43話 来たれ! 第三回、ダンジョン魔法具フリーマーケット! 悪い再会編

  前回までのあらすじ。

 *高い鳥のおもちゃを買って泣いた。

 *経費で落としてくれるらしくて喜んだ。

 *実は鳥の魔法具は100万以上するらしくお得だった。


 ◇


「ありっしたーっ!」


 小粋なおじさんの屋台から魔物フードを購入し、御崎たちが待っているテーブルまで運ぶ。

 おもち達はキャリーカーで待機しながら鳥の魔法具で遊んでいた。


「楽しそうで何よりだ」


 最初は騙されたと思ったが、ネットでも調べてみると随分と得だったらしい。

 実際、雨流の言う通り、ダンジョン内でも魔物の注意を引く時にものすごく優秀だとか。

 怪我の功名というべきか。


「ただいま、適当に買ってきたからみんなで食べようか」

「わーい!」


 無邪気なときの雨流は可愛げがある。

 ある意味いつも欲求には素直だもんな。


「ありがとう、それにしてもこんなに人が多いなんてびっくりね」

「ああ、見知った顔がいてもおかしくないよな」


 みどりさんや剛士つよしさんも来てるかもしれないなと思いつつ、魔物風フードをテーブルに並べる。

 ハーピー風の卵スクランブル、ゴブリン村の唐揚げ、ドラゴンもどきの焼き鳥、モンスタージュース。


 名前は気になるが、どれも香りも見た目もよく、美味しそうだ。


「あーくん、この唐揚げ美味しい―!」

「ははっ、そうかそうか」

「すっかり子煩悩パパね」

「嬉しいような悲しいよな……」


 おもち達には、大和会社からもらった携帯用のチャオチャールを持ってきてるので、それをあげている。

 グミは初めて食べるのでおそるおそる舐めていたが、すぐに気に入ってくれたみたいだ。


「でも、ほんといいな。会社勤めだった時には考えられないほど光景だ」

「そうね、社長あいつにはほとほと呆れたし――」


 そのとき、御崎が何かを見つけて目を見開いた。


「どうした? 何かあったのか?」


 その視線を追うと、一人の男がいた。

 見知った顔だ。いや、見たくもなかったヤツだ。


 社長バカだ。


「まだ生きてたのか、てかなんだあの取り巻きは?」

「……堅気じゃなさそうに見えるわね」


 元社長――樽金末蔵たるかねすえぞうの後ろには如何にも悪そうな奴らが着いていっていた。

 じゃらじゃらとした金のネックレスを見る限りでは何かしらで金を稼げるようになったらしい。


「……ねえ、こっち見てない?」

「ちっ、気づいたか」


 俺たちが退職した後、会社は倒産した。

 風の噂によると、樽金も蒸発したと聞いていたが、どうやら生きていたらしい。


 二度と目の前から現れないでくれと思っていたが、最悪だ。

 今までの気分が全て吹き飛ぶような気持ちになった。


「よお、久しぶりじゃねえかお前たち」

「知り合いっすか?」「なんま生意気そうな面っすね」「家族っすか?」


 取り巻きも連中の態度もお察し。

 違法な商売でもはじめたか、それともヤ〇ザの盃でも交わしたか?


