105話 最新装備

 俺たちは、まるで戦隊ヒーローのようなコスチュームに身を包んでいた。


 ちなみに顔マスクはなし。


『アカレンジャイ!』『住良木ちゃんのイエロー似合うw』『ミサキちゃんのピンク色は似合うね』


 なんでこれを着ているかというと、大和会社の新作、ダンジョン用スーツなのだ。

 これがあれば通常より魔力の流れが良くなって、身体能力がパワーアップする。


 ちなみに血行も良くなって腰痛にも効くとか。


 それより気になるのはその……御崎の胸だ。

 コスチュームってのは思っていたよりも圧迫されているのが、スラッシュが凄い。


 たゆんたゆんスラッシュ、略してたゆスラ。


「阿鳥、そろそろ入る? どこ見てるの?」

「見てません。入りましょう」

「師匠、いつでもおっけいっす!」


 いや、何を考えてるんだ俺。


 今から命を賭けた戦いがはじまる。


 ダンジョンと車の運転は慣れたときが一番危険だ。


 ダメだダメだ。


 意識を切り替えろ――。


「グルゥ」

「キュウキィッ?」

「ぷいにゅ?」

「がうがう」


 視線を横に向けると、専用のコスチュームに着替えた魔物たちが話し合っている。

 ちなみにみんな赤色だが、グミだけ青だ。


『アカレンジャイ、アカレンジャイ、アカレンジャイ、ミズレンジャイ!』


 視聴者リスナーの読み上げコメントに合わせて、おもちたちがポーズを決める。


 か、可愛い……。


 よし、萌え成分も補給できた。


「みんな、行くぞ――」


 俺たちは、水晶に手を翳す――。


 ▽


「……村?」


 飛ばされた場所は、不思議な場所だった。

 平屋の家みたいなものが、等間隔に並んでいる。


 江戸時代のセットのような感じだ。

 魔物がいる気配はない。


『なにこれ異世界?』『めずらしいところだな』『変わった種類のタイプだね』


 ここが、カインズダンジョン。


「御崎の言う通りだな」

「ええ、事前に調べた通りだわ」


 魔物の種類が多いと呼ばれるには訳があった。

 それは、入るたびにダンジョンが変化すると言われているからだ。


 ある時は水ダンジョン、ある時は近代的なダンジョン、またある時は砂漠ダンジョン。


 生息しているダンジョンは様々らしいが、今回はどんなのがいるのだろうか。


「なんか、ダンジョンって変っすよねえ」


 住良木の疑問は同意だ。

 最近の説では、誰かの脳内だったり、人間の影響を受けてダンジョンが作られてるんじゃないかと言われている。

 ミニグルメダンジョンってのもあるし、俺もそんな気がする。


『暴れん坊アトリ将軍』『今のとこ平和だね』『どんな魔物が出るのか』


 とはいえ、今日の目的は家畜魔物をテイムすること。


 野ドラちゃんが管理してくれるので魔物のほうが心を通わせやすいらしい。

 更に品質も良かったりする。


「師匠、どうしますかー?」

「ひとまず前に進んで様子見だ。建物には気を付けてくれ」

「了解っす! フレイム、行くっすよ!」

「グルゥ」


 例によって、おもちは上空から警戒してくれている。

 田所は御崎の頭の上、グミは俺の横でいつでも攻撃できる体勢だ。


 フレイムは前衛が得意らしく、住良木の横に並んでいる。


 そういえば、炎や身体が段々とデカくなってきている。


 やっぱりダンジョンの中は魔力が強いのだろう。


「がんばるぞーッ!」

「たどちゃん、無理しちゃダメよ」


 そして、田所が元気にはしゃぐ。

 そして、喋れることを知らない新規ユーザーがビビる。


 いつもの流れだ。


 そんな感じでゆっくり前に進む。


「すげえな……」


 本当に江戸時代みたいだ。

 もちろん実際に見たことはないが、叔父がドラマ好きでよく見ていた。


 つうか……よく考えたら俺たち今、戦隊ヒーローだよな……。


 江戸&戦隊、凄いミスマッチじゃないか?


