37話 水龍に命名。家族が増えて阿鳥が有名になりました。

 魅惑のダンジョンでボスを異例のテイム。

 更にそれを行ったのは新人探索者でB級に上がったばかりの配信者。


 そのことが瞬く間にネットで広がって、今や俺の動画の登録者数は、うなぎのぼりの鯉のぼり滝登りだった。


「がう?」

「はいはい、君もうどんね」


『これが噂の水 龍 か』『思ってたより柔らかそう?』『やっぱり青いんだね』『犬味ある』


 せっかくなのでお披露目会の生配信中だ。


 水龍はすっかり俺の家に馴染んだ。

 ダンジョン内ではかなり大きかったのだが、今はなぜか縮んでトイプードルぐらいになっている。

 それに伴ってか外見も幼くなって、今は幼水龍という感じだ。

 といっても、水弾すいだんが撃てるのは確認済。威力は俺を狙っていたときと変わらないこともわかった。


 後は、身体を纏っていた水がなくなって、青いふわふわの毛並みになっている。

 これもよくわからない変化の一つだが、触り心地が良いので良し。


 あくまでも仮説だが、ダンジョン内だと大きさが元に戻るのではなかろうかと思っている。


 水を吸って大きくなるおもちゃがあったが、多分そんな感じ。多分。


「キュウキュウー」

「ぷいぷいーっ!」


 ちなみにおもちと田所とも一瞬で仲良くなった。

 三人でじゃれているところを見ていると、心がほわほわして癒される。


『仲良しこよしw』『マジで癒されるな』『飼い主にとって至福の時間』『最高だあ……』


「幸せだなあ……」

「ねえ阿鳥、こっち向いて」

「ん?」

 

 振り返った瞬間、ピューと水鉄砲を顔に掛けられる。当然、顔面がびちょびちょになった。


「あれ? 水耐性(極)は?」

「……このくらいの水には効かないように調節してます」

「そうなんだ。だったらこれは?」

 

 そういうと、御崎は先ほどより十倍はでかい水鉄砲を取り出す。


『でかすぎww』『殺人が起きます』『首が吹っ飛ぶぞw』


 コメントは嬉しそうだが、俺は嬉しくない。


「おいちょっと待て――」

「御崎、いきます!」


 ドピュッンッ! と繰り出される水。

 流石にこれは痛そうなので水耐性(極)を一瞬で発動させた。


『水を少しばかり”充水”しました』


「すごい! 水が消えた!」

「「すごい! 水が消えた!」 じゃねえよ! いきなりなにすんだ!」

「新しいスキルの確認をしておかないと」

「いやなんで今――」


 と突っ込もうとしたが、再び顔面に出射されたのであった。


『ひどいww』『手品ショーだ!』『全国の水不足は阿鳥のせい』

 

 溺れた死ぬ寸前で覚えた水耐性(極)。

 そのことを電話で佐藤さんに話してみたが、やはり原因は不明。

 世界でも今まで複数のスキル持ちは確認されていないとのことだ。


 うーん、よくわからないが喜べばいいか。


「水で死にかけたから耐性をゲットしたんだよね?」

「ああ、多分な」

「そうなんだ。だったら火……あ、いや、何でもない。……ごめんなさい」


 御崎が何かを言いかけて止まった。おそらく気づいたのだろう。

 そう、火耐性(極)の時もおなじだ。


「……御崎の想像通りだよ。火事で焼け死ぬと思った瞬間、頭にアナウンスが響いて、火耐性を覚えた。詳しいことはまあいいだろ」

「そう……ごめんなさい、嫌な事を思い出させて」


『主にそんな過去が』『辛いね』『悲しい』


 御崎はいつも冗談を言うが、確信が迫ることになるとこうやって気を遣う。

 まあ、そこが良いところなんだけどな。


「気にすんな。今はこうしてピンピンしてるから」

「はい……」


 御崎が、めずらしくしゅんと俯く。

 こうしてみると可愛いやつだ。いや、実際かなり綺麗だ。

 暴力的なところもあるが、女の子らしいところもある。パッと出てこないが、多分あった気がする。


 唇はプルプルだし、目もぱっちり二重、それでいてスタイルは抜群だ。


 相棒として頼りにもなるし、仕事だって優秀。

 後、料理も俺よりちょっとだけ上手い。


 あれ……もしかして御崎って凄くいい……?


