59話 みんなでダンジョンタワーにお出かけだ!
大きな建物、都内のど真ん中に、『ダンジョンタワー』と呼ばれる施設がオープンした。
5階建てのビル、それぞれの階層には飲食店、ショップ、ギフトショップが設置されているが、全てにコンセプトがある。
疑似的なダンジョン風になっており、魔物フードや戦闘で使えるアイテムも販売されている。
キャッチコピーは、『ダンジョンを日常に』となっており、屋上では大型魔物風の人形と撮影ができるとのことだ。。
最大の売りは魔石交換所で、買取、販売が出来る。
俺たちはダンジョンの維持に使用する魔石とは別にいくつかを持ち出し、プレオープンに訪れていた。
今は関係者と応募に当選した一般人のみだけだが、それでも人で溢れている。おそらく来週にはもっと凄まじいことになるのだろう。
ちなみに雨流家のおかげなのは言うまでもない。
ビルの外装は少し無機質だが、これもダンジョン風にしているのだろう中は最新施設が目白押しらしく、楽しみだ。
子供の時訪れた野球場と思い出す。あの時は前日の夜は期待しすぎて眠れなくて、心臓の高鳴りを抑えられなかった。
「楽しみだな」
「ええ、久しぶりのお出かけっていいわね」
御崎がいつにもなく笑顔で嬉しかった。
魔物トリミングサロンがあるらしく、今日はおもち達を綺麗にするのが一番の目的だ。
素人ながら何度か俺が整えているが、やはりプロの技も体感してみたい。
「師匠、魔石お持ちしまっす!」
「アイテムボックスに入れてるから重くないよ。それより今日って休日だろ? なんで制服着てるんだ?」
「私の
相変わらず元気の良い住良木が、高校の制服姿のまま元気よく手を差し伸べてきた。
どんな私服だろうと思っていたので、少しだけ残念ではある。
「おもち、おてー」
「キュッ」
「たどちゃん、ぐみちゃん、大人しくしててね」
「ぷい!」「がう!」
キャリーカートに乗せられたおもち達は、静かに鳴くこともなく落ち着いている。
当然? 雨流も一緒だ。住良木が加入? したことにより
阿鳥組っていうシールでも作って販売しようかな。
ファンマっていうのもあるらしいし、おもちシールとかもいいかも。
なんてことを考えていたら、ようやく入場開始となった。
一階には、大勢の店員が左右に並んで、笑顔で俺たちを出迎えてくれた。
綺麗なスーツ姿――ではなく、全員が冒険者風の格好だ。
中には少しボロボロな人もて、なるほどこれがダンジョン風なのかと思わせる。
ダンジョンと違って気温は一定だ。外装の土っぽさは上手く色で塗られているので、雰囲気もある。
とはいえ魔物が出てくるわけではないので、まずはお土産屋さんや大きな魔物の人形が出迎えてくれた。
「サイクロプスだ!」
とてとてーと人形に向かって歩く雨流、だがなぜか腕を組み、眉を潜めた。
「どうした怖い顔して」
「リアルの魔物より、上腕二頭筋が盛り上がってないなあって」
そういえば雨流はダンジョンについて詳しい。意外にも筋肉フェチだったのか。
「
「やめてください」
前言撤回、暴走破壊少女でした。
調べてみるとトリミングには一時間弱を要するらしく、だったら先に行こうと話がまとまる。
エレベーターには魔物優先と書かれたものがあり、妊婦さん優先のようなイラストが描かれていた。
どこまでもサービスが良い。
4階に辿り着くと、新たなダンジョン風が目に飛び込んで来た。おそらくここは草原風なのだろう。
草木の匂いが、鼻腔にスッと入ってくる。当然、壁も緑一色で雰囲気作りをされていた。
そこの一角、オープンセール中と書かれたトリミングのドアを開ける。
中には大勢のスタッフがいて、美容室と変わらない。
「すいません、予約していた阿鳥ですが」
「はい! おもち様、田所様、グミ様ですね!」
事前予約をしていたのでスムーズに中に入ると、キャリーカーに乗せられていたおもちたちが、大きなベッドに移される。
ちなみに田所はカットする部分がないので、マッサージをしてくるらしい。うらやまっ!
