42話 来たれ! 第三回、ダンジョン魔法具フリーマーケット!
「混みすぎだろ……」
「セナちゃん、はぐれないようにお手て繋ごうね」
「はーい!」
第三回、魔法具フリーマーケットと書かれた旗がいくつも立っている。
目の前には大きなドーム、朝一にもかかわらず長蛇の列だった。
「暑いな……グミ、冷たいのを少し頼む。霧吹きタイプで」
「がう!」
ふよっと浮いたグミが、俺の顔面にほわわ~んと水を発射してくれた。
冷たくて涼しくて最高。
あ、これはお願いしてるだけだから炎上しないでね。
「グーちゃん、私とセナちゃんにもお願いしていい?」
「がう!」
順番っこで、グミは御崎と雨流を冷却。
かなり涼しい、最高だ。最高グミちゃん。らぶらぶちゅっちゅっ。
「キュウ……」
「ぷい……」
その横では、おもちと田所がキャリーカーの上で悲し気な声を漏らした。
ちょっとやきもち妬いてるうううううううう。
まあでも、そこも可愛いな!
「思ったんだけど、雨流は魔法具とか持ってないのか? ダンジョン制覇とかしてるんだろ?」
「興味がないからあっても取らない」
素晴らしく端的な答えだった。すげえもったいねえと思うが、まあでも興味がないと言われたらそれまでか。
するとさっそく、御崎が小声で「今度見つけたらお姉ちゃんに持って帰ってきて」と頼んでいる。
うーん、こずるい。ス〇夫みたいなヤツだ。いや、性格はジャイ〇ンだけど。
ほんでもって体型はドラ〇もんってかあ!?
「ねえ
「俺の心の声ってもしかして漏れてる?」
それにしても暑い。
御崎が教えてくれたので皆で行こうとなったが、第三回って事に驚いた。
ネットの記事をスマホで見る限り毎回盛況らしい。
ダンジョンで入手したアイテムや魔法具を販売、買取もしているところがあるとか。
とはいえそこまで掘り出し物はないらしく、使い切りだったり、日常で使えるものが多いとか。
ただたまに掘り出し物があるらしく、それを求めて大勢の人がこぞってやってくる。
今年から企業ブースが増えて、イベントがあるらしいので楽しみだ。
「とりあえず雨流、いいのを見つけたら教えてくれよ」
「はーい」
「阿鳥より先に教えてね」
「はーい!」
「おい、乗り換えが早いな」
魔法具に興味はないらしいが、魔力を感じ取る能力が高い上に、佐藤さんのおかげで知識としてはあるらしいので見極めを頼んでいる。
「それでは入場を開始します!」
さあて、イベントスタートだ。
◇
「すげえ……」
「ね、びっくりした」
「色んな魔物がいる! あそこにも!」
会場の中に入った瞬間、そこはまるで別世界だった。
大勢で賑わっているのはもちろんだが、露店で見たこともないような魔法具が並んでいる。
まるでハリー〇ッターの何とか横丁。
世界各地からも集まると聞いたが、それも頷ける。
ちなみにはぐれたりすると危ないので、グミおもち田所はキャリーカーに乗せたまま。
「とりあえず個人のところから見ていくか」
「そうね、いくつかリストアップしてきたけど、これがあったらいいなあ」
「ほう、用意がいいな」
俺たちのダンジョンのことを考えてくれているのかと思うと、嬉しくなった。
御崎がスマホで見せてくれたリストを覗き込む。
紫外線をカットするピアス。
肌荒れを防止するイヤリング。
三日洗わなくても髪がベトベトにならないカチューシャ。
なにこの女子力高そうな魔法具。化粧品メーカーが出してるの?
「美容ダンジョンで手に入ったらしいんだけど、もう制覇されちゃったから品薄なんだよね」
「もう何でもありだな……」
ゆっくり進むと、怪しげな老婆や如何にもな雰囲気なお爺さんがいた。
それっぽすぎるだろ!
「安いよーダンジョン産だよー」
「どんなのがあるんですか?」
「これとかおすすめだよ、ほら物が掴めるんだ」
サッと見せてくれたのは、二本の箸だった。
魔法の呪印が刻まれている。
「ええと、どういう用途で?」
「ご飯を食べる時、かなり落としづらくなるんだよね。たまに落とすけど」
「は、はあ……いいですね。おいくらですか?」
「これは20万くらいかな」
凄まじいぼったくり価格に驚きつつ苦笑いで去る。
うーん、このマーケット大丈夫か……?
と、思っていたら、俺の後ろで御崎の声が聞こえてきた。
「じゃあ2000円!」
「しょうがないねえ、いいよ」
「わーい! ありがとう!」
嬉しそうに声をあげている。しかも値切りも早いな。
手慣れてやがる。
「それ……なんだ?」
その手には銃のようなものが握られていた。
御崎は大喜び。もしかして大当たり魔法具!?
