45話 教えてやろう、俺は爆炎の錬金術師だ。
「グギゲエ!」
目の前のカニの魔物に吸収剣を構える。
すみません、俺日本人なんです。
刃がないので、柄だけだ。
「初陣だ。手加減はしねえぜ」
「グギゲエ!」
予め充填していた魔力を漲らせると――メラメラとの炎の剣が燃え上がった。
同時に足の裏に力を込め、地を蹴ると高速で移動した。
――シュンッ――。
乾いた音が響く。一瞬で魔物を一刀両断するると、炎に包まれながら息絶えた。
『アトリが強くなってしまった』『もう以前のおバカさんはいないのか』『いや、
視聴者のコメントを聞きながら、いそいそと魔石を回収する。
ここは下層ダンジョン、俺は一人で潜っていた。
吸収剣を試したところ、一時間くらいは戦えることがわかったので、出来るところまで行こうと考えた。
後ろには、大和会社から提供で頂いたドローン追尾カメラが自動で付いてきてくれている。
配信の読み上げ機能もあるので、視線を向ける必要もない。
前に一人で撮影した時は頭に付けていたが、これなら俺のカッコオオウィイ姿を見せることができる。
ついでにドヤ顔でサムズアップ。
『だせえw』『なんか古いな』『汗がすごい』『すげえ嬉しんだろうな』
おもちがいないと扱いがひどいな。まあいい、これからだ。
御崎たちは雨流や
正直かなり行きたかったが、今はレベルアップしておくのが優先だと思った。
「よし、次は……」
一度家では試したが、ここでも――。
『ん、何やら様子が』『手元を見つめているよ』『お、おおおお!?』『水!?』
魔力を漲らせる。
柄の炎が消えて、水が湧き出てきた。
――これが、水の剣だ。
『すげえw かっこいい!』『新技!?』『アトリがスーパーパワーアップ!』
盛り上がっているな、ムフフ。
次に現れた魔物を水剣で切り伏せると、ものの見事に一刀両断することができた。
よく見ると刃先が湧き出ている水で振動している。
試しに触れてみると、指先が切れそうになった。いや、水耐性(極)がなければ切断していたかもしれない。
このころから炎剣は持続ダメージや破壊力が強く、氷剣は鋭い攻撃で有無を言わさず一刀両断という感じだ。
うーん、めちゃくちゃ使い勝手がいいな……。
こうなると雷剣、土剣も欲しくなるが、御崎が満面の笑みを浮かべるので黙っておこう。
いや、生配信してるからもうすでに見られてる?
……流石にないか。
『今度、豪雨の日に山に埋めて頭に避雷針立てていい?』
このコメント、絶対御崎だろ。
『草w』『再生回数一億回数超えそう』『吉とでるか凶とでるか』『凶=死だけどな』『今度こそ狙うんだ、ダーウィン賞を!』
「お前ら好き勝手いいやがって!」
うおおおおお、それからも俺はバッタバッタと魔物をなぎ倒していったのだった。
◇
「しかし甲殻類が多いな」
カニ、エビ、ヤドカリに扮した魔物をバタバタとなぎ倒していたが、次第に飽きていた。
アラームをセットしていたが、もうそろそろ一時間も経過する。
小さいが魔石も大量に確保。
……帰るか。
そう思っていた矢先、少し開けた場所に出た。
階層的にはおそらく中ボス? と呼ばれる魔物かもしれない。
戦うか――退くか。
『いけいけGOGO』『漢アトリ、取れ高を期待』『俺たちはアトリを信頼している』
確かに地味な映像が続いていた。新武器を披露していた時は盛り上がっていたが、それからはトークダウン。
同接も減っているので、ここいらで一発いくか。
最後に試したい技もあるしな。
「おし、行くぜ!」
視聴者たちが盛り上がる中、魔力が漲る場所に足を踏み入れる。
「ギャギギギギギギギギギャアゴ!」
「またカニかよ……。けど、でけえな」
そこにいたのは自動車くらいある大きなカニだった。
今までの魔物とは比較にならない魔力、鋭利なハサミは人間の身体なんて一刀両断しそうだ。
「ギャアゴ!」
「いきなりかよっ!?」
ブンっと振り回されたハサミを回避し、一定の距離を取った。
「よし、出し惜しみはしねえ。――新技いきます!」
『なにそれ』『ついにアトリマンに必殺技が!?』『ヒーローはそうでなくっちゃよお!』
深呼吸して、精神を整える。
今までやったことのないことだ。集中しろ――。
火と水をゆっくり剣に注いでいくイメージ、二つの魔法が、掛け合わさっていく。
次の瞬間、綺麗な青色と赤色が交じり合い――。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!!!!!
