60話 装備を新調するの巻
「それにしても、凄いわね……」
「ああ、三等分だと一人166万か、世界を手にする事が出来るな」
「それはできないわ」
「そ、そうだよな」
御崎が戻って来てから話し合って換金をお願いした。
振込か現金か選べたのだが、住良木は振込、俺たちは手渡しでもらうことになった。
ダンジョンは夢があると知っていたが、まさかA級になった瞬間ここまでの幸運に巡り合うとは。
「師匠たちのおかげっす! 親も喜びます!」
「いや、まあ買取の人も言っていたけど、偶然だしな」
と言ってもかなりのレアものらしく、普通はここまでの物はお目にかかれないらしい。
住良木は親の病院代に充てるとのことだったので、自分のお小遣いというかそういうのはないらしい。
高校生ってこんな無欲だったか……? でも、頑張った報酬がないってのは可哀そうだな。
ちなみに驚いて雨流に電話したら「そうなんだ、よかったねー」ぐらいだった。お金に興味がないと言っていたが、まさかここまでとは思わなかった。 まあでも、そのぐらいのほうがいいかもしれない。
「降ってわいたようなお金だしパアッと使うか。ダンジョンで使える防具とかも販売しているらしいし、見に行こうぜ。費用は俺が負担するよ」
「師匠、流石にそれは悪いですよ!? 私は自分の分もらいましたし……」
「先行投資だ。あんまり気にするな」
「だったら、私の分もそうしていいわよ。みんなのおかげだしね」
「いや、御崎はいつも頑張ってくれてるので、ボーナスとして自分の好きなように使ってほしいんだが」
「今の生活で十分、ほら行きましょ行きましょ」
御崎は、普段、あれがほしいや、これがしたいという割には、こういう時は優しいんだよなあ。
ということで、隣接している魔法具店にやって来た。
外見は木で出来た古ぼけた感じだが、どこか懐かしい。
店内は嗅いだことのない薬品のような香りが広がっている。なんとなくミントに近いような感じだ。
壁や天井から色とりどりな光が漏れ出し、棚には武器や防具が置いている。
「凄いね、まるで映画の世界みたい」
「恰好いいですね!」
昔、別の施設で見たことあるが、その時はホームセンターのような感じだった。
やはり雰囲気作りもしっかりだ。
テンションが上がって、子供心が蘇ってくる。
前から欲しかったのは回復用ポーションだったり、即席の魔法紙だ。
それには能力者のスキルが込められており、破ることで発動する。
攻撃系のスキルの威力は大したことはないが、防御魔法に関しては優秀な物が多いらしい。
今後どんな敵が来るかもわからない、ある程度揃えておくのは精神衛生上も良いだろう。
まあ、俺には必要ないかもしれないが、少し考えがあった。
「師匠、これ格好いいっすね!」
どでかい斧をひょいと持ち上げる。魔力が漲っているのか、赤く光っていた。
お値段、300万円。
苦笑いで答えていると、棚を陳列していた店員さんが電気屋さんの如く笑顔で解説をはじめる。
「スターバックスアックスはいいですよ! 切れ味抜群ですし、魔物の返り血をふき取らなくても斧がしみ込んでくれるので、歯零れがしづらいんです! どうですかお父さん!」
お父さんではないです。
御崎は横で笑っていたが、そうなると君はお母さんだゾ! とは死んでも言わない。
結構物騒な説明だが、最近では当たり前なのかもしれない。
住良木もそうだが、若い世代は戦闘に抵抗がない。俺よりも年齢層が高い人はダンジョンについて否定的な人が多いが、時代は変わっているのだろう。
ただし、斧は買えません!
必要なのは攻撃力ではなく防御力だ。
そのことと、今の予算を伝えると、俺たちに見合った装備を解説してくれた。
「でしたら、これはどうでしょうか? 魔力を込めることができるグローブで、攻撃はもちろん防具にすることもできます」
確かにこれなら住良木の特性を生かした動きができるだろう。
戦闘にも邪魔にならない。
次に見せてくれたのは、御崎にピッタリなアイテムだった。
「鏡……ですか?」
「はい、魔法を反射できるんです。お聞きした奥様の能力なら、使いやすいかと」
「え、奥様って……わたし?」
「はい、美人な奥様にピッタリでございます」
見せてくれたのは、少し大きな手鏡のようものだった。
名前は
御崎の能力なら、自由に動かすことができるので、後方支援に磨きがかかるとのことだ。
確かに……強いかもしれない。
ありだなと思っていたが、御崎は既に即決していた。
「阿鳥はどうするの?」
「ああ、そうだな。――俺はこれとこれと、あとこれとこれ」
「これって……魔法紙? 使い捨てでしょ?」
「ああ、でも多分俺に合ってると思う」
首を傾げる御崎だが、俺の予想通りなら、今よりも何倍も強くなるはずだ。
本日の購入品。
使い捨ての魔法紙、そこそこの量。
体力回復ポーション(中)。
魔力回復ポーション(中)。
合計、320万円也。
ダンジョンはお金がかかるというが、初めてよくわかった。
支えてくれているおもちに感謝だな……。
◇
「キュ、キュウ」
「ぷ、ぷいにゅう!」
「がううっ」
ほどなくして雨流がおもち達と一緒に現れた。
結論からいうとおもちは姫カットではなかった。
ふわふわの毛並みが更にふわふわで整えられており、羽はより美しい羽毛になっている。頭は少しトサカ感が増して、なんだかニワトリっぽさもあって可愛い。
グミはどうなるのかと思っていたが、魔法ハサミで水分の調節をしてくれたらしく、随分と見栄えがよくなっている。
頭部がアホ毛みたいに水がぴゅーと出ているが、それがまた愛らしい。
田所は何も変わっていなかった。なんだか可哀想だなと思ったが、触ってみるといつもの五倍は柔らかかった。
どうやらマッサージで凝りをほぐしてくれたらしい。
てか、凝りとかあるんだ。
だが一番可愛かったのは――雨流だった。
「ど、どうかな?」
「可愛いねえ、セナちゃん」
「似合ってるっす!」
待っている間に店員さんから声をかけてくれたらしく、綺麗にセットしてくれたらしい。
いつもは髪を流したロングヘア―だが、後ろ手に縛っている。ピンク色のリボンはおまけで付けてくれたらしく、凄く似合っていた。
お団子だなと言ったら今はシニヨンヘアというらしく、古いと言われてしまった。
お父さんショック!
最後に食事を食べて帰ろうかとなったが、雨流が俺の隣でもじもじしていた。
気のせいか、チラチラと俺を見ている気がする。
ああ、そうか、待っているのか。
「似合ってるよ、雨流」
「え、そ、そうかな? えへ、あーくん大好き」
ぎゅっと手を握ってくる雨流、その瞬間、周りから子煩悩パパいいねえと囁かれた。
複雑だが、今日はいいか。
「よし、ご飯はパパのおごりだ!」
世間の皆さん、いやお父さん、家族サービスは積極的にしましょう。
みんなの機嫌も、自己肯定感もアップです!
よろしくお願いします!
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