『違和感に気づいたっぽい主』『俺たちは初めからわかってたよ』『逆にコスプレ感が増したなw』


 と、その時――。


 魔物特有の魔力を前方から感じる。


 俺たちはこれでも修羅場をくぐっているので、無言で警戒した。


 ドドドドド、と足音が聞こえる。


 前から現れたのは……牛? ……鶏? ……豚?


「し、師匠、これどっちっすか!?」


 住良木が混乱するのも無理はなく、牛の体型、鶏のような顔とトサカ、そんでもって豚の鼻と尻尾だ。

 家畜魔物はテイムする為に攻撃しないようにと、事前に決めていた。


 なので住良木は慌てていた。


「わ、わからん!」

「ひ、ひぃ! フレイム、避けるっす!」

「グ、グルゥ!?」


 これにはフレイムも驚いて回避、するりするりと抜けてきた魔物集団は、当然俺たちに向かってくる。


「御崎、まずいぞ!」

「はわわ!? たどちゃん!」

「まかせてーッ!」


 田所は羽根に擬態、御崎が天使のように浮く。

 俺は急いでグミの背中に乗ると、お尻をビチャビチャにしながら移動した。

 

 その時気づくが、コスチュームのおかげで皆の動きが早い。

 見た目はダサいが、性能はいい。


 でも、次回着るかどうかは悩むレベル。


『プール入ったみたいな音でワロタ』『田所有能』『ぴちゃぴちゃ』


「モォケコッコブヒイイイイ」

「モォケコッコブヒイイイイ」

「モォケコッコブヒイイイイ」


 魔物の鳴き声……いや混ざり過ぎだろ……。


 ん、ちょっと待てよ……。


 この魔物捕まえたら、一石三丁じゃないか?


「御崎、わかったかー!?」


 上空の御崎が、コスチュームの上から装着しているスマホで、ぽちぽち。


「ウシニワトリブタだってー!」


 まんますぎるだろ……。だが、当たりだな。


 まだお試しだが、藤崎が世界中の魔物を記載している図鑑を作ってくれた。

 魔物を撮影すれば、その情報が出てくるのだ。


 ダンジョン攻略は、日に日に進化してる。


「住良木! こいつらをゲットするぞ!」

「合点承知の助でさぁ!!」


 ……いや、江戸に寄せすぎだろ、と思ったが、ツッコミはやめておく。


『てやんでいでいでい!』『お縄で縛り上げろ!』『アトリ黄門が目に入らぬかー』


 住良木はフレイムと前に出ると、魔力を漲らせた。

 同時に、フレイムの身体が巨大化する。


「フレイム、いくっすよぉ!」

「グルゥ!」


 ウシニワトリブタの集団がリターンして戻ってくる。

 だが二人は、一歩も動かず――そのまま受け止めた。


『住良木ちゃんかっけえw』『フレイムデカすぎるだろ』『これが、本当の大きさなのか』


 ああ、そういえばみんな知らないんだったな。


「し、師匠早くぅ!」

「任せとけ!」


 そして俺は、探索協会から借り受けた魔法縄テイムロープを首に巻き付けた。

 見事に首にかかると、一匹がしゅんと表情を変えて大人しくなる。


 それからも順調に一匹、二匹、三匹、四匹までテイムすると、残りは野生の本能からか急いで逃げていく。く。


 これは、探索者が魔物を落ち着かせる為の新しい魔道具だ。

 魔物をテイムするには、その特性が必要だったりする。

 火なら、火、水なら見ず。

 だが俺が手を翳せば――。


『テイム完了、テイム完了』


「モケコッコブヒ?」


 色々な耐性を持っているおかげで、ほとんどの魔物をテイムすることができる。


 まずは四匹、ゲットだぜ!


『これはもうポケモン』『いよいよ藤崎博士の図鑑を集める時がきたのか』『グルメダンジョン、サヨナラバイバイ♪』


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