95話 報告があります。

予約していたランチの店は、普段は絶対行かないような、なんていうかお洒落すぎる・・・ところだ。

 店内は白と自然を基調とした造りで、造花や木が至る所に置かれている。


 所謂、映えスポットも設置されていた。何だあの板、なんでハッピーって書いてるんだ……。


 客のほとんどがカップルか女子で、けどまあ流行っているらしいことだけは事前調べしてきた。


 テーブルに案内されてキョロキョロしてた俺が面白かったのか、御崎が突然に笑いだす。


「どうしたの、自分で予約したのにそんな初めて来たみたいな顔して」

「な、なんでバレたんだ……」

「バレバレでしょ。阿鳥、こんなとこ来ないしね」

「たまに行くよ、ほんとたまに、そのたまにが今日来た」

「ふふふ、ありがと」


 調べてくれて、が付いているんだろう。

 何もかも見透かされている。ちなみにこの場所は住良木が教えてくれた。

 仲良くなった友達から教えてもらったそうだ。ちょっと若い子向けな気もするが、届いたオムライスやトロピカルなジュースは非常に美味しかった。もちろん、御崎も喜んでいた。


 住良木、グッジョブ!


 続いては歩いて行ける距離の自然公園だ。

 王道過ぎる王道、だが王道こそ至高。


「もしかしてだけど、ボートとか予約してる?」

「な、なぜそれを……」

「だって、さっき看板見ながらボートのところ見つめてたよ」


 どうやら御崎には何もかもバレているらしい。

 やっぱり慣れないものはするもんじゃないな。


 いや、でもバレてるからって関係ないか。

 楽しんでもらえたらいいもんな。


「……なあ、御崎、手、繋いでいいか?」

「ん、え、えええ!? な、いきなりなに!?」

「いや、その……天気がいいなって? いや、やっぱり天気がいい日はさ――。……いや、繋ぎたいなって思ったんだ」


 心臓が高鳴る。なんで耐性は動かないんだ。

 いや、耐性がないほうがいいか……。


 時間が永遠のように感じる。もしかして断られ――。


「いいよ。てか、そういうのは聞くもんじゃないのに」


 そっと、御崎は手に触れてきてくれた。

 俺は急いで握り返してしまって、すごく焦った感じになる。


「落ち着いて、私は逃げないけど」

「は、はい」


 自然と目があって、二人で笑いだす。

 ああ、やっぱり、彼女といると楽しいな。


 花を見ながら公園を歩き、目的の湖が近づいてきた。

 アヒルボートもあったが、流石に今日は真面目だ。いや、アヒルボートを馬鹿にしたわけじゃないごめん。


「気を付けてな」

「んっ、ありがと」


 自然と手をつないだまま、ボートに乗り込む。

 太陽が気持ち良い、湖のちょっとした水の香りが、なんだか特別な感じがした。


 ゆっくりと漕ぎ始めるが、思っていたよりも力仕事だ。


 たが顔だけは優雅に。


「しんどいんじゃないの?」

「いや、ぜんぜん? 余裕だな」

「手、ぷるぷるしてるわよ」

「武者震いだ」

「そっちのほうが変だと思うけど……」


 ははっと笑い合いながら、他愛もない話をいっぱいした。

 その時、隣に咲いていた花に自然と目がいく。

 美しいブルー色だ。


「綺麗な花だね」

「ブルースターだな。結婚式のブーケとかでよく使われるけど、日本ではあんまり見かけないかもな」


 すると御崎は、驚いた様子だった。


「どうした?」

「いや、なんでそんな詳しいの?」

「花屋でバイトしてたって、前に言ったろ?」

「あ、そういえばそうだった。キャラクター違い過ぎて忘れちゃうよ」

「そ、そうかな? でも、楽しかったよ。今のダンジョンもそうだが、何かを育てたり、作るってのは、そこで学んだ気がする」

「ふーん、なんか、嬉しそうだね」


 満面の笑みを浮かべる御崎は、今までで一番可愛く思えた。


 それから公園を楽しんだのち、近くのショッピングモールでまたまた定番なデートをした。

 ゲームセンターで遊んだり、アイスを食べたり、洋服なんかを見たりして。


 日が落ちる頃に、俺は目的の場所に御崎を連れていった。


 高層ビルの四十階、夜景が綺麗で、個室で、お互いシャンパンなんかが似合うような場所だ。


「……今日はやけに待遇がいいね。もしかしていい事でもあったの?」

「どうだろう、これからあるといいけどな」


 着席してからは、あんまり覚えていない。

 とにかく美味しいフルコースだった。

 

 前菜は見たこともない野菜とかなんかで、後メインは肉料理で、スイーツはバニラの何か美味しいやつだ。


 それよりも終始、御崎の笑顔がいつもの何倍も可愛くて仕方なかった。


 透き通る声が、手足が、とても愛おしくて仕方なかった。


「御崎」

「ん、どうしたの?」


 シャンパンを片手の御崎の頬は、赤くて綺麗だった。


 俺は、ゆっくりとポケットを探った。


 ――ない。


 ――嘘……だろ?


