないが、気持ちいいことには変わりないらしい。
「キュウウウ……」
「ぷいにゅ」
「がううう!」
「ははっ、気持ちいいか。いつもありがとな、危険な思いをさせてごめんよ」
するとおもちとグミがペロペロと俺の腕を舐めた。大丈夫、と言ってくれているみたいだ。
田所は俺の頭に乗ったかと思えば、シャワシャワとシャンプーをしてくれた。
最高に癒される――そのとき、ドアがガラリと開く。
「おもちー!」
「……え?」
雨流が走ってくる。一応、タオルは巻いている。
……え。
「山城、お邪魔します」
続いてきたのはミリアだった。同じくタオルは巻いているが、透明な白い肌が肩から見えている。
いや、太もももだ。
そして横にはなぜか御崎もいる。二人と違って堂々としておらず、モジモジとしている。
同様にスタイルがいいので、タオル越しに……体のラインが!?
てか、な、なんでここに!?
「阿鳥、見すぎよ! わ、私は 二人が入るっていうから、何するかわからないし……ジロジロみないで!」
「え、あ、いや、てか!? ~~~~~~~ッッッ!?」
俺は急いで湯舟にダイブ。
裸なのをすっかり忘れていた。いや、当然だが……。
何で女子風呂に行ってないんだと思ったが、ここは個人宅。
普通に考えれば分かれているわけがない。
にしても――。
「なんで時間をずらさないんだよ!?」
「おもち達と入りたかったんだよねー!」
雨流はおもちと手を繋いで喜んでいる。いや、そりゃ君達は嬉しいだろうが……。
「わ、私は……監視! 阿鳥が変なことしないように!」
「そんなこと言われても……」
「山城、駆け湯は終わったので、失礼します」
ミリアが、俺の隣で入浴を開始。破壊力はばつぐんだ!
「え、ええ!?」
「……阿鳥、あんまりジロジロみないでね」
「は、はい!?」
赤面した御崎が、ミリアとは反対側、俺の横に座る。改心のいちげき!
元気にはしゃぐ雨流、静かにお湯を楽しむミリア。モジモジ御崎。
何この状況!?
「おもち、田所、グミ、お風呂入ろうねー」
最終的に雨流やおもち達も入って来る。
もふもふと美人女子、いや、美人女子ともふもふか?
「山城、そういえばお付き合いの件、考えてくれましたか?」
「お付き合い? え、そんな話してたっけ?」
「はい。それに戦う姿はとても恰好良かったですよ」
ミリアが真剣な顔すぎて、冗談を挟む余地がない。
何でこの状況で褒めてくるの!?
「まあでも確かに、戦っている時の阿鳥は割と……かっこよかったかも」
すると隣の御崎が、いつもとは違う様子で言った。
しかもオチなし。ねえこれなに夢!?
「あーくんは恰好いいよねー!」
最後に雨流まで。そして後ろからおもち達がぎゅっと抱擁してくれた。
え、ないこれ、俺明日死ぬ? それとも最終回?
「山城、お背中を流してもらえませんか?」
「え、ええ!?」
「……阿鳥、私のもお願いしていい?」
「ひ、ひゃああ!?」
「えー、あーくんずるい! 私も!」
「おいおい!?」
「キュウ!」
「いや、さっき洗ったよね!?」
田舎のおじいちゃんが言っていた「悪い事の後にはいい事がある」。
ああ、本当なんだなあ……。
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