63話 サプライズパーティーは、本人の知らない所で

 トマトの育て方は、俺が思っていた以上に大変だった。

 ポットまきと呼ばれるやり方で鉢に植えた後、育苗を確認してから畑に植え付けをする。


 本来であれば収穫まで水分量はかなり気を付けないといけないが、だがそのあたりはドラちゃんが全てやってくれるらしい。


 また、帰りにミニキノコやミニモロコシを見つけたので、それも楽しみだ。


 ミニグルメダンジョンの土は発芽も早いが、それもあってあの化け物が生まれるのではという恐怖もあった。

 ドラちゃんと一緒に寝ずの番をしたが、小さな芽が出てきた時、二人でハイタッチをした。


「コトマトでちゅね! 早ければ来週には収穫できるようになりまちゅ!」

「おお……しかし思ってたより大変だった……。ドラちゃんがいないと諦めてたよ」

「でへへ、照れまちゅねえ」


 ドラちゃんは恥ずかしがり方が独特で、身体をねじるように回転させる。

 関節痛くないのかなと思うが、可愛いので良し。


『可愛すぎるんだが』『いつみてもドラちゃんは正義』『萌え萌えキュン』


 生配信もばっちり。

 再生リストというのを知って、ダンジョン編とスローライフ編を分けたところ、見やすいと好評で登録者数も更に増えていた。

 基本的に収益は実家の建て替えの分や、今後何かあった時の為に貯金している。


 元々お金を使うタイプではないので、その日の心配がなくなるだけでも気分は健やかだ。


「よし、おにぎりとうどん作って来たから食べようか」

「はいでちゅ!」


 ◇


 そして翌週、俺たちのミニグルメダンジョン第一層は、今までとは比べものにならないほどの野菜の宝庫になっていた。


『野菜の宝石箱や~』『もはや農業ライフじゃん!』『ここだけで生活できる件』


 従来の野菜よりも魔物産を売り出す為に、コトマトやミニキノコ、ミニモロコシをメインに植えている。

 そしてそのどれもが発芽、収穫の時期を迎えたのである。


 本来であれば時期もバラバラなのだが、そこは精霊ドラちゃんのおかげだ。


「よっ、流石ドラ大魔神様!」

「でへへぇ、照れまちゅ、照れまちゅねえ」


 二人で入ったっちゅ。


 御崎は、おもち達を探索協会に連れて行く必要があるとのことで出払っていた。

 完成したことを伝える為に電話をしているのだが、全くでない。


 こういう時、いつも不安になってしまう。


 何か危険な目に合ってはないか――と。


「心配性すぎるかなあ」

「ふえ?」


 ドラちゃんの頭を撫で撫ですると、少し心が落ち着いた。


 ひとまず家に戻って連絡を待つことにした。


 テレビを付けると、法改正が可決されたとのニュースが流れた。

 テイムした魔物は今後、物扱いではなくなるとのことだ。


「ようやくか」


 剛士さんの悩みが一つ解消されたのだと、思わず頬が緩む。

 あれから何度か顔を合わしているが、最近は会っていない。


 野菜即売会の碧さんとも、御崎は何度か遊んでいるらしいが、俺は2度3度くらいだ。


 こうやって一人になると、誰かに会いたくなったりする。


 就寝前とかに、天井を見上げている時に誰もが思うかもしれない、なんか無性に寂しい感じのやつが襲ってきている。


「早く帰ってこないかなあ」


 スマホの待ち受けを眺める。BBQの時の打ち上げの写真だ。


「ふあああ、最近、すぐに眠くなる……」


 ――――

 ――

 ―


「阿――とり」

「阿鳥、おき――」

「阿鳥、起きて――」


 女性の声がする。目を覚ますと、美人さんがいた。

 目鼻立ちクッキリ、いい匂いもする。


 彼女の名前は、一堂御崎。


「ふが」

「ふがちゃんおはよう」

「……ん、帰ってきたのか。って、もうこんな時間……あれ、おもち達は?」

「ちょっとね、ふふふ」


 気づけば夜、御崎はなぜか不思議な笑みを浮かべると、鼻歌を歌いながらもう少し待ってねと言った。

 何を待つんだ……?


「探索協会はどうだった? さっきニュースで法改正が可決されたってやってたが」

「ミリアさんから直接連絡が来たけど、おもちゃんたちの戸籍登録が必要になるから、今度直接来てほしいだって」

「なるほど、いい時代になっていきそうだな」

「私も嬉しい話」

「そういえば、もっちゃん・・・・・の手掛かりは何か掴めたか?」


 フェニックスのもっちゃん。

 雨流の為にも見つけてやりたいが、全く情報がなかった。


「それなんだけど……これ見てくれる?」

「ん、おい、これって!?」


 スマホを差し出してくれた御崎、そこには写真が写っていた。

 フェニックス、おもちにそっくりな赤い姿だ。しかしどこか森のような……もしかしてダンジョンか?


