64話 初の大家族旅行、準備が大変すぎる件

 最後に遠出したのは、会社の慰安旅行だ。

 と言っても、思い出したくない思い出の一つである。


 あの元社長バカに無茶ぶりさせられて一発芸をしたり、宿泊の手配をしようにも予算が少なかったり。

 もう旅行は嫌だと思ったのだ。


 ただ、幼い頃にじいちゃんやばあちゃんと行った温泉旅館とかは別だった。

 今でも鮮明に思い出せるくらいで、俺にとっては良い思い出だ。

 あの時は三人だったので、ササッと用意できたのだが、今は――違う。


「キュウキュウ!」

「おもち、おもちゃはいりません」

「ぷにゅ?」

「田所、どこから持ってきたんだその棒」

「がうう!」

「グミ、水鉄砲は現地で買ってあげるね」


 賑やかof賑やか!


 みんなで楽しくワイワイ旅行をする予定ではなかったが、雨流もそこまで思い詰めているわけではなく、だったら楽しく遊びながら探したいとのことだった。

 その意向に沿っているのだが、俺の予想以上に楽しみらしい。


 目的地は南の島だ。


 それを伝えたところ、おもちは真夏だと知って喜び、海には水がいっぱいあると知ってグミは尻尾を振り、田所は何でも喜ぶので狂喜乱舞だった。

 隣の部屋では、御崎、住良木、雨流がトランクケースに色々と詰め込んでいる。


「ええと、つむちゃん、日焼けオイルは持った?」

「はい! ばっちりです! スク水も入れました!」

「みーちゃん、私の浮き輪どこにいれたー?」


 ええと……もっちゃん探しだよな? これ、修学旅行だっけ?


 人間が四人に魔物が三匹で、7人匹旅行!?

 ミリアも行きたがっていたが、探索協会が忙しくて離れないらしい。ただ、「必ず、一日だけでも……」と言っていたので、どこかのタイミングで来るとは思う。佐藤さんもめずらしく、「羨ましいでございます……」と嘆いていた。


 みんな、海って好きだよね。


 と、いいながら水中ゴーグルを詰め込む俺であった。


 ◇


「よし、乗り込むぞお前たち!」


「「「「「「おおー!」」」」」」


 準備を終えた俺たちは、家の前に集合して車に乗り込もうとしていた。

 既に浮き輪を付けている雨流がいるが、もうこの際何も言わないで置こう。


「あーくん、車かっこういいね!」

「ほう、浮き輪少女にもこの良さがわかるのか」


 この度、何と新車を購入したのである。

 魔物と一緒にお出かけ仕様がコンセプトの新型だ。


 後方が完全にフラットになっており、通気、耐衝撃に優れている。

 水を飲む場所も予め設置されており、エアコンの効きもばっちり。

 一番凄いのは、アイテムボックスを利用したトイレ回収ボックスだ。


 まとめて捨てることができる上に、衛生的で匂いもない。


 ちなみに田所は食べるが何も出さない。謎だが、それが田所だ。


 ということで、みんなで乗り込む。


「シートベルト付けてるか―?」

「はーい!」

「はい、師匠!」

「ふふふ、まるでお父さんね」


 助手席の御崎が、微笑みながら俺に顔を向ける。

 今日は少し夏っぽい恰好で、二の腕が白くて綺麗でむちむちでもちゃもちゃのちょぽちょぽでかわいい。


「結婚もしてないのにな、大家族だよ」

「あら、私も独身よ」


 意味ありげにいつもより挑戦的な瞳で、俺を見つめる。

 な、何を考えてるんだ。


「と、とりあえず行くぞ!」

「ふふ、はいお父さん」


 期間は一週間を予定しており、ダンジョンはドラちゃんに任せているが、たまに佐藤さんが様子を見てくれるらしい。

 それに、もう一つ。


「あ、ドラちゃん映ったよー、行ってくるねー」

「わ、ままでちゅね! はい! 気を付けてちゅ!」


 御崎が、スマホ画面に映ったドラちゃんに手を振る。

 これはペットカメラだ。一層と二層に設置したが、画質も綺麗で助かっている。

 後、ママって呼ばれてるのは初耳だ。


 さあて、パパ運転頑張るぞー。


 ◇


「あーくん、あれ食べたいー」

「お昼食べるからな、今は我慢だ」

「ぶー」


 サービスエリアで休憩していると、雨流が屋台のフードに指を差した。

 頬を膨らましながら宥めたのあが、御崎と住良木が何かを食べながら向かってきている。

 俺は急いで雨流の視線を逸らす。


「あれ、おもちに似てないか?」

「え、どこどこー!?」


 雨流は身体が小さい。こんなところでホットスナックでも食べてしまったら、胃袋がパンパンになってしまう!


 と、思っていたが、結局御崎が雨流の分を買っていたのでのであった。


「美味しいねえ、みーちゃん」

「ま、まあいいけどな……」


 そんなこんやで数時間後、第一目的地に辿り着く。


 思っていたより車の台数が多い。

 よく考えたら――。


「もしかして今って……やっぱりそうか夏休み・・・か」


 目の前には、海原と青い水平線。

 そして大きな大きな、それはとても大きな船の停泊していた。


「わ、師匠! あれがモンスターフェリーですか! デカいですね!」

「ああ、1000人も乗れるらしいぞ」


 南の島へ行く手段は、二つ、飛行機か船だった。

 前者は短時間だが、テイムした魔物たちはまだ人間と同じ席で座ることができない。

 個人的におもち達を貨物室に入れておくことに抵抗があったので、すぐに船に決まった。


 約一日かかるが、モンスターフェリーというものを見つけたのだ。

 最新鋭の設備で、おもち達とも一緒に泊まれるし、バイキングはあるし、銭湯だってある。


 それにこんな時こそ金は使うべきだと思い、一番いい部屋を予約した。

 ただ、夏休みという事は考慮していなかった。直接関係しているわけではないが、雨流もいるので目立つ行為は避けておかないといけない。

 また、車で直接乗り込むことができるので、到着後にレンタカーやタクシーを探す必要もない。


「よし、乗船だ! みんな、いくぞー!」


「「「「「「おおー!」」」」」」



 こうして俺たちの楽しい家族旅行が、今――始まった。


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