106話 このはしわたるべからず

『たとえ火の中水の中草の中』『江戸の中♪』『なかなかなかなか大変だけど!』


「やめてください」


 前回のノリがどうにも面白かったらしく、ゲットだぜの流れが続いていた。

 とはいえ、幸先が良い。

 いや、良すぎるくらいだ。


「モォケコッコブヒイイイイ」


 しかし何度聞いても、見てもよくわからない。

 変な魔物だ……。

 

 家畜としては優秀だろうし、農家の人は喉から手が出るほど欲しがりそうだ。

 今は御崎がロープを繋いで、凄い数の犬の散歩をする人みたいなっている。

 テイムしたので無くても大丈夫だが、念の為だ。


「フレイム、流石っす!」

「グルゥ」


 住良木とフレイムは、今の攻防? を通してより仲を深めていた。

 二人で肩を組みながら、ルンルンで歩いている。


 もちろん、変身ベルトは装着済だ。


『元気そうなところ似てるよな』『スメ×フレ』『二人で変身っ! ってやりそう』


 それから俺たちは、江戸カインズダンジョンをまるで見学しているかのように歩いていた。

 汲み取り式のなんかアレだったり、平屋だったり、マジでどこか見たことがある感じだ。


 その時、大きな橋を見つける。


 そして――。


「このはしわたるべからず……」


 どこかで見た事があるような看板が、橋の手前に立てかけられている。


 あれって江戸だったか……? 室町とかだった気がするが……。


「よくわかんないなあ。師匠、進みますよーっ。フレイム、いこ!」

「グルゥ、ファイアターック!」


 そう言いながら住良木は端を渡そうとする。

 もちろん、ど真ん中から。


 今の子は知らないのだろうか。


 いやそれよりもなんだか嫌な予感がして、静止しようとするが――。


「ガオオオオオオオオオオオオン!」

「ひ、ひぃ!?」

「グルゥ」


 上から降ってくるように現れたのは、それはもう大きな大きな虎でした。


 まるで化け物です。ガオオガオオと叫び、爪は鋭い牙はガバーッ。


 これには住良木さんも、フレイムさんも、大慌て大慌て。


 だけど大丈夫、一休み一休み。


 ……なんか、絵本みたいになってしまった。


『デカすぎるだろ!?』『これはヤバイ』『逃げたほうがいいんじゃないのか?』


「住良木、こっち来い! 橋の上はダメだ!」

「は、はひー!」


 しかし虎は、猫のようにぴょんぴょん逃げる住良木を追いかけようと後ろ脚をぐっと貯めた。

 次の瞬間、凄まじい跳躍力で瞬時に距離を詰める。


「おもち、グミ!」

「キュウ!」

「がう!」


 俺の掛け声で、二人は分断する為に炎と水の壁を作った

 まず、水にぶちあたって虎は速度を落とし、続いて炎の壁に怯んで足を止めた。


 住良木とフレイムは何とか戻ってきたが、壁が消えた途端、虎が再び姿を現す。


 間近で見るとその大きさは、通常の五倍はありそうだ。


 溢れ出る魔力は、間違いなく強い。


「阿鳥、魔物図鑑アプリで解析エラーだって……」


 なるほど、未確認か……。


『ボスっぽいな……』『今まで見た中でも一番やべえ……』『アトリ無理しないでくれ』


 まあでも、これでも俺は強いぜ、虎ちゃんよ。


「俺が隙を作る。みんなでロープを巻き付けてくれ。多分、一本じゃ足りないだろう」

「阿鳥、まさかテイムするつもり!?」

「師匠、こんなデカいのどうするんすかあ!?」


 二人は心配しているが、俺は任せとけと伝えて駆けた。

 普段は住良木が前衛だが、流石にこの大きさは危険すぎる。


 虎は身体を屈めると、獣特有の構えで爪を地面に突き立てる。


 俺は斬撃耐性(極)を持っているが、それが適応されるのかはわからない。


 できるだけ攻撃を受けず、それでいて隙を作る――。


「ガオオオオオオオオオオ」


 ……できっかな?


 次の瞬間、虎は俺に突撃してきた。


 だが俺は、闘牛のように寸前で交わすと、振り向きざまに『魔丸まがんを放つ』。

 久し振りの魔法攻撃だ。伊達に耐性持ってねえぜ!


 指先から赤い魔力と黒い魔力が重なり合って、螺旋を描くように発射された。


 しかし――。


「ガオオオン!」


 虎の口から発射された魔力砲で、いとも簡単にかき消される。


 ……まじ?


『絶体絶命のピンチ』『アトリ、南無』『いや、これからww』


 とはいえ、隙が出来たのは間違いない。

 そしてそれを見逃すほど、俺の仲間は弱くない。


「フレイムっ!」

「グルゥ!」


 住良木とフレイムが、虎に近づき、拳で打撃を与える。

 コスチューム&魔法手袋の破壊力抜群パンチ。


 フレイムも攻撃の瞬間だけ巨大化していた。


 だが虎はまだ耐えて、返しに魔力砲を放つ。


 しかし、それを御崎が反射リフレクトミラーで弾き返す。


 素晴らしい連携だ。


「ナイスだ――」


 最後に俺が、炎を漲らせた吸収剣で一撃を与える。

 同時に、おもちとグミがブレスと水弾を放つ。


 全員の攻撃が、虎に見事ヒット。

 その瞬間を見逃さず――『魔縄ロープをかける』


『うおおおおおおおおお』『みんなの力がすげえ』『これは胸熱』『修羅場くぐってるだけあるなw』


「よし、これ――でええええええええええ!?」


 だが虎は、ぐおんぐおんをと首を振り回す。

 まるでロデオマシンだ。とはいえ、俺もしつこいと有名だ(どこかで)


 ぶんぶんと振り回されるも数十秒、ようやく虎が落ち着くと、「ガオニャオ」と猫撫で声を鳴らした。


「死ぬかと思った……」

「ガオニャオ?」


 だが、テイムは別だ。これは大人しくさせただけで、きびだんごではない。


 魔力が高いとそれだけ難しくなる。

 おもちも、田所も、グミも、フレイムも自ら進んで来てくれた。


 俺は、虎の肉球に触れる。

 魔物と手を握るのは、心を通わせる一番良い方法だ。


「俺は牧場を作る。意味は分からないと思うが、そこで一緒に暮らさないか? 空も綺麗で草原もあって、大勢の魔物たちと一緒にのんびりできる。野ドラちゃんってのがいて、仲良くなれると思う。できれば、番虎をやってほしい」


 伝わるかどうかはわからない。だが――。


「ガオニァオ」

魔物虎ビムビーストのテイムが完了しました』


 俺の気持ちは、伝わってくれたらしい。

 ビムビーストというのか。


 牧場と聞いて、やはり剛士さんの時のことを思い出していた。


 窃盗団みたいなのは絶対いるだろうし、俺も頻繁に通えるわけじゃない。

 番犬、といったら聞こえは悪いかもしれないが、自ら来てくれる強い魔物がいてくれたらと考えていた。


「ガオニャオ♪」

「よろしくな、魔物虎ビムビースト




 






 



 


 


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