「普通のドライヤー。阿鳥の家に欲しかったんだよね」
「電気屋行けよ……」
それからも歩き続けたが、特に掘り出し物というものはなかった。
とはいえ、いくつか使えそうなものを入手することもできた。
「お、お前たち似合ってるぞ」
「キュウ!」「がう!」「ぷ、ぷいにゅ?」
テイムした魔物に装着する魔法首輪だ。
魔力を感じ取って夜は光るのと、多少魔法防御力も向上するらしい。
これで散歩も安心だよーと売ってくれた人が言っていた。
田所には着ける場所がなかったのでどうしようかと思ったが、食べさせたら同じ効力が得られるとのことだった。
いつでも吐き出すこともできるらしい。
後はシンプルに身体強化のものだ。
とはいえ下級産なので大したことはないが、永続ってのが魅力的だった。
体力回復(小)指輪。
魔力回復(小)指輪。
気力回復(小)指輪。
装着したらヴィジュアル系みたいになってしまったが、まあいいだろう。
使いようになってはメリケンサックにもなるかも! ぐふふ。
そして御崎には魔法防御(中)ネックレスをプレゼントしてあげた。
そこそこ値はしたが、相棒の装備を揃えるのは重要なことだ。
「これ、もらっていいの? ……ありがとう」
なぜ頬が紅潮していたのかはわからないが、とにかく喜んでくれていた。
ちなみに雨流が「あーくん、私もほしい」と駄々をこねて来たので、魔法粘土を購入し、おもちそっくりのぬいぐるみをプレゼントしてあげた。これも大変喜んだ。
やっぱり家族の笑顔っていいなあ! パパ嬉しいよお!
「ねえ、あーくん、みーちゃん」
もう終わりかけというところで、雨流が俺の服の袖を掴んだ。
その後、御崎の耳元でヒソヒソ話。
話を終えた御崎が、俺に目配せをしてきた。
――掘り出し物の魔法具があったらしい。
「さ、さあてふ、ふーん何かあるかなー、かなー」
上手く誤魔化しつつ露店に近づいていく。俺の擬態スキルを見破れるやつはいないだろう。
販売していたのは若い男性だった。
帽子で隠れて顔はあまり見えないが、色々なものを売っている。
ただどれもが下級産のもののようだったが、そのひとつ、雨流がこっそり教えてくれたのは明らかに魔力が漲っていた。
見た目はめずらしい形をしている。
鳥みたいな感じだが、一体どういうものなのだろう。
「これいくらですか?」
「ああ、これか。――30万」
結構な値段だ。
どうやら物の価値はある程度わかっているらしい。だが雨流は頷く。
それだけ払ってもいいということか。
「ふ、ふーん、結構高いですね」
「まあね、でも安い方だと思うよ」
おお、強気だな。
御崎と雨流は、遠くから俺を見つめて心配そうにしている。
頼れるところを見せてやるか。
「でもちょっと汚れてませんか? ほら、こことか」
「うん? まあ、そうかもね」
「だったらもう少し安くなりませんか? ちょっとでいいですよ」
「うーん、じゃあ29万でいいよ」
「もうひと声!」
「うーん、28」
「お兄さんの、もっといいとこみてみたい!」
「そ、そうか、だったら27万」
「ラストの一声! 次で買います!」
「ははっ、陽気な兄ちゃんだな。よし、25万にしといてやる」
「ありがとうございます!」
そうして俺は鳥の魔法具をゲットした。
よくわからないが、もしかしたら巨大化して乗り物になるとか?
空を飛ぶなんてすごいことだぞ。
もくしは自動で戦うとか? 夢が広がるぞ。
「お待たせ、値切ってきたぜ」
「やったあ! これでおもち達も喜ぶね。あーくんありがとう!」
「え? どういうこと? おもち達が喜ぶ?」
すると雨流が、キャリーカーに乗っているおもち達にひょいと鳥の魔法具を投げつけた。
鳥はふわふわ浮いて、三人の遊び心くすぐる動きをし続ける。
捕まえれそうで、捕まえられない。押し引きの天才だ。
めちゃくちゃ楽しそうなおもちと田所とグミ。
大興奮しすぎてキャリーカーから落ちそうになっている。
「元々は魔物を引き付ける魔法具なんだけど、おもちが喜ぶと思って!」
満面の笑みを浮かべる雨流。
「え? ダンジョンで使える戦闘魔法具じゃないの?」
「え? そんなこと言ってないよ?」
確かに言っていない。どうやら俺が早とちりしてしまったらしい。
「え、おれ25万でおもちゃ買ったの?」
嘘だよね? 嘘でしょ?
「キュウキュウ!」
「ぷいにゅー!」
「がううう」
触れれそうで、触れられない、そんな鳥の魔法具。
……まあでも、すげえ楽しそうだからいいか。
後日、御崎が経費で落としてくれました。
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