44話 来たれ! 第三回、ダンジョンフリーマーケット! 良い再会編
魔物触れ合いコーナーを楽しんだのち、イベントを見学していた。
ダンジョンの話だったり、どうやって魔物と心を通わせるのかというトークをしている。
かなり具体的な話が多く、探索者が多かったのでみんな聞き入っていた。
もちろん合間にちょっとしたミニイベントもあって子供も飽きさせない。
何より驚いたのは、講師として呼ばれていたのが以前『マモワールド』のサウナでご一緒させてもらったおじさん、
「例えば僕のゴブちゃんは戦闘能力としては凄く低いと思われていますが、実は間違いなんです」
「ゴブゴブッ」
「とういうと?」
椅子に座って、司会のお姉さんや集まった人たちの受け答えをしている。
俺に
「確かに最初はそこまで強くないんですが、この小さな体躯を生かした攻撃と、他の魔物にはない知能があります。ゴブちゃんと僕は人間と同じように会話ができますし、今ではゴブちゃんの魔力も上がってA級ダンジョンの魔物と遜色はありません」
「それは……凄いですね。でも、
そして俺の横、御崎がアイドルでも見るかのように目を輝かせていた。
「ゴブちゃんだー! 凄い……ああ、凄い!」
そいえばファンだと言っていた。前にサインを欲しがっていた気がする。
話が終盤に差し掛かったとき、
「山城くん、よければおもちさんとの話を聞かせてもらえませんか?」
「……へ? あ、え?」
マイクが響き渡り、大勢が俺とおもちに視線を集中させる。
「え、フェニックス!?」
「君島さんから名指し!?」
「あいつ、前にダンジョンを
どうやら俺を知っている人もいるらしい。ちょっとした有名人気分だ。
御崎は喜んでいるのかスマホで撮影しようとしている。いや、生配信しようしてないか?
「ほら、行きなさい行きなさい!」
「え、ええ……ま、まあ行こうかおもち」
「キュウ!」
そして俺とおもちは、ゲストイベントだと司会に言われて檀上にあがった。
同時に御崎が生配信、以下はアーカイブで後に見たコメントだ。
『なにこれどこ?』『ゲストとか言われてて草』『今日もおもちは可愛い』『魔法具フリマだ!』
「すみません突然呼んでしまって、ついテンションが上がってしまいました」
「いえ、びっくりしましたが大丈夫ですよ」
サッと小声で謝罪をする英雄さん。前にいいヒントをもらったのだ、このくらいは問題ない。
「既にご存じの方もいますが、彼は世界で初めてフェニックスをテイムした男性です。名前はおもちさんで合ってるかな?」
「はい、そうです。この子がおもちです」
「キュウキュウ!」
『おもちかわええええ』『手を振ってるwww ファンサ完璧w』『もはやアイドルw』
遠くでは、雨流が嬉しそうに手を振っている。
プリキュ〇イベントを見る子供のようで可愛い。
会場は盛り上がってきたのか、人が更に集まってきている。
感じたことのない恥ずかしさだ。おそらく赤面しているだろう。
炎耐性(極)があってもこれは抑えることができない。
「実は僕、彼の動画をよく見ているんですが、これがまた凄いんですよ。言葉は話せないのに、心を通わせている。これが僕の言ったことで、凄く大事なんですよね。世間ではまだ魔物は怖いと言われたり、あまり良くないところであれば手下のように思っている人もいます。でも、そうじゃない。家族なんです。それが伝わることで本当に仲良くなれるんですよ」
『おじさんいい事いう』『魔物虐待とかの話もあるもんな』『法整備はよ』『君島さんだー』
ブログで知ったが、英雄さんは魔物の虐待を防ぐ団体の代表もしている。
窃盗団の件もそうだが、魔物との共存はまだまだ難しい。
だがこうやって頑張っている人がいると思うと、俺も嬉しかった。
「
『アトリええこといった』『泣いた』『虐待の話もちらほら聞く、頑張ってほしいね』『見直した』『さり気な宣伝もGJ』