「どちらになさいますか?」
店員が見せてくれた魔物ファッション誌には、おそろしいほどのサンプル画像が記載されていた。
ベッカムヘアーみたいなトサカだったり、ボムマッシュ風とかもある。
スッキリすればいいかなと思っていたが、これは悩む。
すると御崎が俺からひょいと取り上げて、雨流にも見せ始める。
「私も見たいー、セナちゃん、これどう?」
「かわいい~! でも、この姫カット風は?」
御崎と雨流がグイグイやってきて、二人でうんうんと悩みはじめた。
どうやら時間がかかりそうだ。
「キュウ?」
後は二人に任せて、俺は魔石交換所に移動することにした。
住良木も興味があるとのことで、ここからは二人で移動する。
「師匠と二人きりっす!」
「当然のことをさもなにかありげに言うな」
「えへへ、にしても師匠は優しいんですねえ」
「優しいって?」
「サロンの予約したり、こうやってみんなでお出かけしたり、いつもご飯も作ってくれますし」
「うーん、まあ家族みたいなもんだからな。当たり前だろ」
住良木に言われてサラリと答えたが、自分でも驚いた。本当に心から家族だと思っているのだと。
今までずっと一人きりだったが、いつのまにか賑やかな日々が日常となっている。
「じ、じゃあ! ……師匠、私がお嫁さんに――」
「着いたぞ」
「ふえ!? 無視ですかー!?」
魔石買取、販売所はダンジョン風というより、どこか怪しげな横丁のようだった。
おそらくそういう風なコンセプトなのだろう。
武器、防具、ダンジョンで使えるアイテムなどが小さな店舗で分かれている。
「すごいっすね……」
「ああ、まるで異世界転生したみたいだな」
「え、師匠ライトノベルとか読むんですか?」
「昔から好きだよ。そういうのに興味があったから、能力を授かった時は喜んだし」
「だったら、今度一緒に映画行きませんか? 異世界アニメやるんですよ!」
「お、ありだな」
御崎は余りアニメに興味がなかった気がする。JKと二人で映画って……許されるのか?
そして魔法買取所と書かれた店舗に辿り着くと、ドアの地面に魔法印が書かれている事に気づく。
足を乗せた瞬間、ドアが光って自動で開く。
ただの自動扉だが、こういうこだわりはテンションが上がるな。
「いらっしゃいませーっ」
店員は若い男性だった。老婆のほうが雰囲気に似合うと思うが、流石にそうはいかないのだろう。
店内には煌びやかな魔石が飾られていた。ほとんどが模造品のようだが、実物の魔石と外見はそっくりだ。
住良木はいつも小さな店舗で買取してもらっていたらしく、ほお、へえーと喜んで店内を見回っている。
「すいません、こちらなんですが鑑定してもらえますか?」
「はい」
ちなみにこういう所で働いている人は、アイテム鑑定のスキルを持っている人が多いらしい。
戦闘タイプではないが、授かった瞬間、食うに困ることはないとされている当たりスキルでもある。
持ってきた魔石はどれも珍しいものだった。
A級ダンジョン産のもので、色がそれぞれ違う。ドラちゃんに食べさせることもできたが、相場を知ってからでも遅くはないと思ったのだ。
数十分ほどで鑑定を終えて、バックヤードから戻ってくる。
だがトレイに乗せたその手が、震えていた。
「あ、あ、ああ、あの」
「はい?」
「師匠、どうでしたっ?」
俺の肩越しにひょいと覗き込む住良木、そこには買取金額が書かれてている紙がある。
手に取って見てみると、店員が震えている理由がわかってしまった。
「……これって桁あってます?」
「はい。この赤と緑の魔石は、よく見られるものなんですが、この七色のが……」
そう、レインボーの魔石を発見したのだ。それも倒した魔物がなんだか変わったやつで、小さなリスのような魔物だった。
魔石自体は小さいが、色が変化するのが珍しいなと思った。
「え、これって、これだけで!?」
「師匠、どれっすか? ――え!?」
そこに書いてあった値段はなんと、500万円だった。
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