 軽く無視をしていたが、どうやら余計に気に障ったらしい。


「おい御崎ぃ、無視すんなよ」

「……はあ、気持ち悪い顔見せないでくれる? そもそも、名前も呼ばれる筋合いはないわ」

「あ? 誰に口利いてんだこのアマ!」


 すると取り巻きの一人が、御崎に切れて突っかかりそうになる。

 俺は立ち上がってそいつの腕を掴んだ。


「なんだてめえ?」

「いい加減にしろよ」

「ああ? こいつヤっちゃっていいっすか?」


 俺は充填していた炎を少しだけ解放し、相手は熱を感じて少し飛び跳ねる。


「あ、ああちぃ!? な、なんだこいつ!? 炎魔法か!?」


 騒ぎそうなのを樽金が抑えて、不敵な笑みを浮かべた。


「炎耐性がえらく進化したんじゃねえのかあ、阿鳥」

「うるせえな、いいから消えろよ」

「はっ、性格も偉そうになっちまって。それにいつのまに子供ガキまで作ったんだ? 御崎と毎晩楽しんでんのかあ――」


 雨流をガキ呼ばわりする樽金。

 いや……それだけはマジでやめとけ。


 雨流がお前を睨みはじめたぞ。


「ガキって私のこと?」

「おい雨流、ここはだめだ。人がいっぱいいる」

「でもコイツ、みーちゃんを馬鹿にした」

「お父さんの言う事を聞きなさい。ダメです。あと、俺もバカにされてます」


 しかし樽金は俺が必死に止めてる仕草が笑えたのか、がっははと笑う。

 取り巻きの連中も同じようにだ。


「はっ、娘のほうがお前より勇敢じゃねえか」


 あーもう、知らないよ。本当に知らないよ!?

 本気出したら俺じゃ止めれないからね!? 


「雨流、ほっといていいぞ」

「……」


 雨流は立ち上がって、樽金の前に立った。


「嬢ちゃん、なんだい? 頭でも撫でてほしいのか?」


 するとようやく、取り巻きの一人が、雨流と言う名前に気づいたのか呟いた。

 顔面蒼白、ああ……お前たちは終わりだ。


「その手、どけなさい」

「あ?」

 

 雨流の頭に触れようとした樽金の手が、ゆっくりと反対方向に曲がっていく。

 触れてはいない。

 手を翳しただけで、メキメキと音を立てる。


「ぐがああああああああ、な、なんだおい!? 御崎か!?」

「樽金さん……こいつ……雨流です! S級のバケモンだ!」

「あ? 雨流?」


 するともう片方の手で、取り巻きのやつらを――思い切り地面にねじ伏せた。

 その勢いはすさまじく、痛そうに悲鳴を漏らす。


「みーちゃんとあーくんに謝りなさい。それとも――このまま潰される?」


 雨流の鋭い一言に、樽金は情けない声で懇願した。

 周りも気づき始めたが、何をしているのかもわからない。


「雨流、やめとけ!」

「セナちゃん、もうやめとこう?」

「……わかった」

 

 そこでようやく、雨流は矛を収める。

 どうやら樽金もS級と知って怯えているらしく、さっきまでのだらしない表情は浮かべていない。

 恐怖に歪んだ敗者の顔だ。


 やがて運営の人たちが近づいてきたが、樽金はその場から去ろうとする。


「てめえらの能力、強くて羨ましいなあ。――覚えとけよ。いくぞ」

「「「うす」」」


 何か企んでる。そんな顔をしていた。


 ったく、なんでこんなことになるんだ。


「……ごめんなさい」


 そして雨流が頭を下げてきた。申し訳なさそうにしている。


 俺はゆっくりと頭を撫でる。


「気にするな。御崎や俺を馬鹿にされたのがムカついたんだろ」

「……うん」


 やっぱりな。

 雨流は優しい子だ。特に御崎には懐いている。あんなこと言われたら我慢が出来ないの当然だろう。

 後、ちゃんと俺の名前も入ってて嬉しかった。


「セナちゃん、ありがとね。でも、私は強いから大丈夫」


 ぎゅううと雨流を抱きしめる御崎。

 するとキャリーカーに乗っていたおもちが、俺の背中をとんっと叩いた。


「キュウ」

「大丈夫だよ、大人しくしといてくれてありがとうな」

「ぷいにゅ」

「がう」


 ここで騒ぐのは危険だと判断してくれていたのだろう。みんな、優しくていい子だ。


 しかし、元社長あいつのせいで気分が最悪になってしまっ――


『それではモンスターイベントが始まりますので、こぞって参加ください!』


 そのとき、会場にアナウンスが流れた。元気な声だ。同時に軽快なBGMが流れる。

 俺たちは顔を見合わせて、ふっと表情を切り替えた。


気持ちを切り替えて見に行こうぜ。あんな奴のせいで落ち込むのすら無駄だ」

「そうね、セナちゃんいこっか? 魔物と触れ合るコーナーもあるらしいよ」

「ほんと? 行く!」


 そうして俺たちは笑顔を取り戻し、再びフリマの人混みに紛れていくのだった。


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