49話 これで終わりだよ、てめえは!

「山城、申し訳ありません。私が見抜くことができなかったせいです。セナは卑怯な手で……だがまだ生きています」


 真弓はミリアが一番の信頼を置いていた。

 だがそれもそのはず、なぜなら真弓は探索者協会の創立メンバーだ。

 疑う余地すらなかった。


「謝らなくていい。それより雨流を助け出すぞ」

「……はい」


 気絶した雨流が、真弓の近くで眠っている。

 だが魔力が微かだ。早く助け出さないと危険なのは間違いない。


「あら、傷の舐めあいしなくてもいいのよ。どうせ二人ともここで消えちゃうんだから」


 真弓は、俺たちに向かって手の平を翳す。同時に、後ろにいる獰猛そうな魔物たちが叫び出す。

 もしかして――。


「阿鳥、セナの能力よ!」

「クソ、奪われたってことか」


 盗賊バンディード殲滅作戦が開始してから、雨流に能力を教えてもらった。

 引力と斥力せきりょく。単純だが、とてつもなく強いスキルだ。


 手の平を翳した対象を認識することで、引き寄せることと弾き返すことができる。

 恐ろしいのは、魔法すらもその対象である。


 だからこそ俺とミリアは認識されないように高速で移動した。

 ミリアの速度は、俺よりも――速い。


「ふふふ、無駄よ。固有停止ユニークストップ

 

 次の瞬間、俺とミリアの足がなぜか動かなくなった。

 真弓が、手の平を地面に置いた瞬間だ。


「これ、いいでしょ? でも、予め地面に文字を書いておかないといけないから、面倒なのよねえ」


 視線を落とすと、魔法陣のような文字が書かれていた。

 そうか、だから場所を指定したのか。スキルを集めていたのも――確実に勝つ為。


「私は映画が好きなんだけれど、常々思ってたの。どうして悪人ってベラベラ喋るんだろうって。すぐに殺せばいいじゃない? でも力を手に入れて気づいたわ。――優位って凄く愉快なの、あはははは!」

「……クソ野郎が」


 上空でおもちは機を伺っている。俺が合図をすれば炎のブレスを攻撃してくれるだろう。


「はは! いいざまじゃねえか! 真弓さん、阿鳥コイツは俺にやらせてくださいよ! 臓物を出してやりてえ!」

「腐ってると思ってたが、ここまでとはな」


 元社長バカが嬉しそうに叫び出す。


「ピーチクピーチクうるせえなあアホウドリ。安心しろよ、御崎は俺がたっぷりと楽しんでやるからよ」

 

 バカと真弓が、身体を触れ合わせる。もしかしてデキてるのか?


「ありがとうね今まで。でも、その品性のなさは、私大嫌いだったの」

「え、ど、どういう――」


 次の瞬間、バカ社長が思い切り吹き飛ばされた。

 壁に激突して骨の折れた音が、その場に鳴り響く。


「……仲間じゃなかったのか」

「違うわ、能力を奪う為の駒の一つ。彼の資金援助は随分と助かったわ」


 不敵な笑みを浮かべる。……油断しろ、その一瞬で燃やし尽くしてやる。


「真弓さん、どうしてあなたはこんなことを!」

「ミリアさん、いや、ミリア。私はね、常々バカにされてきたのよ。わかる? 元々私は素晴らしい能力だと言われていた。けれども新しい探索者が増えるたびに、お荷物扱いされた。あなたは知らないでしょうけど、探索委教会の中にも酷い奴らはいっぱいいるの。私は許せなかった。それである日、能力を奪う術を手に入れた」


 キラリと、胸元のネックレスが光る。

 今まで見えなかったのが、何かで隠していたのか。


「それは……吸収の魔法具!? 厳重に保管されていたはずよ!?」

「ふふふ、いいでしょ? これを盗むのに十年以上かけたんだから」


 吸収の魔法具とは、政府が管理している魔法具の一つだ。以前、ミリアがそれが奪われたのではないかと懸念していた。

 だが真弓は政府に問い合わせても管理は問題ないと言っていた。

 おそらくその時から情報を規制していたのだろう。


「これで私の目的は達成した。奪ったスキルは100以上、更に現役最強と呼ばれたS級の能力も! 最後に貴方たちの能力を奪って海外にでも飛ぼうかしら。いいスキルを持ってる人がいるのよねえ」

