107話 これってもしかしてNT……いや何でもない。

 世界中で探索者は増え続けている。制覇されるダンジョンがあると、なぜか新しく誕生する。

 世の中は謎ばかりだが、確実に俺たちは新世代と呼ばれる覚醒者が多くなっていた。


 魔法が、魔物が、標準化されつつある。


 そして岩崎の件から、法整備が追いついて来ている。

 それもあって、色々と制約が増えていた。


 まず、ダンジョンでテイムした魔物は、探索者委員会の特別医療チームが検査することになっている。

 特に家畜魔物の審査は厳しいらしい。


 今まで問題があったことはないが、今考えると完全フリーだった事も結構やばい気がする。


 考えれば当たり前、だけどこういう積み重ねが歴史を作っていく。


 江戸ダンジョンを終えた一週間後、俺は引き取りの為に保護施設を訪れていた。


「食事に関しては先ほどあげたばかりなので問題ありません。家畜魔物については、先々の講習を含めた免許を取得した方に何度か来てもらうことになりますので、宜しくお願いします」

「わかりました。ご丁寧にありがとうございます」


 さあて、久し振りのご対面だ――。


「モォケコッコブヒイイイイ」

「モォケコッコブヒイイイイ」

「モォケコッコブヒイイイイ」

「モォケコッコブヒイイイイ」


 ……なんか、元気になってないか? だがみんな嬉しそうだ。

 心なしか肥えた気もするが。


「ガオニァオ」


 お、魔物虎ビムビーストも元気だ。

 随分と身体は小さくなったが、それでもゴールデンレトリバーぐらいある。


 見た目は虎だが、テイムされているので大人しい。


 後他にも、ミニグルメダンジョン内と同じミニウシやコニワトリをテイムしてきた。


 これだけいれば、野ドラちゃんも寂しくないだろうし、牧場も運営できるはずだ。


 一応、というか、俺も本腰をいれているわけではないので、決めたことがある。

 

 それは、殺生をしないことだ。


 肉を食べるべからずというわけではない。ただ、この牧場では触れ合いをメインにしたいと思っている。


「阿鳥、トラックの準備できてるよ」

「あーくん、手伝おっか?」

「ああ、二人ともじゃあお願いできるか?」


 御崎と雨流は、能力を使って魔物たちをトラックに乗せる。


 耐性スキルが強いのは俺もさすがに認めるが、念じるだけで動かせるのって楽しそうだよなあ……。

 

 俺も超能力みたいなので、ぶんぶん敵と戦ってみたかった。


 その時、俺の身体がふわっと浮いた。


 そのまま、トラックの荷台にぽんっと載せられる。


「え?」

「一応、落ちないか一緒に見てもらっていい? 特別に許可は取ってるよ」

「あ……ああ。そりゃそうだよな。俺がテイムしたもんな」

「みーちゃん、お菓子食べながらいこー」

「はいはい、セナちゃんシートベルトしっかりしてね」


 そして二人は、運転席に入っていく。


「モォケコッコブヒイイイイ」

「モォケコッコブヒイイイイ」

「モォケコッコブヒイイイイ」

「モォケコッコブヒイイイイ」

「ガオニャオ」


 ……ま、まあ!? こればっかりは仕方がない。


 山まで約三時間、頑張るぞお!


 ……ぞ……ぞぉ。


 ▽


「んーっ、気持ちい。やっぱり何度来てもいい景色ね」

「あーくん、ヨロヨロしてるけど大丈夫?」

「雨流、俺のお尻ってまだ付いてるか?」


 荷台に揺られて、みたいな優しいレベルではなかった。

 

 荷台に攻撃されて、みたいなレベルだった。


 家畜魔物や魔物虎ビムビーストはすやすやと寝ていたので、俺の身体がヤワなのかもしれない。

 それに死ぬわけじゃないので、耐性を習得することもできなかった。


 なんだったら死にかけてくれたほうがいいとまで思ってしまったぐらいお尻が痛い。


 とはいえ、無事に到着した。


 牧場は以前よりもかなり整っている。

 簡易小屋もデカくなったし、野ドラちゃん用のプレゼントも買ってきた。


「あ、あとりちゃま!」


 さっそく、剛士さんの肩に乗ってご登場。

 本ドラちゃんは俺の事をご主人ちゃまと呼ぶ。

 これはちょっとした違いだ。


 とはいえ、見た目は変わらないが。


「山城さん、テイム魔物凄いですね。一気に賑やかになりそうだ」

「かもしれません。それと、本当いいんですか? 俺としてはありがたいんですけど……」

「はい、すっかりここを気に入ってしまって。それに、ノドラちゃんとは話が合うんですよ」

「た、たけしちゃま! うれちいでちゅ」


 剛士さんは、俺の牧場を正式に手伝ってくれることになった。

 俺はミニグルメダンジョンがメインになるので、従業員を雇うことを視野に入れていたが、こんなにありがたいことはない。


 彼なら何も心配することはないし、何だったら俺よりも魔物に詳しい。


 人の縁ってのは不思議だ。こうやって、色々と繋がっていく。

 

 おっと、そういえばリカちゃんハウス買ってきたんだ。

 さっそく、プレゼントしよう。


「野ドラちゃん、これリカちゃ――」

「たけしちゃま、これから忙しくなりまちゅね」

「ああ、だけど頑張ろうね」

「はいでちゅ! 嬉しいでちゅ!」


 ……あれ? なんだか、凄く仲良く……?


 これって今はやりのNT……、いや、何でもない。








 

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