『御崎ちゃん、根はいい子だよね』『落ち込んでて可哀想』『よしよし』


 落ち込んでしゃがみ込んだ御崎は、ゴソゴソと鞄から何かを取り出す。

 ひげ剃りのような小さな機械だ。

 ……どこまで見たことがあるような。

 

 それを水戸黄門のようにスっと見せてきた。

 なぜかもう満面の笑みになっている。


「じゃあ、じゃあさ! 仲直りしたところでコレ試してみない?」

「……なんですかソレ」

「護身用のスタンガン」

「何に使うンデスカ?」

「火、水とくれば? ……ちくたくちくたく」


 唐突のなぞなぞ。

 一瞬で解答を得た俺はその場から逃げ出そうとして、首根っこを掴まれる。


「やめろおいバカ! 殺す気か!?」

「殺さないよ。実験、実験!」


『殺されるww』『実験開始ぃ!』『どうなるか俺たちが見届けてやる』


「それに死ぬ寸前までいかねえと耐性はつかねえんだよ!」

「そうなんだ……、だったら最強設定で一気に?」

「助けてくれ、おもち、田所、水龍!」


 しかし誰も助けてはくれなかった。

 キミたちボクがテイムしたんじゃないの!?


 ◇


「残念だなあ……」


 寂し気な背中でスタンガンを鞄に戻す御崎。

 前言撤回、やはり彼女は凄く良くないです。


『おもちゃで遊べなかった子供の図』『おもちゃ⇒阿鳥』『ちぇっ! 見たかったなあ!』


 視聴者も期待していたらしいが、そんなことはさせません。


 とはいえ、御崎が言っていることもあながち間違いではないのだろう。

 雷耐性が付くかもしれないが、ミスって死んだらただの笑いものだし、別に必要に迫られているわけでもない。

 

 今はこれでいい。”今は”


「ねえ、阿鳥を生き埋めにしたら土耐性がつくかな?」


『わろたw』『反省してなかったw』『頭まですっぽりスコップでいこう』


「マジでそろそろキレルヨ」

「怖いねえ、おもちゃーん」

「ぷいにゅっ」


 よくそんなぽんぽんと殺人的な実験を思いつくなと感心。

 目が覚めたら生き埋めなんてされてないだろうか……不安だ。


「おいで、おもち、水龍」

「キュウキュウ!」

「がう!」


 そういえば、名前を付けてあげたい。

 水龍だと呼びづらいし、もっと可愛いのがいい。


「ねえ、考えたんだけどさ」

「……なんだ」

「水龍ちゃんの名前、山だ――」

「却下です」

「まだ言ってないのに……」


 田所の名前は気に入ってるが、流石に連続はちょっと嫌だ。

 御崎こいつ、今度は近所のおばさんがとか言いそうだな。


『山まで見えた』『次は田だった気がする』『止めて正解だったかもしれない』


「すいりゅうか、ふむふむ」

「がう?」


 触るとぷにぷにしていたり、ふわふわしていたり、ぐにゅとしているときもある。

 よし……決めた!


「水龍、君の名前はグミだ! ――で、いいかな?」

「がうがう!」

「はは、気に入ったか」


 こうして水龍こと、グミが、俺たちの仲間になったのだった。


『グミちゃんだー!』『可愛い名前、女の子かな?』『アトリの名前のセンスは好き』


「……ちょっと待てよ、もしかして」


 そのとき、俺はひらめいた。

 グミとおもちを風呂場まで連れて行く。


「グミ、ここに弱い水弾を撃つんだ」

「がう?」

「ゆっくりだぞ。威力は最低でな」

「がう……」


 身体を持ち上げてあげると、口から水弾が発射された。


「よし、もう一度だ!」

「がう」

「もう一度!」

「がう……」

「よし……満タンだ。おもち、炎中和解除! 今だ!」

「キュウ……」


 湯舟にドボンしてもらうと、ものの見事に沸騰し、お風呂が出来上がった。

 なんと、〇円だ。


「すげえ、水道代ダダじゃん……」

「がう」

「キュウ」


 しかしグミちゃんはこれのせいで阿鳥不振になってしまったのか、少しの間御崎にべったりだった。

 あと、おもちも。


『*これは虐待です』『反省すべし』『家族を便利に使うんじゃない』『仲間だろお!?』


 当然、炎上。


「……ごめんなさい。気を付けます」


 あ、そういえば全然魔石ゲットできてねえじゃん……。

 

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