途中、田所やグミも檀上に上がったりして大成功。御崎は嬉しそうだったし、雨流も飛び跳ねていた。
思わぬ出来事だったが、英雄さんのおかげで嫌な気分もすぐに切り替わって、最高のイベントになったのだった。
◇
「ありがとうございました。すみません、突然呼んでしまって」
「いえいえ、英雄さんのおかげで僕は強くなれました。それにもっと魔物とのことを考えようと思いましたよ」
「そう言っていただけるとありがたいです」
後ろでゴブちゃんは、おもち達と遊んでいる。
こうやって交流して友達が増えていくのは本当にいいことだ。
ちなみに雨流は、眠たそうに目を擦っていた。あ、今日も泊まっていくらしい。
「阿鳥さん、今日のお礼にこれを」
「……これ、なんですか? 柄?」
すると英雄さんは、刃のない剣を手渡してくれた
不思議な魔呪印が刻まれている。合いの手で受け取ると、なんだか異様な魔力を感じ取った。
「前にダンジョンで見つけたものです。先ほど聞かせてもらいましたが、充填がすぐに切れてしまうと」
イベントが終わって、英雄さんに充填の気づきを教えてくれたお礼を言った。
話は込み入った話となり、問題はそれがすぐに切れてしまうこと。
窃盗団の時や、グミと戦った時も、最後にはいつもガソリン切れになっていた。
奇跡的に助かってはいるが、死んでいた可能性だってある。
「この柄を持ちながら充填を少し解放してみてください」
「どういうことですか?」
「すぐわかると思いますよ」
よくわからなかったが、とにかく言う通りにしてみた。
すると――ほんの少し充填を解放しただけで、偽田所ソードを上回って、田所ソードと遜色のない炎の魔力剣が漲った。
「これ、どういうことですか!?」
「この魔法具は別名『
「確かに手に馴染んでいる気はします」
これは本当に凄い。今まで充填を解放すれば5分も持たなかったが、30分、いや一時間は戦えそうな気がする。
「もしかして移動速度とかも上げていたんじゃないんですか?」
「その通りです、もしかしてそれも関係があるんですか?」
「はい、効率が良くなると思います」
試しに足に炎の充填を解放してみたが、明らかに違った。
以前は振り回される速度で自由があまりきなかったが、繊細な調整が出来るようになっている。
これがあれば……俺はもっと強くなれるだろう。
田所が自由に動き回ることができれば擬態も増やせるし、御崎のカバーだってしやすくなる。
それにしても英雄さんは凄い。流石A級だ。
「そちらを差し上げますよ」
「え? でもこれ、めちゃくちゃ高いんじゃないんですか……?」
値段はわからないが、魔法具は四桁万円を超えるものもあると聞く。
「おもちさんは伝説の魔物ですこれから狙われることはあるでしょう。今ここでレベルアップしておくのはいいと思いませんか?」
英雄さんは、ニヤリと笑った。そして最後に「まあ、私があなたを好きなだけなんですけどね」と付け足してくれた。
甘えていいのだろうか、ふとおもち達に視線を向けて考える。
……いや、甘えるべきだ。何かあってから後悔はしたくない。
「だったら……今後、俺が同等の魔法具を見つけた場合に対価として差し上げます。それまではお借りしておく、でどうですか?」
「いいですね、わかりました。では、交渉成立で」
「本当にありがとうございます」
英雄さんと握手をする。
本当にこの人は素晴らしい人だ。俺の……尊敬できる師匠みたいな人だ。
そうしてイベントは完全に終了した。
生配信も人気だったが、もっと最初から見たかったというコメントも多かったので、次回の反省点にしようと思う。
雨流は御崎の背中でグーグー眠っていて、もの凄くかわいい。
こうしていると、本当に子供なんだがな。
そういえば水の充水もできるようになったことを思い出した。
今度この剣を使ってダンジョンで試してみるか。
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