26話 迫りくる不穏な連中。

「この金額で……本当にいいんですか? 普通もっと高いですよね?」

「ええ、問題ないですよ。佐藤さんからも話は聞いていますし、おもちさん達が伸び伸びとしている所を見ると、山城さんのことも信用もできますから」


 俺ではわからないことが多かったので、御崎が資料に目を通してくれていた。

 驚いたことに、剛士さんはこの放牧場で一番偉いらしく、また譲渡費用も随分と安くしてくれた。


「ありがとうございます。これでうちのダンジョンも賑やかになりそうですよ」

「はは、動画を楽しみにしていますね」


 ちなみに雨流は隅っこでおもちと田所と戯れている。佐藤さんは雨流のことはできるだけ黙っていてほしいとのことだった。

 S級はただでさえ騒がれるので、できるだけ静かに過ごしてほしいとのことだ。


「おもちと田所は可愛いねえ、偉いねえ」

「キュウキュウ?」

「ぷいにゅ」


 まあどうみても、ただの無邪気な少女だからバレないだろうが……。


「では、こちらで譲渡手続きは完了です。ただもう夕方になってしまって本部の連絡ができないんですよね。正式な引き渡しは確認を取ってからとなりますので、一番早いと明日の朝になります」

「なるほど……それは仕方ないですね」


 御崎とも相談し、俺だけまた来ることになった。田舎なので少し遠いが、仕方のないことだ。

 ――と、思っていたら、剛士さんが「ちょっと確認してきますね」と離れ、戻って来るなり驚くことを言った。


「ええと、山城さんが良ければなんですが、泊まって行きませんか?」

「泊まるとは……?」


 突然の提案に、御崎と顔を見合わせる。


「入口付近のコテージはご覧になられましたか?」

「そういえば……」


 そんなのもがあった。ただ、使われている形跡がないようだったが。


「来月から見学も兼ねて、触れ合いのできる宿泊コースの事業を始める予定なんですよ。そこで良ければ一泊どうでしょうか? 朝一に譲渡も出来ますし、二度手間にならないかと思います」

「そんな……流石に悪いですよ」


 安くしてもらった上に、コテージで泊まらせてもらうなんて。

 更に言えば料金もいらないという。


「いえいえ、ご自宅も遠いでしょうし」

「いやでもそれは……」


 御崎も「それはねえ……」と遠慮していた。雨流もいるし、今日は帰ろ――。


「良ければ、ここの魔物産の夕食もご用意しますよ。コニワトリの卵は、絶品ですし、あとお酒もありま――」

「泊まります!」

「え、御崎?」

「食べます、飲みます! いや、泊まります! 是非是非!」


 もの凄い勢いで返事をする御崎。そういえば、食べるのが大好きだ。

 それにお酒もあるって言われたらもう……こうなるよな。


「セナちゃんも泊まりたいよね。おもちゃんとたどちゃんと、まだいたいよねえ?」

「え! お泊りできるの!? 泊まりたい! 一緒にまだいたい!」

「キュウー!」「ぷいにゃ!」


 雨流も味方に付け、俺を見つめてくる。おもちと田所も嬉しそうに叫んでいるが、絶対に意味はわかってないだろう。

 まあでも……正直ありがたいので、言葉に甘えさせてもらおう。


「だったらお願いできますか?」

「ええ構いませんよ! ――良かったですね」


 突然近寄り、俺の耳元でボソリと囁く剛士さん、いや剛士。勘違いしてないか? もしかしてそれで気を利かせた!?

 俺たち家族じゃないからね!? 面会時間とかないよ!?


「――いた――おそらく」

「それは――やば――」


 その時、後ろで何か困った様子で話し合っている人たちがいた。

 剛士さんが「ちょっと外します」といい、何かを話しこむ。


「何かあったのかな?」

「なんだろうな、でも普通じゃないみたいだ」


 その時、剛士さんが「問題が」と言っていた言葉が脳裏に過っていた。


「……すみません、本当に申し訳ないのですが、宿泊が出来なくなってしまいました。いえ、それよりも急いで離れたほうがいいかもしれません」


 剛士さんは、戻ってくるなり不安そうに言った。

 表情も明らかにさっきとは違う。


「えええ!?」


 俺より先に御崎が叫ぶ。夕食は!? と叫びそうになっているのを堪えているのがわかった。

 それを言われるのは流石に困るので、俺が理由を訊ねる。


「何かあったんですか? その、問題が起きたように見えましたが」

「実は……最近、放牧モンスターを専門に狙う連中がいるんです。うちは田舎なので、被害にあった場所も他県なので来ないと思っていたんですが、先ほど怪しい人物を見かけたと……」

「そんな奴らが……警察には連絡したんですか?」


 すると、剛士さんは悲し気に「ダメなんです」と首を横に振った。


「ここの魔物はテイムしているのではなく保護しているだけなので、法的には野良なんです。なので、実際に盗まれてからでないと、被害届は出せないんですよ。見回りくらいはしてくれるかもしれませんが、それもいつになるのか……」


 確かに法の整備はまだ追いついてないことは俺も知っている。

 実際にテイムした魔物が盗難されたとしても罰則はまだ緩い。世界でも問題になっていることだが、元々は危険だとされていた魔物だ。そのあたりの線引きが難しいのだろう。


「申し訳ないですが、今から車で最寄り駅まで送らせていただきます」


 剛士さんは、悲し気な表情を浮かべていた。

 今日一日、ここの放牧場にいて思ったことがある。

 それは彼らが本当に魔物を愛してるということだ。なのに、大切にしている魔物を攫われたり、傷つけられたりするのは本当に辛いだろう。

 そんなの、許せることじゃない。


 俺は御崎と顔を合わせて、頷く。


「でしたらやはりこのまま泊めさせてもらえませんか?」

「……え? どういうことですか?」

「僕は探検者なんです。戦闘経験は少ないですが、お力になれると思います」


 しかし、剛士さんは首を横に振る。


「山城さん、大変失礼ですが……連中は乱暴な奴らだと聞いています。更に彼らの中には、現役のA級探索者もいると噂もあるんです。おもちさんが伝説級のフェニックスだとは知っていますが、そんな危険なことを……」

「大丈夫ですよ。色々とお世話になった分、恩返しがしたいんです」

「いやでも……」

「僕たちは魔物を愛する仲間じゃないですか。それにもし何かあったら、僕たちもモンスターを譲渡してもらえなくなりますし、お互いの為ですよ」


 そんなやり取りをしていた瞬間、外から大きな音が聞こえた。

 柵がバキバキと壊れ、そして魔物たちの悲鳴が響く。


 間違いない――連中が来たのだ。


 ―――――――――――

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