「そんなこと――させない!」

「――おもち、今だ!」

「ピイイイイイイイイイイイ」


 ミリアの声に合わせて俺が叫ぶと、おもちが上空から炎のブレスを放った。その光景には真弓も驚いて空に視線を向けると、斥力を使って炎を弾き返そうとする。


 俺たちは動けるようになり、左右に分かれて駆けだす。ミリアから凄まじいほどの魔力が漲り、氷のつららのが身体を囲むように形成されていく。

 その矛先が、真弓と大勢の魔物に放たれた。


「ギャアギイイイ!!」

「グガアアアアアアアギ!」

「ゴギガアギ!」


 氷が魔物たちの身体に突き刺さると、痛みで叫び出す。


 だが――驚いたことに、真弓には魔法防御で弾き返された。

 いや、俺は知っている。このエフェクトは――氷耐性


「ふふふ、何のために時間をかけたと思ってるの?」


 視線を俺たちに戻した真弓が、ミリアを思い切り弾き飛ばす。その速度は身体中の骨が砕けるほど。

 俺は炎の剣を納めると、急いでミリアを受け止める為に駆けた。


 受け止めることはできたが、勢いがすさまじく二人とも壁に激突してしまう。


「きゃあっがあっ――」

「くッッッ、があっ――」


 それからゆっくりと力を振り絞って起き上がる。


「ミリア、大丈夫か?」

「うう……」


 よく見るとミリアの身体はボロボロだ。この戦いの前にも酷くやられたのだろう。

 悔しい気持ちが、心の底からこみ上げる。


「ごめんなさい……セナを……助けてあげて……」

「……大丈夫だ。後は俺に任せろ」


 そしてミリアは意識を失った。普通に戦えば負けるわけがない。

 だが真弓はいくつもの罠を仕掛けてきた。人の善意に付け込んだ最低な手法だ。


 俺は再び、炎の剣を構える。


「お前は絶対に許さない」

「あら、お褒めの言葉ありがとう。でも、あなたの能力は知ってるのよ。炎耐性(極)水耐性(極)、それに爆破耐性(中)。外で田所が力尽きていること、佐藤がグミに乗せられて向かってくるまで後七分足らずだってことも」

「……はっ、どれだけ調べてるんだ?」

「私がどれだけこの計画に時間をかけたか知らないでしょう。フェニックスの存在は予想外だったけれど、軌道修正は得意なの」


 両手の平を翳し、尋常じゃない魔力を漲らせた。

 いくらこいつでも、佐藤さんが現れるまでに決着をつけたいってことか。


「どれだけ早く動いでも無駄。私には完全追尾スキル、絶対命中スキル、完全回避スキル、そのほかにも無数のスキルがあるわ。外さないし、貴方の攻撃は当たらない」

「そうか、ならやってみるか」

「そのほうが早く終わって助かるわ。――さよなら」


 手の平から、引力の魔力が放たれる。

 以前、雨流の攻撃を食らっていたおかげだろうか、黒い塊が、魔力が、視覚化されて見える。

 同時に上空のおもちが俺に呼応して動いた。


「ピイイイイイイイ」


 手加減一切なしの炎のブレス、おもちの魔力はこれで尽きるだろう。真弓は両手の平を天にかざす。


「これを防げば終わり。魔物たち、私を守りなさい! 彼らは炎耐性を持つ魔物、貴方の攻撃は通じない」


 大型の魔物たちが、真弓を守るように囲む。赤い魔物ばかりだ。言う通り、炎の剣の攻撃は通らないだろう。


 ――そんなこと、気づいてたがな。


「高けえ買い物はしとくもんだなぁっ!」


 ポケットから取り出してある物・・を投げつけると、魔物が興奮して真弓から離れていく。いや――追いかけていく。


「な!? ありえない!? 魔物あなた達、どこへ行くの!?」


 引力魔法が後ろから追ってきているが、それよりも早く攻撃をぶち込めばいい。

 おもちが作ってくれた千載一遇のチャンス、真弓の無防備な身体に――炎の剣を――突き刺した。


「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。――――なーんて、びっくりしたけど、無駄」


 だが真弓が幻影のように消えた。

 後ろから追ってきた引力魔法が俺にぶち当たると、もの凄い衝撃で地面に倒れ込んでしまう。


完全幻影パーフェクトイリュージョンを取っておいてよかったわあ」

「がああああっっっっ!!!」


 少し離れた場所から、真弓が姿を現す。

 俺の身体にのしかかっている重さが鋭く、重くなっていく。真弓は、魔物たちを見ながら笑いだす。


「あははっ、予想外だったわ。何、あの鳥の魔法具、どこで手に入れたの? 魔物たちが夢中じゃない。いい代物ね」

「があああっぐうっあああああああああっ」

「あら、もう会話すらできない?」


 苦しい、息が出来ない――。


「ピイイイイイイイイイ」

「あら、魔力が尽きても健気ねフェニックスね。あなたは殺すと厄介なのよ」


 上空から力の限り滑空してきたおもちが、地面に叩きつけられる。フェニックスは不死身で復活すると強くなる、その性質を理解しているのだろう。

 殺さずに動きを止めた。力が――入らない。


「阿鳥、あなたはペラペラになって死ぬの。――さようなら」


 身体中の骨が折れる音が木霊する。痛い、痛い、痛い、痛い――そのと心臓の奥に何かがドクンと動いた。


 ……あの時と同じだ。死と能力が、混在して交じり合っていく。


『――スキル――習得の――可能です』


 心臓が止まりかけた瞬間、アナウンスの断片が聞こえた。


『――承認―しま―か――?』


 死死死死死死死死死死……答えは……イエスに決まってんだろうが!


