61話 俺たちに足りないのは、危機感……かも?
「住良木、いっきまーす!」
先頭で駆けた住良木が、A級ダンジョンの敵を前に怯えることなく突き進む。
あれ、デジャブ……?
だがその手には先日購入した、
七色に光るその手袋は、攻撃と共に色を変え、魔法耐性や衝撃耐性が付与されるのだ。
『紬ちゃん、いっけえ!』『戦うJK』『スパッツがエロい!』
前回と同じダンジョンだが、敵が違う。大型モンスターのキーラービー、蜂に似た魔物だ。
尾の鋭利な針を手で受け止めた住良木は、にやりと笑う。
「
キーラービーを思い切りぶん殴ると、飛んでもない轟音が響いて飛んでいく。
だが次の瞬間、別の蜂が住良木に毒を放った。
「あ、」
「大丈夫――」
だが御崎が「動かしてあげる」を使って盾で防ぐ。
手鏡ぐらいの大きさだが、任意で人間の片面を覆うぐらいまで引き延ばすことができる。
衝撃には弱いが、魔法にはめっきり強い。
『ミサキが進化してる!』『これはいい支援』『かっこよw ファン〇ルだ!』
「これで、私も……戦える」
御崎が、嬉しそうに口角を上げた。ダンジョンに入るときは、いつも申し訳なさそうにしていた。
みんなの力になれることが嬉しいのだろう。
そして俺は、残りのキーラービーを五体を前にして、全員を下がらせた。
おもち達も待機してくれている。
「阿鳥Ver2の初陣だぜ」
単身で出たのですぐに囲まれたが、俺は毒耐性(極)があるので問題はない。
炎の剣で焼き殺すこともできるが、A級からは耐性がついている。鑑定スキルがないので視覚化はされないが、御崎の情報通りだと虫タイプに見えるが、こいつらは電気に弱い。
俺は内ポケットに入れていた、
すると電気の魔法が――俺に放たれる。
『電気をそこそこ”充電”しました』
身体中が、静電気のようにビリビリと震えて、身体がビクンと動く。
『お、何この使い方!?』『まさか!?』『アトリにしかできない新技ってこれ!?』
「「「「ビビビギギャガアア!」」」」
「阿鳥! 来たわよ!」
「大丈夫だ――」
足に魔力を漲らせて攻撃を回避しながら、間合いを詰めていく。
耳に針の風圧が感じる。
「じゃあな」
俺は身体にため込んだ電気を吸収剣の鞘から放出すると、
命名:
ものの数秒で敵をなぎ倒すと、キラービーは痺れて倒れ込む。
弱点属性とはいえ、まだ俺の火力が足りないのだろう。まあでも、新技としては上々の出来だ。
「おもち、後は頼んだぜ」
「ピピイイイイイイイ!」
最後はおもちの炎のブレスで焼き尽くしてもらうと、魔物は完全に息絶えた。
『すげえええええええええ、なにこのパワーアップ集団』『魔法紙をそういう使い方する人初めてみたw』『強くなりすぎだろw』
「いいじゃん、阿鳥の想像通りだね」
「ああ思ってた通りだ。これで色んなパターンの攻撃が出来るな」
俺の弱点は耐性しかないことだった。それにおもちや田所がいないとただ防御力が高いだけ。
それを打破しようと考え抜いた答えだった。
そして結果も出た。魔法紙は物によっては一枚数万円もするが、A級ダンジョンの魔石効率を考えるとそこまで悪くはない。
といっても、基本的には炎の剣と水の剣で問題はないはずだ。
『現存するパーティーで最強の可能性』『いや、でも光の翼とかいるからなあ』『A級になると有名な人増えるよね』
光の翼とは、日本で有名なA級のパーティーだ。このあたりになるとソロプレイヤーは少なく、俺たちのように複数人で狩りをしている。
もちろんそうじゃないと入場許可が下りないことが多いのも要因だが。
「よし、ちょっと休憩するか」
「はいっす!」
「お弁当作って来たからみんなで食べましょう」
「キュイ! キュウ~」
「ぷいにゅっ」
「がううう」
『こんなほのぼのパーティーはないけどな』『ピクニック籠広げんなしw』『アイテムボックスに水筒入ってて草w』
◇
「にしても、今までと違って一筋縄ではいかないな。このあたりまだ第一層だろ? いつ終わるんだ」
「三十層まであるとか聞いたけど」
「もっとマグマがあるところいきたーーーーい!」
最後に喋ったのは田所だ。声帯模写は魔力を使うので、出来るだけいつもの鳴き声だが、突然喋り出すのでびっくりする。
ちなみに住良木は「え、え、え、えええ!?」と驚いていた。そういえば言ってなかった。
「住良木、お父さんの容体はどうだ?」
「今のところ安定してます! 頂いた魔石で個室部屋にも移動できて、精神的にも凄く落ち着くみたいで、感謝しかないです!」
知り合って間もないが、住良木は本当にいい子だとわかった。家族のことをいつも考えているし、何より元気が良い。
いや、元気すぎるのもちょっと不安になるときはあるが。
「この卵サンド美味しいな」
「でしょ? コニワトリの卵を熟成したものなんだよね。アクセントにミニウシのミルクを入れたんだけどそれが良かったかも」
「美味しいです! 御崎さんは天才です!」
「ふふふ、紬ちゃんは褒めるの上手ねえ」
『ここA級ダンジョンだよな?』『遠くで魔物の叫び声が聞こえてますけどw』『ダンジョンってこんな楽しそうなの?w』
後ろではおもち達がじゃれ合っている。
いつか視聴者に、お前たちに足りないのは危機感だと言われそうだ。
「ふう、お腹いっぱいだ。――さて、前に進むか」
「情報だとこの道を曲がれば第二層で、目的の魔物がいるはずよ」
俺たちが再びここへ来たのは、何も武器のお試しをするからじゃない。
『コトマト』というトマトにそっくりだが濃厚な味、魔力も回復する優れものがあると聞いたからだ。
是非それをゲットしたい。
「住良木、前衛は頼んだぜ」
「はい、師匠!」
そうして俺たちは地下階段を下って行くのだった。
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