104話 さあいざ行かん、カインズダンジョンへ。

 牧場を作るにあたってまず必要なのは看板だ(いや、本当にそうか? という言葉は飲み込んでくれ)


 これについては、住良木が担当してくれた。実は彼女、かなり絵が上手く、なんだったら字も綺麗。

 書道二段、幼い頃は絵ばかり描いていたらしい。


「ふんふん、ふふーん♪ おもちはここにっ、田所はここにっ♪」


 アトリふぁ~む、とデカデカと書かれた空きスペースには、おもちたちの可愛いイラストが描かれていく。

 壁に立てかけた状態でライブペイントのようにスラスラと、凄い……。


『赤が普段に使われてて可愛い』『すめちゃんの意外な才能発揮』『完成したら見学できますか!』


 これには視聴者リスナーも驚いている。


 見学か、考えていなかったがそれもありだな。

 ミニグルメダンジョン産の野菜も販売することもできるし、考えてみよう。


「あーくん、とりあえず大きな岩とかまとめて引っこ抜くよ」

「ありがとう雨流」


 雨流は、邪魔になっている岩を能力で引っ張り出すと、トラックの荷台に乗せてくれた。

 『動かしてあげる』の能力スキルを使えば、御崎も同じようなことはできるが、雨流ほどの力はない。


 それに今は、剛士さんと細かい業務について聞いてもらっている。


「キュウキュウ」

「はいでちゅ!」


『癒されるコンビ』『野ドラ×おもち』『な顔しw』


 おもちは、野ドラちゃんと土の具合を調べたり、古くて腐った柵を移動したりしている。


 もちろん、田所、グミ、フレイムも各々作業仲だ。

 みんなミニグルメダンジョンの経験があるのでやることがわかっているらしい。


 フレイムは知らないことも多いが、時折、先輩たちに訊ねたりしている。

 部活かな?


「グルゥ」

「ぷいぷい」

「がうがう」


『何喋ってるんだろw』『これはてえてえ動画』『毎日見れる』


 確かに可愛い。

 一致団結、子供の運動会を見る親の気分だ。


 世話をしていた魔物たちが、自ら話し合い動いてくれる姿はとても愛らしい。


 これが、テイマー冥利に尽きるってやつか――。


「ご主人ちゃま、がんばりまちゅよ!」

「本ドラちゃん……。ああ、まだ始まったばかりだもんな」



 それからも俺たちは、毎日のように牧場に足を運び、配信し、時には悩みつつ前に進んだ。


「阿鳥、この木はどこに置けばいい?」

「あっちかな」


「山城、この土嚢はどこでしょうか」

「向こうで頼む、ありがとうミリア」


「阿鳥様、魔物家畜の肥料の発注をしておきました。また、トラックの運搬についても業者に連絡をいれています」

「ありがとうすぎる佐藤さん」


『有能オブ有能』『ミリアって忙しいのにこういう時は駆けつけて来てくれるよな』『みんな優しくて好き』


 初めはただ広い庭を作ればいいだけと思っていたが、そんなことはなかった。


 だが剛士さんや皆、視聴者リスナーの助力もあって、ようやく牧場としての形にまで辿り着くことができた。


「いい感じですね、緑もいっぱいでちゅ! 癒されまちゅ!」

「ありがとでちゅ、嬉しいでちゅ!」


 ダブルドラちゃんが、喜びを分かち合っている。

 綺麗な草原、しっかりと安全に囲まれた柵、魔物たちがのんびりできる舎。

 もちろん、住居用の小さな小屋を建てている。


 大きさは非常に小さく、野ドラちゃん用だ。


 いずれは簡易コテージのようなものを建てて、俺たちも寝泊まりできるようにもしたい。


 その奥には、別の畜舎もあるが、まだ建設途中なので、業者が工事してくれている。


『すげえ、よくこまできたな』『みんなお疲れ様、よく頑張った』『毎日頑張ってるの見てて楽しかった』


「みんな本当にありがとう。だが――」


 再び牧場に顔を向けるが、名ばかりで、家畜魔物は一切いない。

 ミニグルメダンジョンから一部を移動させようとしていたのが、本ドラちゃん曰く、魔力に慣れしんだこともあって移動は負担がかかるという。


 なので――。


「阿鳥。ダンジョンの許可が下りたわよ」

「よし、じゃあ久しぶりに行きますか」

「師匠、任せてくださいっす!」


 S級の規約で雨流は来れないが、住良木が前衛してくれる。

 もちろん、おもちたちも。


 フレイムの初ダンジョンでもある。初陣、どんな力を見せてくれるのか今から楽しみだ。


 名前は【カインズダンジョン】色々な種類の魔物がいるので危険度も高く、許可を得たA級とB級の探索者しか入れない。

 そこには家畜魔物がいるらしく、特別な輸送魔法具で牧場まで運ぶ予定だ。


 初めは倫理的にどうなんだという話し合いもあったが、ダンジョン外ので飼うと、非常に長生きできるようになるらしい。

 それなら一生懸命お世話するなら問題ないだろうと、話がまとまった。


『猫も家で飼うほうが寿命伸びるし、幸せだったりするよね』『シビアな事かもしれないけど、私はいいと思う』『アトリふぁ~む楽しみ』


 何より、みんなが同意してくれたのが大きい。


 そして俺たちは、ダンジョンへ向かうのだった。


「いくぜ、カインズダンジョン!」




 

 


 

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