『承認。重力耐性(極)を習得しました』


 俺の身体から重力が消えていく。炎の剣を支柱にして、ゆっくり立ち上がった。

 真弓は恐怖で顔を歪める。手の平を翳して、何度も魔力を俺にぶつける。


「ど、どういうこと!? な、なんで効かないの!? たかが炎耐性の癖に!」


 重力魔法が俺に当たるたびに、身体にしみこんでいく。


『承認。重力を”溜込”することが可能になりました』


「なんで、なんでなんで、そんな、ありえない! ――わかったわ、これならどうよ!」


 真弓は、稲妻のような雷魔法を手の平から放出した。


『承認。雷耐性(極)を習得しました』


「嘘、ありえない……ああああああああ! なんで、なんで、なんでよ! だったら、貴方のスキルを奪ってやる! なんで……ああああああああああ!」


『承認。吸収耐性(極)を習得しました』

『承認。斬撃耐性(極)を習得しました』

『承認。銃撃耐性(極)を習得しました』

『承認。風耐性(極)を習得しました』

『承認。土耐性(極)を習得しました』

『承認。光耐性(極)を習得しました』

『承認。闇耐性(極)を習得しました』

『承認。毒耐性(極)を習得しました』

『承認。弓耐性(極)を習得しました』

『承認。氷耐性(極)を習得しました』


 脳内のアナウンスが鳴り響き、もはや真弓の声は聞こえない。


「嘘、嘘、嘘、なんでやめて、止めなさい、離れなさい! あなたの能力もしかして――完全状態無こ――」

「これで終わりだよ、てめえは!」


 俺は炎と水を爆破させないように柄に漲らせた。それは二つの渦が綺麗に重なり合っているかのようにみえるが、触れてはいない。

 炎の力を持ち、鋭利な水の鋭さを兼ね備えている。

 

 勢いよく切りつけると、吸収の魔法具は粉々に砕けちる。すると、光と共に魔力が飛び出した。

 天空へ降り注ぐが、その一部が、雨流の体に入っていく。おそらくだが、能力が元に戻ったのだろう。


「がああああああああああああああああああああああああああ」


 真弓は醜い叫び声を上げて、地面に倒れ込む。

 殺してはいない。色々と吐かせることもあるからだ。


「……はあ……つ……か……れ……」


 その場に倒れ込みそうになったが、どこからか現れた田所が俺の身体を支えた。

 地面が土で汚れているところを見ると、魔力が尽きた後も、身体引きずってきてくれだろう。

 同時に、おもちが駆け寄ってくれる。


「ぷいにゅう……」

「はは、田所、ありがとうな。おもちも」

「キュウキュウ」――「がう!」


 そのとき、グミの叫び声が聞こえた。

 同時に佐藤さんの魔力も感じる。


「阿鳥様!」


 だがもう起き上がる元気はなかった。

 最後の力で真弓のことを伝え、そして鳥の魔法具をずっと追いかけてる魔物たちの後処理、雨流とミリアを頼んだ。


「ダメだ、もう意識が……」

「大丈夫です。後は私に任せてください。――そしてミリア様、セナ様を守ってくださってありがとうございます」

「ああ……」


 全ての精神を使い果たして意識を失う瞬間、御崎の声が聞こえた。

 どうやら俺を心配して急いできてくれたらしい。


 まあ、頑張ったよな。


 だから、今は……眠らせてくれ。


 最後に、真弓の言葉を思い出す。


 「完全状態無こ――」


 あいつ……何を言いかけてたん……だろ……うか……。



 山城阿鳥。

 取得能力スキル、炎耐性(極) 水耐性(極)

 New:爆破耐性(中⇒極) 雷耐性(極)吸収耐性(極)斬撃耐性(極)銃撃耐性(極)風耐性(極)土耐性(極)

 光耐性(極)闇耐性(極)毒耐性(極)弓耐性(極)氷耐性(極)重力耐性(極)



 ―――――――――――

 【 お礼とお知らせ 】


 盗賊バンディード編、完全決着しました!


 次回は掲示板で、そこからはのんびりスローライフ? になります!

 配信もたっぷりあるので楽しみにしてもらえると嬉しいです(^^)/


 そしてえげつないほどの耐性を習得した阿鳥。

 今後はどうなるでしょうか。


「阿鳥、よくやったあ!」

「耐性持ちすぎ……じゃね?」

「この話の続きがまだまだ気になる」


そう思っていただけましたら

ぜひとも、フォロー&☆で応援をお願いいただけますでしょうか?


★ひとつでも、★★★みっつでも、大丈夫です!


現時点での評価でかまいません。

よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る