突然、耳をつんざくような爆発音が響き割って、煙がまき散らされた。
俺は衝撃で吹き飛び、熱いナニカが俺の肌を焼く。
地面からよろよろと立ち上がるが、煙が充満していて何も見えない。
『耐性を確認、条件が満たされました。生命の危機を確認した為、爆破耐性(強)を獲得しました』
……え? 何自動って? てか俺、生命の危機だったの……?
ようやく煙が晴れたころ、目の前にいたはずのカニの魔物がちぎれて壁中にこびりついていた。
当然、バラバラバラのバーラ。
「グロォ……」
いや、まずいぞ。
これは流石に配信でするにはU-18レベルだ。
急いで後ろを振り返って止めようとしたが、当然の結果が起きていた。
いや、なんで気づかなかったんだ。
俺は思わず膝から崩れ落ちて、地面を叩く。
「こんな……こんなはずじゃ……ちくしょう、
ドローンは粉々、スマホをカメラに使っていたので当然同じく。
分割がまだ一年も残っている。
「……嘘だと言ってよドローン……」
身体の力が抜けてしまい、立ち上がれなくなる。
残ったのは喪失感と小さな達成感、そして新たな耐性だった。
……ぐすん。
◇
大和会社は新作ドローンにかなり力を入れていたらしく、
さすがにスポンサー打ち切りとはならなかったが、とても嫌な顔をしていた。舌打ちもされた気がする。
ドローンの報告を終えて夜中、ようやく自宅に戻ると、御崎が俺の帰りを外で待っていた。
「あれ? 御崎、なんで外――」
「阿鳥! 大丈夫なの!? 怪我は!? 何もないの!?」
「え、あ、ああ。大丈夫だけど、どうした?」
俺の姿を見るなり、駆け寄って叫ぶよう言った。
泣きそうな顔で、とても心配してくれていたみたいだ。
そうか、配信を見ていてくれたのか。
「良かった……ほんと、良かった……。連絡もつかないから、心配したんだよ」
「ああ、ごめん。先に大和に……いや、ごめんな」
てっきり「バカ」と怒られると思っていたが、そうじゃなかった。
俺の胸元で本当に涙を流している。
御崎は……こう見えて心配性だもんな。
「次から……ちゃんと連絡して」
「わかった」
それから少しの間、俺は御崎の体をとんとんしていた。
――そのとき、雨流とおもち達が飛び出てきた。
「あーくん!」
「キュウキュウ!」
後から知ったのだが、眠たいのを我慢して限界まで起きていたらしい。御崎が恥ずかしそうにパッっと離れる。
俺には待っていてくれる人がいる。
それをもっとわかっていなければならない。
翌朝、御崎のカメラで謝罪配信をした。
事情を説明したところ『当たり前だろw』『水蒸気爆発しらねえのかよ』『小学生からやり直せ』
と、視聴者から愛のお叱りを受けた。
動画はバズっていたが、色々反省すべき点が多すぎる。
申し訳ないのでその動画の収益は大和に譲渡することに。
何かを得る為には何かを犠牲にしなきゃならない。
世の中は等価交換だ。
その後、配信上で俺の二つ名は二度とバカなことをするなよという愛情を込められて『爆炎の錬金術師』となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます