96話 婚約挨拶と最高の仲間たち

 御崎のお父さんは、俺が想像していた五倍、いや六倍は優しかった。

 ただそれは性格の話で、見た目は完全に堅気ではなかった。


 もしかしたら、俺が挨拶している間、後ろの日本刀と掛け軸の『命』が見えていたからかもしれない。


 お母さんは御崎とは正反対な感じで、温和で、ほっこりしてて、本当に娘でいいの? と終始嬉しそうだった。


 だけども最後は、「ちゃんと御崎を幸せにしないと、怒りますからね」と、お父さんよりもハッキリと言ったのが印象深かった。


 帰り道、俺は久しぶりの黒スーツに違和感を覚えつつ、隣の御崎の横顔を眺めていた。


 可愛いな、綺麗だな、ああ、結婚するんだな――と。


 今日は婚前挨拶だけで、届け出は二人が初めて出会った記念日にしようと話し合い、来月になった。


 市役所だったりとか、やることは色々多いが、それが楽しみでもある。


「いいご両親だったな。お父さんはちょっと怖かったけど」

「ふふふ、顔青ざめてたよ。でも、優しかったでしょ」

「ああ、ほんと……。――御崎、幸せにするからな」


 しかし御崎は足を止めて、人差し指をピンと立てた。


「今の時代は、二人で幸せになろうね、だよ。お互いにね」

「……ああ、そうだな」


 そして俺はキョロキョロと周囲を見渡し、誰もいないことを見計らって――唇を重ねた。


 ▽


「俺たちは……大貴族か?」

「凄いわね……」


 挨拶終わり、俺たちは雨流家の屋敷の前で唖然としていた。

 開いた口が塞がらないとはこのことか、お祝いをしたいと呼ばれてきたのだが、まさかの結婚式レベルのパーティが中庭で開かれていた。


「あ、あーくんだー!」

「師匠っー!」


 俺たちに気づいた雨流と住良木が、ドレスをカーテシーしながら走ってくる。

 二人ともちゃんとしたドレスを着ているが、意外? に似合っている。

 黒と白を基調としたお高そうなやつで、そんなの持ってたんだという感じだ。


「これ、借りたんす! 似合ってますか?」

「そうだと思った。でも、二人ともに合ってるよ」


 にへへーと笑う住良木は、とてもかわいい。

 雨流は御崎の腕を掴み、俺の腕は住良木に掴まれパーティの中心へ。


 たくさんあるテーブルの上には、見たこともない高級食材ばかりが置かれていた。

 これもう結婚式じゃない? 結婚式だよね? 俺たちがやるかもしれない結婚式より凄くない?


「おめでとう、山城、御崎さん。結局、私が入る余地はなかったですね」

「入る余地って……」

「お二人ともおめでとうございます。すみません、先にパーティーを始めてしまって」

 

 ミリアは、雨流とお揃いの黒白ドレスだった。佐藤さんはいつもと変わらないが、蝶ネクタイになってる。

 赤なのは、俺に合わせてくれてるのかな?


「キュウッ!」


 すると両手を振りながら、いや両翼を羽ばたかせながら来てくれたのはおもちだ。


「キュウキュウ」

「ああ、ありがとな」

「ふふふ、おもっちゃんありがとね」


 久し振りの嘴キッス、もちろん俺と御崎に交互に。


 ちょっと痛い、でも嬉しい。


 その後、田所、グミ、フレイムもやってきた。

 魔物フードをいっぱい食べていたらしく、お腹ぽんぽんだったが。


「おめでっとうー!」

「あれ、田所なんで声!?」

「気合っ!」


 よくわからないが、まあいいだろう。


「ガウガウ!」

「グルゥ!」


 そして――。


『おめでとうアトリ! ミサキ!』『おめでとおおおお、結婚式じゃんw』『豪華すぎw おめでとう!』

『感慨深いなあ』『式呼んでくれw』『最高』『幸せすぎる』『泣いた』『映画化決定』『もう式しちゃえよw』


 視聴者リスナーが、祝ってくれた。

 コメントが鬼のように流れていく。


 スパチャもありえないほど多い。

 式もまだだというのに……。


 俺は、最高の仲間を持った。


 本当に幸せだ……。


「みんな、ありがとうな。これからもよろしく」

「そうだね、これからもよろしくね」


 その日、俺たちは夜遅くまでパーティを楽しんだ。


 楽しみ過ぎて、動画をつけっぱなしにせいていて、同時接続者数が日本記録を知らずに超えていたくらいに。





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