「これ、どこで?」

「日本の南にある島なんだけど、ネットに写真があがってたの。これはダンジョンじゃなくて、外ね」

「場所はわからないのか?」

「詳しく調べてるけど……まだ。ミリアさんが調べてくれてるみたい」

「なるほどな……」


 例え宇宙でも、雨流なら行くだろう。


 その時、御崎のスマホの着信が響いた。


「あ、用意できた? うんうん、わかった! はーい!」

「用意?」

「えへへ、行こう! 阿鳥!」

「はい? ちょ、ちょっとなんだよ!? いきなり手を引っ張って!?」


 突然御崎は満面の笑みで、無邪気な子供のように立ち上がると、俺を庭まで引っ張っていく。

 ダンジョンの地下通路は、なぜかいつもより暗くて道が見えない。


 普段はドラちゃんが、光りで照らしてくれているのだ。


「な、何か問題か!?」

「ほらほら、前に進んで。足元気を付けてね」

「説明してくれよ……」

「はい、歩く歩くー!」


 訳が分からねえ……。通いなれた地下通路、いつもの甘い匂いが漂――う?


 いや、何か違う。


 下まで辿り着いたが、何も見えなかった。

 野菜で溢れていたはずなのに、暗闇が、もぞもぞと動いている。

 もしや、コトマトが……魔物に!?


 俺は思わず警戒した――次の瞬間。


「ハッピーバースデー、阿鳥! 26歳おめでとう!」


 後ろから御崎が、パアッンと何かを放った。

 紙フブキが、俺の頭に舞う。


 同時に、いたるところから同じような音が聞こえた。


「おめでとうございます。師匠!」

「あーくん、おめでとう!」

「山城、おめでとうございます」

「阿鳥様、おめでとうございます」

「ご主人様、おめでとうでちゅ!」


 住良木、雨流、ミリア、佐藤さん、ドラちゃんが、クラッカーを俺に向けてくれていた。

 そういえば……今日、俺の誕生日だ。

 すっかり忘れていた。


 すると、何やら音楽が流れる。

 え、これって!? ハッピーバスで―ソング!?


「キュウキュウ♪ キュウキュウ♪」

「ぷーいにゅぷいぷい♪」

「がーうっがうがう♪」


 おもち、田所、グミが、大きな大きなケーキを持ってきてくれた。

 本当に大きすぎて、少し笑えるぐらいだ。

 俺の大好きな苺もたっぷり、真ん中には、チョコレートのプレートで誕生日おめでとうと書かれている。

 よく見ると、俺たちの写真がプリントもされている。


「ははっ、いつのまにこんなことを」


 その瞬間、過去の自分がフラッシュバックした。


 公園で一人寂しくコンビニケーキで祝っていた自分、いそいそとスプーンを取り出し、寂しく食べていたあの時。


 今は違う。祝ってくれる仲間が大勢いる。それが――たまらなく嬉しかった。


 そして、会いたかった人たちの声が聞こえてくる。


「お久しぶりです。阿鳥さん、おめでとうございます」

「おめでとうっち! こんないっぱいの人に祝ってもらえて幸せやねー!」


 剛士さんと、碧だ。まさかここまで来てくれていたとは……。


「ありがとう、みんな……」

「ほら、阿鳥、先にやることあるでしょ?」


 御崎に促されるように、俺は26本立てられたロウソクを――消した。


 拍手と同時に、音声コメントが聞こえてくる。


『アトリおめでとおおおおおおおお』『おめでとおおおおお』『いつもありがとおおおおおおお』

『大好きだあああああああ』『いい誕生日だねええええええ』『26歳、おめでとう!』


 視聴者の皆さんたちだ。御崎が生配信しているらしく、あまりの嬉しさに……つい……。


「阿鳥、泣いてる?」

「な、ないてない……」

「あーくん、よしよし」

「師匠、そういう時もあります!」


 本当に、最高の仲間たちに囲まれた。


 その後、佐藤さんがご馳走をいっぱいデリバリーしてくれた。

 もちろんミニグルメダンジョンのコトマトも盛りだくさんで、シェフが調理してくれたらしく、濃厚な味が口いっぱいに広がった。

 ミニキノコもミニモロコシもだ。


 更に碧曰く、これは高値で売れるとのことだった。


「みんなのおかげだ。ありがとう」


 俺は何度もお礼を伝えた。その夜は、人生で一番忘れられない一夜となった。


 全員が帰宅した後、雨流だけはまたお泊りすることになった。


 そして――。


「雨流、写真の詳細がわかったら、もっちゃんを探すんだろ?」

「え? みーちゃんから聞いたの?」

「ああ、俺も視聴者に聞いたりして調べてみるよ。こういうのは人海戦術がいいだろうしな」


 雨流は驚いた様子で目を見開き、そして抱き着いて来た。


「……ありがとう」

「キュウキュウ!」

「おもちも手伝ってくれるって」

「ふふふ、おもち好き!」


 数週間後、手掛かりを得た俺たちは、とある南の島に行くことになった。

 都内からかなり遠いので、泊まり前提だ。


 そしてなんともまあ、大勢で行くことになったので、せっかくだから遊びたいとなり、大家族で旅行みたいになるのであった。


 







 

 



 

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