62話 今月はみんなでトマトパーティー

 第二層は蜘蛛の巣窟だった。強固な糸で相手を封じ込めるタイプだったが、俺との相性が良かったので、問題なく倒すことができた。

 続く第三層は非常に大きなゴーレムが待ち構えていた。そしてこれにはかなり手を焼いた。

 魔法があまり効かず、打撃にも強かったのだが、グミの攻撃はよく通ったので、俺も水の剣で戦いながら倒すことができた。


 そして続く第四層、俺たちはついに目的の場所と思われる所に辿り着いた。


「凄いな、まるで草原だ」


 ダンジョン内だが、鬱蒼と茂る森が続き、まるで森の中だ。

 天からは太陽のような日差しが照り付けている。


 ドラちゃんのような精霊がいるのだろうか。


『まるで異世界だー』『A級ダンジョンの配信あんまりないから、見ごたえ抜群』『くれぐれも無理しないでね』


 みんな楽しんでくれているようだが、それも俺たちが勝てているからこそだ。

 出来るだけ余裕で倒して、笑顔で帰りたい。


 おもちに上空から確認してもらったが、森が続いていて何も見えないらしい。


「情報によると、『コトマト』はここにあるはずだけどねえ」

「だったらゆっくり探してみるか。だが魔物がいつ現れるかわからない。油断せずいこう」

「はい、師匠!」


 といっても、おもち達は魔力に敏感だ。

 おかげで今まで不意打ちを食らったことはなく、罠とかがなければ不意打ちは問題ないだろう。


 それから一時間ほど歩いたが、魔物どころか生物一匹すら見当たらなかった。

 次第に俺たちの警戒も解かれていく。


「キュウキュウ♪」

「あるっひ♪ 森の中ッ♪ 魔物にっ♪ 出会った♪」

 

 おもちと田所が、懐かしい歌を歌っている。

 うん、ピクニックかな?


『危機管理大丈夫か?w』『とはいえ平和』『癒されるにゃー』


 だがグミは二人よりちょびっと大人なので、周りの警戒を怠らない。

 俺はその姿が健気で可愛く、思い切り抱擁した。


「グミぃ!」

「ガ、ガウ!?」


 ちなみにダンジョン内は、大きい水龍に変化しているのでもふもふ度もあっぷしている!

 抱き心地も二倍、いや三倍だ!


「師匠、ズルいです! 私も!」


 住良木と二人で抱き着いても、まだもふもふできる。

 むぎゅむぎゅっ、うむ、冷たくて気持ちいい!