 ――ない、ない、ない、ない。


 どこにもない。


「阿鳥?」


 何処で落とした? ショッピングモール?

 それとも……公園のボート? 

 

 わからない、覚えてない。


「ちょ、ちょっと待っててくれ」

「……わかった」


 廊下に出てすぐ電話してみたが、ボートの貸し出しは既に終わっていて、業務アナウンスだけ流れた。

 モールに連絡したが、忘れ物の届けは出ていないという。


 だがその時、こそこそと隠れているナニカを見つけた。

 いや、人だ。


 俺はゆっくり近づく。


「何してんだよ……」

「え、へへ、えへへ? な、何してたんだろう? セナちゃん?」

「あーくんの監視!」

「キュウ!」「ぷいにゅ」「がう」「グルゥ」


 そこにいたのは、住良木と雨流、そしておもち達だった。今日は遅くなるので留守番を頼んでいたのだが……。


「いつからだ」

「ついさっきです! ここで一世一代の勝負だと思ってたので!」

「あーくん、頑張って!」

「いや……」


 ここでご飯食べてくるとは伝えていたんだが、どうやらバレていたらしい。

 色々気になるが、今ここで問い詰めるのも違う気がする。

 てか――。


「指――、あれ、おもち何……咥えてるんだ?」

「あ、師匠がモールで落としておもちが拾ってました」


 そこにあったのは、俺がずっと探してたものだった。

 てか、モール?

 あれ、さっき来たんじゃないのか?


「ま、まあいい。とりあえず、行ってくる! サンキュな! おもち、みんな!」


 細かいことは気にするな。

 俺は急いで御崎の元へ戻った。


 だが――彼女の姿ない。


「あれ……御崎……」


 帰った? いや、そんな……。


「阿鳥」

「あ、そっちにいたのか」

「うん、夜景、凄く綺麗だね」


 御崎は、立ち上がって窓を眺めていた。

 ネオンの光が綺麗で、一緒に夜景を見たあの時を思い出す。


 俺は再び、名前を呼んだ。


 そして――。


「御崎、俺はずっと君の事が好きだった。もう、君がいない生活は考えられない。――結婚、してくれないか?」


 事前に用意していた指輪のケースを開けた。

 御崎に似合うと思う大きなダイヤモンドだ。値段は秘密。


「驚いた……付き合おうじゃなくて、結婚?」

「ああ、俺は君とこれからも一緒にいたい。その、本気なんだ」


 御崎は、すぐに返事を返してくれなかった。

 もしかして――。


「……待たせすぎだよ。嬉しいよ。私も好きだよ、阿鳥。喜んで――」

 

 しかし彼女は、俺の指輪を受け取ってくれた。

 少しだけ涙を流しながら、とってもきれいな笑顔で、好きだと言ってくれた。


「御崎」

「んっ、え、ここで!?」

「ダメか?」

「……ダメじゃないけど、んっ」


 そして――唇を重ね合わせた――。


「キュウキュウ!」

「わ、おもち! ダメっすよ!」

「ぷいにゅー!」

「田所、ダメーっ!」

「がうがう!」「グルゥ!」


 その時、おもち、田所、グミ、フレイムが入ってきた。

 そういえばすっかり忘れていた。


 御崎は驚いて今までに見たことがないほど頬を赤くする。


「な、なんでここに!?」

「おめでとうございます! 悔しいですが、おめでとうございます!」

「あーくん、みーちゃん、おめでとう」


 答えになってないと思うが……とはいえ、嬉しかった。

 御崎も驚いていたが、ありがとう、と返した。


「キュウキュウ」

「ははっ、ありがとなおもち。でも……ここ、ペット大丈夫か……?」

「キュウ?」


 それから俺たちはみんなでお手て繋いで家に帰った。

 ちなみにペットはOKだった。良かった。


 住良木は自宅に戻り、雨流も今日は家に帰ると言った。


 おもち達を寝かしつけた後、御崎を家まで送ろうとしたが――。


「泊まっていく。てか、今日から私の家でもあるよね?」

「え、あ、ああ。そうだな」


 いつも家に居るが、今日はとても新鮮だった。


 そして俺と御崎は、その日、初めて――。



 まあこれは、またいつか話すことにしよう。


 ――――

 ――

 ―


『ご報告があります』


 っと、よし。


「御崎、じゃあアップロードしとくな」

「はーい、みんな……受け入れてくれるかな?」

「絶対喜んでくれるよ、そういえば引っ越しはいつにするんだ?」

「早くて来週かな。でも、まずは私の親へ挨拶しないとね」

「そ、そうだな。お父さんって、怖かったりする?」

「どうだろう? 身長が190センチぐらいはあるけど、いたって温和だよ。あ、でもビールの栓抜きとかは手で開けちゃうかも」

「へ、へえー!? そ、そうなんだー や、優しそうなお父さんだなァー!」


 よし、追加で……概要欄に、お父さんに気に入られる挨拶の方法も質問しとくか……。

 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る