 ◇


「このあたりでお弁当にしよっか?」

「ああ、てかもう完全にピクニックだな」

「こういうのもいいですよね!」


 相変わらず変わらぬ景色だったが、近くに小川が流れている所を見つけたのだ。

 ここなら眺めもよく、森で視界が遮られていないので、魔物がきてもすぐに対処できる。


 そして御崎がサンドイッチやおにぎりを手渡してくれた。


「ダンジョンでこんなに落ち着けたことないので新鮮です。やっぱり誰かと一緒というのは……いいですね」


 住良木はたまに寂し気な目をする。幸せだとか、人といると落ち着きます、とか、友達がいないかのような言い方だ。

 こんなに可愛くて元気なら、おそらくいっぱいいるだろうに。


「キュウキュウ」

「ぷいにゅう」

「ガウガウ」


 おもちたちは、大和会社からもらった魔物フードを食べている。

 ダンジョン内での魔力補給に適しているので、ありがちあ。


 おもち達は美味しそうにドックフードのようなものを平らげると、ごてんっと横になる。


 ふわふわの天然羽毛に誘われて、思わず俺ももたれかかってしまった。


「おで、ここ、好き」

「阿鳥、野生化してるわよ」


『ワロタw』『野獣阿鳥、言葉を失う』『ちゃんと気を付けろよ!』


 気づけば瞼が重く、みんなうとうとしはじめた瞬間――何処からともなく叫び声が聞こえた。

 魔物の声だ。


「グゴオオオオオオオオオオオオオオオ」


 それは今まで聞いたこともないほどの声量だった。思わず耳を抑えるが、それでも頭にガンガン響いてくる。

 だがそれでも鳴りやむことはなかったので、その状態で叫び声のほうへ向かった。


「クソ、何だこの声、痛てぇ」

「初めて聞くわね……ちょっとまって、アレ……」


 そこにいたのは、巨大なトマト・・・だった。

 だが触手のようなものがいたるところに生えている。まるで森の王様だ。


 丸みを帯びた赤い腹部には、巨大な口と刃がキラリと光る。


「こんなデカいの初めてみたぞ……」


 サイクロプスの二倍はある。悲鳴は止むことがなかったが、やがて視界に俺たちが映ったのか、森を横断するかのように近づいてくる。いや、縦断してくるというのがただしい。


『やばすぎる』『みんな逃げてえええええ』『なんだこのトマト!』


 ひとまず全員で散り散りになって逃げたのだが、御崎が「そういえば『コトマト』の種をもらうには魔物を倒すってあったかもー」と叫んだ。


「マジかよ……大事なことすぎるだろ」


 おもちは上空に上昇して、『コトマト』に炎のブレスを吐く。

 だが草の鞭が、それを扇風機のように回して防ぐと、間髪入れずに目にもとまらぬ速度でおもちに狙いをつけた。

 おもちはそれを見切って回避しているが、当たると大ダメージは免れないだろう。


「グミ、水弾だ!」


 俺の掛け声でグミが水弾を放つが、表面がツルツルしているせいか、まるで滑るかのように弾かれて飛んでいく。

 どうやら水とは相性が悪いらしい。

 

 なら……俺がやるしかない。

 

 森に視線を戻すと、住良木が唖然としていた。

 

「住良木、前に出て時間を稼いでくれないか! その間に俺がなんとかする!」

「で、でも師匠! あんなデカいの、攻撃してもダメージ食らわないっすよ! 逃げたほうが!?」

「大丈夫だ。田所、翼に変身して俺を天高く放り投げてくれ!」

「え、ええ!? い、いいの!? わ、わかったー!」


 森の影から飛び出した瞬間、俺はおもちに離れてくれと合図。

 そして次に住良木が前に出て、『コトマト』の注意を引いて、草鞭を受け止めた。


「くう、重いっすう!」


 だが攻撃方法はそれだけじゃなかった。草鞭の先端から、胞子の種のようなものがは放たれる。

 おそらく――魔法だ。


 それは間違いなく住良木に直撃する。だが――間一髪のところで、御崎が『反射リフレクト鏡『ミラー』』で防ぐ。


「ナイスだ! 田所、頼んだぜ」

「いっくよー!」


 田所が羽根に変身、羽ばたいた瞬間、遥か上空まで飛び上がる。

 浮遊感と共に森の全貌が見え、おもちはこんな景色を見ているのか驚いた。

 だがすぐに頭を切り替えて、『コトマト』に意識を集中する。


「田所、そのまま変身を解いて離れてろ!」

「え、えええ!? ご主人様、無理しないでねー!?」


 そして俺は落下しながら、吸収剣に魔力を込めはじめる。

 ぐんぐんと近づいてくる『コトマト』は、俺を攻撃するのではなく、あんぐりと口を開け――俺をごくっと飲み込んだ。


『アトリマン!?』『やべえぞ……』『え、まじ!?』


「へっ、そうなると思ってたぜ」


 身体中に赤い血のようなものがドロドロと付着する。

 まあ、トマトだが。


 そして俺が魔力を込めた数十秒後――『コトマト』は思い切り破裂した。森に赤い血――ではなく、トマトがぼとぼとと垂れ落ちていく。

 

『爆破耐性(極)により、衝撃を無効化。また、吸収することに成功しました』


 脳内に流れるアナウンス。そう、俺は水蒸気爆発を使ったのだ。

 以前失敗したのでもう使うまいと思っていたが、内部から破裂させることを思いついた。


『すげええええw』『アトリもはやS級並だろw』『そうか、水蒸気かwww』


 気づいた人もいるらしく、コメントは俺への絶賛でうまった。

 やがてみんなが俺に元へ集合してくれたが、心配そうに怒られた。


「阿鳥、やるなら言ってよ! 心配したんだから……」

「すまん、咄嗟に思いついて」

「師匠、流石です! でも、気を付けてほしいです!」

「わかったよ」

「キュウキュウ」

「はい、ごめんなさい」

「がう!」

「了解しました」

「ぷい!」

「ごめんて」


 だが心配してくれているのは嬉しい。そして俺の手の中には、大きな種が握られていた。

 おそらくこれが、『コトマト』をゲットする為のものだ。といっても、魔物が発芽したら困るが……。


「ふう……じゃあ、任務完了ってことで帰りますか」


 誰一人欠けていたらこんなにスムーズに討伐出来なかっただろう。

 魔法具も事前に購入していたおかげだ。それに、みんなにも感謝を伝えたい。


 ミニグルメダンジョンは育ちが異様に早い。

 つまりうまくいけば、今月はみんなでトマトパーティーだ。



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